第2話 監視任務

 銀嶺山に向かう途中、野営している集団に出会いました。人数は四人でした。


 聞き耳を立てると、先行して偵察に向かった者が帰ってこないと心配していました。私は闇に紛れて、それを聞いていましたが、驚いたことに、その者たちは山狩りをすると言い出しました。


 困りました。

 大騒ぎされたくありません。


 それに彼らの標的はどうやら、山賊のようです。

 私の目的とは違っているようでした。


 恐らく、その山賊とやらにその一名は殺されたのでしょう。


 シドさまが?

 ……いえ。そうは思いません。

 私の持っている情報では、シドさまは無闇に人を殺めないと聞いています。


 違う人物、恐らくはその山賊に殺されたのだろうと推察します。

 その戻ってこない一名が偵察任務でなく、単独で賞金稼ぎに走った場合でもない限り、かの方は手をお出しにならないでしょう。


 私のミッションは、……はい。これは万一捕まった時でも、お教えして、差し支えないと、我が主から伺っています。


 標的の監視です。


 ただし指示や状況によっては暗殺任務もあると。はい。暗殺任務です。しかし、それは我が国に不利と判断された時点のみの実行です。


 それ以外は、目的のためであれば、臨機応変に、私の状況判断でことを為せと。

それゆえ、この山狩り集団の排除と、どこかにいるのであろう山賊の排除が加わりました。


 我々は場合によっては、かの方の暗殺を検討することになりますが、安易に殺させるわけにはいかないのです。


 はい。四名とも、私が始末しました。

 いえ、そんなたいしたことではありません。その日は闇夜でしたので。

 皆さん、痛みを感じた頃には、死ぬしか選択肢がなかったと思います。


 誰にも見つからないように穴を掘り、四名とも、地中に隠しました。

 この山には野生動物の気配がありましたので、匂いを消すためにやむを得ず。


 返り血は、川で洗い流しました。


 はい。秋の川は冷たいと思いきや、あそこの川は存外に温かかったです。

 もちろん、もし凍るほど冷たくても、我々は、そのようなことでは怯まない訓練を受けています。


 目標の丸太小屋はすぐに見つかりました。

 銀嶺山に住んでいる人間は、三人でした。


 はい。おっしゃる通りです。暗殺に来たわけではないのです。

 私は川を挟んだ遠くの場所から監視を続けました。

 そこには既に誰かに殺された死体がありました。心臓を矢に射抜かれていました。


 やはり山賊がいたのでしょう。

 仕方がなく、夜に紛れて、その死体を川に沈めました。

 私の監視任務とは、彼との接触を試みる者の調査と、彼の害意の存在、そして内乱の可能性の調査でした。山賊については何も。先の四人も偶発的です。


 事前の報告では少年と二名で暮らしていると。


 ところが、実際には、少女と、もう一名、病気のエルフと暮らしていました。本国の情報もアテにならないのは、どの国も同じでしょう。


 はい。おっしゃる通りです。

 屋根裏に潜むことくらい、造作もありません。


 ただエルフは厄介です。彼らは耳がいいので、心音すら聞き取ってしまいます。


 なので、屋内に侵入するのは諦め、最初は壁に耳をつけて聞いていました。


 標的たちの会話を盗み聞きしていましたが、どうやらこのエルフは、シドさまの……いえ、やはり私ごときが「さま」を付けるのは、返っておこがましいかもしれません。『かの方』といたしましょう。


 かの方の話では、このエルフは西エルフの生き残りとのこと。

 ええ、西エルフがまだ生きていると。


 このエルフはどういうわけか、毒を浴びたということです。

 詳しい話は聞きにくかったのですが、……いえ、そういうことではなく、私の耳はいいのですが、病気のエルフのいびきがかなりうるさくて。……まるで喉の何かが破壊されたような、壮絶な酷いいびきでした。

 はい。三日間、ずっとエルフはいびきを掻いて寝ていました。なので、その間、屋内の会話内容を盗み聞くのは諦めました。


 ただ、我々が警戒している人物の中で、ヴィマル以外が、この山荘を訪れたことは無い様子でした。ヴィマルとは『槍のヴィマル』です。ヴィマルは監視対象外なので、もしも出現したら暗殺していたと思います。


 ……いえ。勝てると思います。

 あの魔槍は確かに厄介ですが、こちらは飛び道具がありますので。

 ……そうです。


 監視、及び暗殺の目的は、かの方が、どこかの軍に所属しないことを目的としています。

 アルディラ王国に復帰されても困りますが、他の国に亡命されても困ります。

 それくらい、かの方を我々は恐れています。いえ、我々だけではありません。

 それはどの国も同じでしょう。失礼ですが、あなた方、アルディラ王国ですら、そうでしょう?


 ……出過ぎたことを言いました。失礼をお詫びします。

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