第3話 光ちゃんだから、なのかな

「――それでこれがAriNa五周年記念で出したパーカーで、黒地にカッコいいアリナのサインがお洒落にデザインされてて、落ち着いた感じだから普段使いも出来るし、飾っても良し!着ても良し!な、優れ物なの!!」


「へー」


 光を自室に上げて、AriNaの魅力について全力で語る菜由。


 最初はどこか嬉しそうに聞いていたが、語り始めて三十分が立ち始めた頃から光は聞き流しながら、まるで展覧会でもしてるのかと思う程所狭しと飾られているAriNaグッズを眺め出した。


 たまに見慣れないグッズを手に取り「……こんなの作ったかな」と菜由に聞こえないくらいの声量で呟きながら散策していると、棚に飾られている一体のフィギュアに目が止まった。


「これ……」


 茶髪ロングでアイドル衣装の少女がマイクを持って躍動的に踊っているような、そんなポーズをしていて、サイズは小さめの水筒くらいだが、かなり精巧に作られている。


 出来もそうだが、何よりそのフィギュアの雰囲気がかなり光に似ていた。


「あ、それは……」


「わっ!?びっくりしたぁ」


 さっきまでベッド付近をウロウロしてはずの菜由がいつの間にか真後ろに立っていて、思わず小さく跳び上がってしまう。


「このフィギュア、ちょっと恥ずかしいんだけど……実は自分で作ったんだ。個人的にフィギュア作れる所に行って、AriNaのメインボーカル兼作詞作曲を担当している、AriNaの顔とも言うべきお人であり私の大好きなアーティストのアリナをイメージして作ってみたんだよね。お姿見たことないから、全然違うかもしれないけど」


「これ……誰か参考にしたりした……?」


「ううん。完全に想像で……あれ?そういえばちょっと光ちゃんに似て……?」


「……うん。すごく似てるね」


 光は自分によく似たフィギュアを愛おしそうにそっと触れてから、「よくできてる」と菜由に笑顔を向ける。


「そ、そうかな……?えへへ……じ、実は中々満足いくものが出来なくて何回も作り直したんだよね……だ、だからその、自己満足だったんだけど……褒められたら嬉しい……でしゅ」


 もじもじと指を弄りつつ、照れ笑いながらそう言う菜由に光は優し気な笑みを浮かべたまま近付く。自然な動きで菜由の背中に手を回し、自分の方へ抱き寄せてさらりと頭を撫でた。


「ひっ、光ちゃんっ!?」


「ほんと~~~に、菜由は昔からずーっとかわいいね」


 菜由は慌てたように暴れていたが、適度な強さで撫でられると脳の奥の方がゾワゾワして、でもそれは不快なものではなく寧ろ心地よいもので。


 気付けば菜由は光の体に体重を預けて、自分の方から頬を光の首筋に擦りつけていた。


 あぁ……人肌ってこんなに気持ちがいいんだ……それとも、光ちゃんだから、なのかな……。安心する。


 安心したら、AriNaが来年には解散してしまうと言う事実が再び脳内をよぎり、鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなってくる。


「でもっ……でもぉ……AriNaっ、解散しちゃうんだぁ……まだ一年ある……けどっ……私の……大好きなバンドでっ………私の生きる希望だったのにぃ……」


 ズズっと鼻を啜りながら泣き出してしまった菜由の頭を、光は静かに、ただ静かに撫で続けるのだった。

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