本編 第一章 第2話 人よりも人
「逃げるって・・・今すぐ?」
「違うあくまで目的をやり遂げた後だ」
「そっか良かったぁ」
「なんでそんなにホッとしてるんだ?」
「だってここにはまだやり遂げていないプロジェクトもいっぱいあるしお客さんから預かったモノもたくさんあるから・・・」
「なるほど」
彼女はここ”蛇の巣”でジャンク屋を営んでおり修理も受け付けており懇切丁寧なことが大変な評判を呼んでいる。今やちょっとした有名人であり街の無くてはならない存在となっていた。
ここはアインヘッドの”蛇の巣”ではなく、ベッカ印の修理工房という名前で通っている。
「ベッカ様お店の戸締り完了しましタ」
「ありがとう!コルト
鋼鉄製の体を持つ一体のイムプロイドがやってきて修理工房の店を閉めたことを報告してきた。
「その名前にしたのか?」
「うん!かわいいでしょ!」
彼女はコルト
「お姉ちゃん終わったー」
「疲れたー」
「おなかすいたー」
「お風呂一番アタシー」
とコルト
「みんなお疲れさまーとりあえずお風呂入ってきちゃってー」
すっかり板についた姉御肌もしくは母親の風格は疲労たっぷりの少年少女たちを労いそして風呂へ誘導していく。
「なんだよ・・・また来てたのかよレユ」
「またなんか変なことにお姉ちゃんを巻き込まないでよね!」
「わかってるさ」
「お姉ちゃんも!こいつに付け込まれないでよね!ただでさえ断れない性格してんだから!」
「うっ!うんわかった・・・」
彼女たちも大きくなりいろいろと気が回るようになるとベッカの優しさや押し弱い性格を理解しているのか最近はいろいろと魅力的になった彼女に悪い虫が寄ってこないよう注意しているようだ。
つまり、その中で一番の悪い虫をいま必死に追っ払おうと試みているということだ。
「じゃあさっさと出てってよ!お姉ちゃんもコイツを甘やかしちゃダメだよ!それじゃあ今日のご飯当番あたしだからいくねー、コルト
と言いたいことだけ言うとコルト
「あはは・・・えっとごめんねぇーうちの子たちちょっとこの頃大人びちゃってさー」
「分かってる・・・気にしてない」
彼女はとなりに座ってくる。妙に近い気がするが気にしない。
「ありがとう。それでさ・・・話は戻るんだけどさ。廃棄街を支配するってどうするのさ?」
「手っ取り早く暴力で解決しようかと思っている」
「ぼっ暴力!ダメだよそれだとこっちだって報復されちゃうよ!あの子たちにも迷惑が掛かっちゃう!」
「分かってる。・・・だからここにはもう来ない」
「え・・・どうして」
「どうしてもなにも今ベッカが言った通りだ。迷惑が掛かるだから関係を切っておく必要がある」
ベッカは立ち上がり正面に立つと肩を掴んできた。彼女の着ているオーバーオールの胸元が開かれているため年頃の彼女の魅力的な部分が見え隠れしてしまっている。
「いや!それはあの子たちのことで私はっ──」
「大丈夫。これでいいんだ」
いつも元気で陽気な彼女から一変し、とても不安げなその表情を浮かべる。
「じゃっ、じゃああのプロジェクトはどうするの?二人で今までやってきた・・・」
「ああそれを今日終わらせようかと思ってる」
「終わらせる・・・」
「ああ最後の詰め作業が終われば完成だ」
「最後・・・完成・・・」
「どうした?」
うわの空になってしまった彼女の意識を戻すべく声を掛ける。
「えっううん!なんでもな・・・っい・・・っよ!」
その瞳には大粒の涙があふれていた。
「なんで泣いてるんだ?」
「だっでいなぐなっちゃうなんでざみしいよやっぱり」
「別に死ぬわけじゃないぞ」
「ぞうだけど」
「なら一緒に出ていくか?」
「えっでも・・・いまはここで生活できてて・・・それで」
「だろ。ならここでこの話は終わりだ」
「ちょっ──」
「いいんだよ。それよりさっさと始めよう」
湿っぽくなった空気を席を立ち作業所に向かうことにした。
────────────────────
ベッカと共同で進めていたプロジェクトとはイムプロイドの作成である。
二人で一緒にお金を出し合ってイムプロイドを一体買った。
そこから構造を分析し組み立てや素材を一個一個調べてようやくと把握した。
買ったイムプロイドはコルト
そしてようやくと今に至る。
「できたのは5体か」
「十分じゃない?」
「廃棄街を支配する6つ組織を倒すにはもっと万全を期したかったのだけどな」
「そっか・・・ならもう少し時間かけるみる?」
「いやこれでいく」
「・・・わかった」
ベッカの顔は不満そうな表情が浮かんでいた。まださっきを引きずっているようだ。
