朝食だ!!
それから、僕とアユハの共同生活が本当に始まった。
僕の不安になると何も出来なくなるくらいの臆病さが、逆にアユハとの共同生活において上手く折り合いをつける事ができている気がする。
特に洗濯物に関して、アユハがどうでもいいと言っていたのを僕が説得するのに時間がかかった。
普通に恋する乙女よ、そんなどうでもいい事ではないだろう。
今日来たとは思えないくらいに馴染んでいるアユハの振る舞いは、どこか子どものようで、歳も離れているせいもあってか娘みたいな感覚を少し抱いている。
それでも普段の飄々とした様子は自立した大人のようで、それがまた彼女を表しているのだとふと思う。
初日はあえなく終わって、翌日。
普通に平日だからアユハも大学があるだろう。
今は六時。
大学時代と比べると随分と早い朝だ。
僕は慣れた手つきで朝食の用意をする。
一人分の皿を用意してふと、アユハの存在を思い出す。
昨日の夕食、あの光景がフラッシュバックする。
アユハがいつ起きてくるかは分からないが、僕はアユハの分の朝食も用意する事にした。
トーストだけは彼女に頼むしかないので、置き手紙を書いて昨日アユハが座っていた席の近くに置く。
その行動の奇妙さに内心ほくそ笑んで、僕は家を後にする。
♯
慣れない方角からの朝日が眩しくて目を覚ます。
目を開けると知らない部屋、いや、昨日から私が住む事になった家の一部屋。
スマホで時間を確認すると、十時すぎ。
今日は大学の講義が昼だからもう少しだけ寝たかったが、妙に目が冴えてしまって寝ようにも寝付けない。
仕方なく一階のリビングへ向かうと、テーブルに朝食が準備されているのに気付く。
朝食だ!!
昨日からホテルのようなもてなしでテンションが上がっているのは確か。
プレーンの食パンの隣に置かれた紙にメッセージが書かれている。
『おはようございます。朝食を用意しておきました。食パンはオーブンを使ってください』
丁寧な字で書かれた置き手紙。
私はそれを読んで、丁寧に四つ折りにしてからゴミ箱に捨て、オーブンで食パンを焼く。
オーブンの場所が分からなくて見つけるのに三分くらいかかったのは内緒。
朝食を食べて、後片付けをして、ちょっとダラダラして、身だしなみやらいろいろ整えて、大学へ向かう事にする。
彼は仕事で先に出掛けているんだろう、家の鍵はどこにあるのか。
……。
ない。
彼に連絡を……。
……。
連絡先、知らない……。
♯
「すみません。わざわざ作っていただいて」
テーブルに並べられた料理の数々。
僕が家に帰ってきた時にはそれらはもう綺麗に盛り付けが施されていた。
聞いてみるとアユハが作ってくれたらしい。
部屋着を腕捲りしているその姿が急に大きく見えてきた。
「あぁそれと、鍵の事もすみません。あなたがいるから鍵を閉めなくてもいいということで頭が一杯で」
「あとラインもね」
「そうですね。連絡手段がないせいで、迷惑をかけてしまいました」
アユハは今日ある予定の講義を休んだと話した。
僕も鍵をポケットに入れたまま仕事に行ってしまった。
アユハに感謝の言葉を伝えて、また続けて話す。
「鍵は分かりやすい場所に置いておきます。それと連絡先も交換しましょうか」
「うん」
連絡先を交換して、二人で食事をする。
確かに目新しくて、でもどこか腑に落ちるような感覚があるのが不思議だ。
家の中に僕以外の誰かがいるという状況は何年ぶりだろうか。
そんな事を思う余裕が生まれてきたのが、アユハとの共同生活二日目だった。
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