第一章
第一話
「リシュエンヌ、お前の婚約が決まった」
無駄に豪華な家具ばかり置いてある、目が痛くなりそうな書斎のこちらも無駄に豪華な椅子にふんぞり返っている男こと、私の父親であるルナ伯爵が嬉々とした様子で言った。
(は?)
普段なら絶対に私を自分の書斎なんかに入れないから何かあるんだろうなと思ってけど…そういうことか。賭け事や豪華なものに目がないこの男のことだ。大方支度金に釣られたんだろう。
「そう…ですか。ちなみにお相手は?」
うちみたいな貧乏伯爵家を援助してくれる物好きは誰なのか。最近勢いがあると噂の男爵かしら?でもあそこの当主って70過ぎてたわね…それとも金鉱で有名な伯爵家?でも当主に今奥様はいないけど、あの亡くなった奥様一筋と噂の伯爵が再婚の話を受けるはずないし…一体誰なのかしら。
「クリスフォード公爵家のレイモンド殿だ」
「え?」
予想外の人物に一瞬思考が止まった。
クリスフォード公爵家。我が国の建国時から存在する由緒正しい名門公爵家。最近公爵夫妻が事故で亡くなり、ご子息のレイモンド様が後を継ぐことになったと聞いたけれど…
「レイモンド様って、まだ七歳ではないですか!?私今年で17ですよ?」
「あぁ、そんなのわかっとる。なんでもあの公爵家は、公爵位を継承する時、継承者は結婚していないといけないという決まりがあるらしくてな。妻も婚約者もいないレイモンド殿で公爵位を継げず、傍系に爵位が行ってしまうことを危惧した前公爵夫人からの縁談だ。代わりに援助を約束してくれた」
ルナ伯爵はニヤニヤとそれはそれは嬉しそだ。今この男の頭の中は、嫁がせる娘についてではなく、賭け事でいっぱいなんだろう。おかげでうちは借金だらけ、今はなんとか先祖代々受け継がれる家宝とか絵画とかを売っているけれど、そろそろ売れるものは底をつく。この男に対する期待はとうの昔に消え失せているから、傷つくことはない。
「これは決定事項だ。反論は聞かん。学園を卒業した後すぐ嫁ぐように」
もう用済みだとばかりに、ドアを指差して言う。出ていけと言うことなんだろう。
「…かしこまりました」
貴族の娘に結婚の選択権はない。親に決められた相手に嫁ぎ、家同士の関係を強固なものにし、国の役に立つこと。それが、普段平民よりも豊かな暮らしをしている『貴族』のつとめ。今回の縁談も公爵家の血筋を守るため。文句は言えない。
パタン
書斎のドアを閉め、私は自室に急ぐ。
好きな人と結ばれたいなんて、我儘だ。
私だっていずれはあの男が決めた相手と結婚することは覚悟していたし、実際のお相手は良かった。でも…タイミングが悪い。
(明日、告白しようと思ってたのに…)
私の願いは、我儘は、一生叶わなってしまった。
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