アルディラ重要犯調書 四百十八 クノイチの証言

第1話 クノイチ

 ……依頼主?

 いえ、言えません。それだけは言えません。


 私は……アサシン失格です。


 監視対象、いえ暗殺対象に敬意を抱くとか、本来あり得ないことなのです。

 どうぞ煮るなり焼くなりしていただければ。

 私は使い捨ての駒です。失敗したアサシンなんて……。


 シド・スワロウテイル。髪を後ろに束ね、無精髭。年齢は三十代半ば。


 それ以上の情報は暗殺に不必要です。いえ私は暗殺をしに来たわけではないのです。暗殺も辞さずというだけで。


 傭兵王?


 もちろん、存じ上げておりました。傭兵王。アルディラの盾。封竜伝説の男。アルディラ流剣術の創始者。IH魔法陣の発明者。チュウニビョウのシド。


 アルディラだけでなく、周辺国にまでその名は轟いています。


 ですが、これだけは信じていただくしかないのですが、私も、私のあるじも、かの方を殺したいわけではないのです。


 ……いや、信じてもらえなくても仕方がありません。


 私は、所詮、路傍の石程度の存在でしょう。

 正規兵の一兵卒よりも格下です。アサシンは、そのようなもの……いえ、もし許していただけるのであれば、あの方が付けてくれた、「クノイチ」という職を名乗らせてください。


 ……クノイチが一人死んだところで、この情勢が変わることはないでしょう。


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