(まぁ・・・そう簡単に気持ちを切り替えられるタイプじゃないよなベッカは)
起動前のイムプロイドの最終調整のために情報を映し出していたスクリーンから目を離しベッカの方を向く。
「気が進まないなら僕一人でやるから休んでていいぞ。今日も一日働き詰めだった疲れているだろ」
「そんなことない。・・・やる」
「わかった」
調整作業を進める。5体のイムプロイドには特別な性能を搭載していた。それの最終調整のため鋼鉄の体の表面に刻印された術式が問題なく起動できる丁寧に確認していく。
これには術式読み取り用のコードチェッカーで一つずつ確認していくほかない。だから人手は多い方がいい。
「この国出て言ったら何やるの?」
「・・・人助けかな」
「ここではできないの?」
「できるとは思う。ただこの国はいっても豊かな方だ。この街もその恩恵を受けている・・・理不尽も多いがな」
「そうだよ!まだまだこの街は治安も悪いし、貧困が蔓延してるし、虐げられている人も多いよ。だからまだレユの力が必要だよ」
「・・・そうかもな。だが必要とされてなければただの迷惑だ」
「さっきの事やっぱり気にしてるの?」
「そういうわけじゃない。ただ・・・やっぱり自分の力が必要とされているところを探したい。それに・・・同じ場所に留まっているのも性に合わないんだ」
「やっぱり気にしてるんじゃん」
「・・・」
「・・・」
お互い作業を止めて目が合う。
「確かに・・・ハハ」
「そうだよ・・・フフ」
自分でも気付かぬ図星を突かれてしまい笑みがこぼれてしまった。
「うん!やっぱりほっておけない!」
「?」
「わたしもついてく!」
「ついてくってここの生活はどうするんだ。それにあいつらも」
ベッカは少しの間考えた。そして口を開く。
「あの子たちなら大丈夫!もう私無しでもやっていけるよ!」
「それは暗に僕が一人ではやっていけないみたいに聞こえるが?」
「そういうわけじゃないよ・・・いやそうかも!」
「おい」
「冗談だよ!へへへ」
作業は進む。
そしてすべての術式の読み取りを終えた。
「うんうん!刻印した術式に問題はなさそうだね!」
「そうだな・・・それじゃあ起動しよう」
レバーを引き各イムプロイドに幽子の光が魔力がケーブルを通じて流れていく。レムブロイドの鋼鉄の体に刻まれた術式の数々は光を帯びていった。
──プログラム起動──
「おはようございまス\(^ ^)/マスター 」
「おはようございマすヽ( ´¬`)ノマスター」
「おはようござイます(>□<)マスター」
「おはようごザいます\(^。^)/マスター」
「おはようゴざいます( ˙-˙ )/マスター」
同時の起動音に同時の起立。そのどれもが素早く角ばった動きである。
そして、それぞれの音声には少し抑揚の違いがあった。
「なにか入れたか?」
「へへへ・・・バレちゃったか」
「なにしたんだ?」
「だってみんな一律没個性なんてかわいそうだよ!だから」
「だから個性を持たせるために音声を変えたのか?」
「うん・・・いいでしょ?」
ベッカは上目遣いに許しを請いてくる。すると、
「マスターの意向に沿わないのであれば言語情報の一部を停止できます。いかがしますカ?」
体を流れるエーテルの幽子光の色が赤のイムプロイドが発する言葉の抑揚を調整するための案を提示してきた。
「いや・・いいそのままで」
「やった!」
「承知致しましタ\(^ ^)/」
どうやら喜んでいるようだ。幽子光の色に感情機能まで搭載してしまったらしい。
「どうせ個性を出すなら・・・見た目もかえたほうがいいな」
「?」
「(-_-)」
取り出したのは、流動白金属無精混合精霊つまりは液体金属のゴーレムの入った瓶だ。
「もともとは兵装の一つにするつもりだったんだが・・・これがあれば皮膚の代わりになると思う」
「・・・なるほど」
瓶の蓋を開けてイムプロイドに流動白金属無精混合精霊を掛けた。すると刻印が反応し張り付くようにして体全体に広がっていった。
「マスター、これで何をすればいいのでしょうカ?( ¯꒳¯ )」
「マスター、これで人を装えということだと推測しマす( ´ ▽ ` )ノ」
「マスター、どうせならドラゴンなどの大きな生物になったほうがカッコいいと提案シます(;`Д´)≡⊃」
「マスター、どうせなら機能性に優れた見た目ニしたいp(●`□´●)q」
「マスター・・・私ハそのままの姿が・・・イい(´・-・`)」
それぞれが個性を発揮し主張を口々に出す。
「任せる」
