第二話

翌日、私は重たい足を引きずって学園に登校した。


サン国立学園。貴族の令息令嬢のための学習の場として造られ、どの学科もレベルが高く、1000年という歴史を誇る名門学園。貴族の子が13歳から17歳までの間、寮に住みながら通い、この学園を入学試験を通過して、卒業できれば一人前の貴族として認められる。


今日は得意な歴史の授業もあるし、しばらく家の都合で会えていなかった友達にも会える。楽しいはずだ。だけどその楽しみを吹き飛ばしてしまうのは、昨日の私の行動で…


(呼び出してしまった)


彼に告白するつもりで、今日中庭で一緒にランチをしようと誘ってしまったのだ。こんな誘い、今までだったら絶対しなかったから、彼は何かあることは察しただろう。


(何やっているのよ!昨日の私!)


二年前から彼が好きで、あと二ヶ月で学園を卒業してしまうことに焦って、告白しようとしていた。それがたとえ失敗したとしても、どうせ学園を卒業したら、貧乏伯爵令嬢と王弟が会うことなんてない。だから告白してしまおう、と思っていた。


「おはよう。リシュエンヌ」


どうやって誤魔化そうか考えていると、当の本人がやってきた。


アルフレッド・サン。現国王の歳の離れた弟で、私と同じ17歳。王族特有の濃い金髪と夜空を溶かし込んだような濃紺の瞳を持つ美青年であり、成績は常に上位で、毎回テストで主席と次席を争う好敵手ライバルでもある。


「おはよう。アルフレッド」


そう言って振り向けば、いつも通り優し気な微笑みを浮かべた彼がいた。横を通り過ぎていく女子生徒がチラチラと彼を見ている。相変わらずの人気ぶりだ。


「昨日は伯爵に呼び出されたと聞いたけれど、大丈夫だった?」

「えぇ、まぁ、色々あったけれど、大丈夫よ」


嘘だ。ちっとも大丈夫じゃない。


「そう…良かった」


私の言葉に彼は嬉しそうに笑った。それがたまらなく嬉しい。たとえそれが、私が嘘をついた結果だったとしても。


(ごめんなさい、アルフレッド)


私の勘違いでなければ、昼休みにあなたのその笑顔を歪めてしまう。でも、伝えない訳にはいかないのだ。

この恋は、もう叶わないことが決まったのだから。

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