第五話

「リシュエンヌ嬢!あなたが王弟殿下と婚約していることはわかってるが!俺はあなたが好きなんだ!だから、俺と付き合ってくれ!」

「は?」


いきなりのことに私は困惑を隠せない。開口一番に告白もどうかと思うけど!と言うか、絶対さっきの告白聞きながら待ち伏せいてたな!?それにアルフレッド私が婚約しているってなに!?


「ちょっと待ってください?私がアルフレッ…王弟殿下と婚約しているとはどう言うことです?」

「え?婚約者って王弟殿下ではないのですか!?だってあんなに仲睦まじい…え?」


どうやら、私に婚約者がいると言うのが広まると同時に、その相手がアルフレッドであると言う噂が流れているようだ。一体何をどう勘違いしたらそうなるのだ。明らかに釣り合ってない。


「私の婚約者はクリスフォード公爵家のレイモンド様です。王弟殿下とは友人として仲良くさせていただいておりますが、そう言った関係ではございません」

「な、なるほど」


そう言いながら、この噂をどう否定しようか、頭を抱えるのであった。

☆ ☆ ☆

「へぇ。そんなことがあったの?やっぱり『妖精姫』はモテモテね」

「あなたも人のこと言えないでしょう。『氷の薔薇姫』」

「あら、私はこの婚約者様がいるから誰一人告白なんかしてこないわよ?」

「だったらどうして私はこんなに…私にだって婚約者がいるのに」


その日の放課後、私の話をお茶を飲みつつ聞くのは、アリアドネ・インフォード侯爵令嬢。第一王子にめちゃくちゃ溺愛されている婚約者で、異性に対する塩対応が原因で『氷の薔薇姫』とも呼ばれる私の従姉妹。学園三大美姫の一人でもある。同い年の従姉妹ということもあって、親友と一緒によく相談に乗ったりもしてもらっているのだけれど…


「一応聞きますが、どうして殿下がここにいるんです」

「しばらく、公務でアリアに会えなくなるからな。チャージしておこうと思って」

「しばらくと言っても三日だけでしょう。エリオットは大袈裟すぎなの。はい、さっさといってらっしゃい。邪魔しないで」

「やだ」

「やだじゃない!」


アリアドネと親友と話をしていると、五回に一回ぐらいは第一王子がついてくる。いくら婚約者命みたいな人でも、女子会に入ってくるのはどうかと思う。

そして、どちらかと言うとキツめな美貌を持つ第一王子が婚約者に子供のように扱われている様は、何度見てもなかなかシュールである。


「で、最近リシュエンヌ嬢の婚約者がアル兄…叔父様だって噂が流れてるんだっけ?」


なんの遠慮もなく会話に参加しているし…


「そうらしいです。一体何をどうしたら勘違いが起こるんでしょうね?そして?なんで王弟殿下とこんな血筋だけの貧乏伯爵令嬢が婚約していることをみんな普通に受け入れて、噂が広まってるのか不思議でなりません」

「あなたそれ本気で言ってるの?」

「自覚なしか…」

「どう言うこと?」


私がそういうと、アリアドネも第一王子も呆れた目を向けてきた。何にも間違ったことは言ってないのに。


「17にもなって婚約者どころか恋人もおらず、女性には一歩引いている叔父が、そなたとは親しく接するからな。叔父とそなたが並ぶところは実に絵になっていたし、お似合いだった。俺もこのまま婚約するものだと思っていたが、的が外れてしまった」

「そうよ。私だってリシュエンヌがクリスフォード家と婚約したって聞いて驚いたもの」

「実際は勉強の話ばかりなのに。ただの友達のはずなんだけど」

「満更でもないくせに」

「説得力が1ミリもないぞ」

「そんなことありません!」


相変わらず涼しい顔してお茶と啜るアリアドネと、彼女の髪を弄りながら語る第一王子、この二人には(第一王子については勝手に参加してきた)アルフレッドについてもよく相談していたので、私の恋心は知られているので、否定は無駄な抵抗なのであった。









そんなハプニングもありつつも、一生思い出として残るであろう楽しい三年間は、あっという間に過ぎ去り、ついに卒業の日がやってきた

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