第九話

クリスフォード公爵家に嫁いできて五年。私は二十二歳、レイは十二歳になった。

今はやっと落ち着いて、平穏な日々を過ごしているが、この五年間、本当にいろんなことがあった。


まず、クリスフォード家の親戚のアポ無し突撃。叔父やら従兄弟やらはとこやら、まだ幼いレイを懐柔して裏で操ろうなどと思ったのか、延々と自分の有能さ(自称)を語ってきたり、贈り物をよこしてきたり。私とお義祖母様が追い返したり、送り返したり、脅s…注意勧告をしたりして、一年くらいかかってやっと諦めてくれた。


次に、国王が代替わりしたのだ。国王陛下はいまだご存命だけれど、早々に表舞台からの退いて、王妃様と王家の領地でまったり過ごしたいらしい。

今は第一王子が後を継ぎ、国王として采配を振るっている……のだが、それでなにが大変だったかと言うと、国王の代替わりに伴う、大幅な政治改革に合わせるのが大変すぎた。前国王は良くも悪くも保守的で、これまでの慣例を守っていくスタンスだったが、新国王は違った。次々と慣例を破り、これまでの法を、文化を変えまくった。

結果的に国は繁栄したものの、二年前は、レイもまだ勉強中で、お義祖母様も政治はあまり詳しくなく、私が公爵代理として仕事をこなしていた。碌な経験もないのに次々と変わる時代についていくのは本当に大変で過酷だった。しかし、死に物狂いで働いたおかげで、今もクリスフォード公爵家は安泰である。ほんっと頑張った。


何よりの事件は、昨年お義祖母様が亡くなったことだろう。優しく、本当のお祖母ちゃんのように接してくれて、時には私の相談にも乗ってくれたお義祖母様。病気に罹り、痩せ細ってしまった状況でも、最後まで私たちを案じてくれた。亡くなってしまった時は、本当に悲しかったし、一か月は引きこもってしまった。本当に、本当に、いい人で、今世ではロクデモない父親しか家族という記憶しかなかった私に、暖かい家族を教えてくれた。優しい人。







「お義祖母様が亡くなって一年、か。時の流れは早いこと。悲しんでいたら一年も立っているんだもの」

「そうだね。今週のうちに墓参りに行こうか」

「えぇ」


今はフリータイム。私達は朝食を食べ終わったあとはいつもこうして、紅茶を飲みつつ談笑している。レイは、五年前から身長も伸び、随分と大人びた口調で喋るようになった。昔は背伸びしている感があったけれど、いつしか自然と大人っぽい行動をするようになり、今では新聞なんて読んでいる。成長したなぁと思うと同時に、少し寂しくもある…なんて年寄りっぽしかしら。


「あ、大公閣下が離縁されるらしい」

「え?」


今日の新聞に目を通していたレイが、少し驚いた様子でそう言った。

学園を卒業後、アルフ…王弟殿下は臣下降籍し、大公となった。そして、隣国との関係強化のため皇女様と結婚した。政略結婚で結ばれたものの二人の関係はとても良好で、傍目から見てもとても仲が良い。幸せそうだったのに…


「離縁されるの?あんなに仲が良かったのに?」

「うん。隣国の皇帝と皇太子が流行病に罹って逝去されたって記事が何日か前にあっただろう?そうしたら、現在直系の後継者が大公妃しかいなくなったらしい。定位を継ぐために離縁して隣国の帰るそうだ」

「そっか…」


大公妃とは何度かお茶会でお会いしたことがある。可愛らしい顔立ちをしていて、容姿だけ見ればとても同い年とは思えなかったけれど、頭の回転が早く、機転が効く方だったと言う記憶がある。お友達…とまでは行かなかったけれど、国際政治や流行のお話でとても盛り上がった。今度展覧会にお誘いしようかと思っていたから、残念だ。


「大公夫妻、あんなに仲が良いと言われていたのにな」

「世の中、なにが起きるか分からないわね」

「あぁ」

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