するとその声を合図にそれぞれ姿を変える。
赤い幽子光を帯びたイムプロイドは、その姿をまるで清廉な美女のようだった。艶やかな黒く長い髪を持ち、切れ長の紅い目をした凛とした雰囲気を持つ美女へと変わった。
「マスター、私はこの姿でいかせていただきまス」
黄色の幽子光を帯びたイムプロイドは、髪の毛をバチバチとして逆立たせた短い型でその目は大きく金色をしている。
「マスター、ボクはこれで人を装えているカな」
続いては青い幽子光を帯びたイムプロイド。深い海のような青い色の髪はかき上げられている。雲一つない大空のような色の挑戦的な眼をしていた。
「マスター、オレはこれでいい、いやこれガいい」
黒い幽子光を帯びたイムプロイドはきれいに切りそろえられた短髪に筋肉質な体を持った端正な顔立ちの男性になった。
「マスター、オレはふむ・・・これデ行こう」
そして最後白い幽子光を帯びたイムプロイド。未だ人間の姿に変わらずいた。
「マスターが任せるのであれば、此方はコれでいい」
「ダメですよ。我々はこれからマスター付き従うモノなのです。機械の体のままではマスターが警戒されてしまいます。ですk──」
「・・・やっぱリ姿変える」
最初に変身したイムプロイドが窘めている中で話そっちのけで別の方を見ていたい幽子光を帯びたイムプロイドは突然人間の姿になった。
「マスター、これニ合ってる?」
真っ白の肩まで掛かった髪に、白く光る瞳孔を持つ大きな瞳を持った少女となりこちらを見つめてくる。
「ああ・・・似合ってる」
そういうしかないような気がして言ってしまう。
「そう?良かッたマスター」
ほんの少し口角を上げてこちらを覗きこもむように見つめてくる。効果はあったようだ。
「・・・とても一瞬先まで鋼鉄の体をしていたと思えないな」
素直な感想を述べる。
「そうだね・・・コルト
「コルト
「うん!だってほかに使えそうな記憶がーってあれってことは!」
「ああ」
一気に空気に緊張感が走る。
コルト
「マスター安心してください。・・・私たちは敵対なんて考えておりません」
緋色の髪を持つイムプロイドはその胸に手を当て一歩前で出てきた。
とても液体金属で再現しているとは思えない肉感を思わせる。
「我々は感謝しております。私たちは鉄くずも当然のジャンク品だったはずです。それを修復どころか新しい機能を追加し個別の感情まで与えてくれた。それを感謝こそすれ敵対などあり得ません。ですから安心してください」
「そうか・・・まぁ感情を持たせたのはベッカだけどな」
「それにはベッカ様に感謝しております。ですが私たちの身体にはマスターの魔力が通っています。加えてこの体に刻まれた術式は貴方の物ですよねマスター!それが!私たちに備えられた感情機能をより高めているのです。ですからアナタさえよければマスターを慕わせてくださいませ」
「ん・・・いいのか?」
頬をとても高揚とさせながら迫る彼女から視線を逸らしベッカをみた。
「うんいいよ!あたしにはコルト
「わかった・・・これからよろしく」
「マスター!」
4人が同時に抱き着いてきた。残る一人白い髪をもつイムプロイドは隙間を見つけ背中から首筋に抱き着いてきた。
(さっきまで本当に鋼鉄だったのか?)
そう思わせるほど、触れた感触は人間そのものであった。
柔らかなモノを感じて、おもわず何か気がおかしくならないか心配になった・・・。
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読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字があるとおもいます。
お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。
また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!
併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。
良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、
面白いと思っていただいている点、
『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!
どうかよろしくお願いいたします!
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