序章 第14節


あの距離からどうやって生き延びたのだ!いやそれよりはどうやって吹き飛ばされたんだ!


ボウシャワ及びコルトワンは壁に激突し一身に受けて衝撃よりも今の現状によりも大きな衝撃が思考の中を駆け巡っていた。


(作戦は成功し、坊やどもを騙してターゲットに近付いた。そして至近距離で一発。作戦終了・・・そのはずが!どうなっている!)


だが・・・時は待ってくれない。


急いで立ち上がりプラン変更し脱出が最優先事項となった。


突然の悪寒。それは本来持ち合わせていないモノのはずだが確かに感じた。


────────────────────


何たる!何たる!この5年でなんと腑抜けたことか・・・。


人の手を借りなければならずその上裏切られて助けるはず危機を自ら招き入れた。


・・・情けない。


己に腹が立つ。腑抜けた己に、見誤った己に、他人に頼る己に・・・。


人は争いをやめられない。ならばこそ巻き込まれぬよう剣を取った。それでは自分以外守れぬと魔術を学んだ。一人の手では足りぬと錬金術を学び、傷ついた者を癒すため治療術を学んだ。


だが足りぬ・・・まだ足りぬ・・・今の我では到底足りぬ。


変化せよ、打破せよ、滅私せよ。


未だ足りぬのならばその体を捨てねばならない。


不甲斐ない自分を恨め、詰めの甘い自身を呪え、その怒りでその身を焦がせ。


「闘気練成、憤怒のけい


端的に言えば高温の熱を身に纏うモノ。より詳細にせつめいするのであれば闘気を限りなく一つの感情に練成しそれを武芸として扱う技術である。


その欠点は、その力があまりに強くその身を滅ぼしかねないということである。


エイレ・カレイナ・ラクシャータはいま目の前で起きている事実に驚愕していた。


先ほどまで母を求めてこんなところまで来てしまった幼き皇子が、今や筋骨隆々な青年へと変貌しそれに加えて”闘気”という武芸を極める者が発するに至るほどの圧を放っている。


(そしてそれはおそらく別の何かに変貌している。それがなにかわからない)


長年自分自身が剣を振り、高めてきた闘気がそれを超えるものに変化した事を感じ取ることができた程度であった。


だが皇子が敵の元へと迫ろうとしたことで口が開く。


「皇子!敵は我々が対処します!今は母君のおそばにいてください!」

「・・・ならぬ」

「!」


その低い声、当然と言えば当然であるが違和感をもつこともまた、当然である。


「此度の襲撃は己で招いたこと・・・なればその対処をするのもまた己でするべきだ」

「・・・ですが」

「エイレ卿」

「ハッ!」

「母を頼んだ」

「ハッ!」


皇子の纏う雰囲気はまさしく皇族に相応しい覇道のそれであり気づけば敬礼を向けていた。そして遠ざかるその背中を見つめていた。


まっすぐとその足はコルトワンに向かっていた。


「お前は何なんだ一体・・・」


その言動とは裏腹に迷いなくそしてすばやく構えられた指先から銃弾が発射された。


「笑止」


その纏う憤怒の気は迫る銃弾を熱で溶かし触れるその前に灰となって消えた。


眼前に迫り壁にもたれて倒れているその姿を見下ろしながら片手で上段の構えを取る。


当然その手には剣など収まっていない。が熱を帯びたその闘気は急激に高まり圧縮され一つの刃を化した。


その灼熱の刃が振り落とされる。その瞬間にコルトワンはその性能をいかんなく発揮する。


イムプロイド─ニューエイジ、これが彼の正式名称。イムプロイドシリーズは大陸の国々の軍事力を一手に担っていくはずのモノだった。


だがエーテル技術が現れその需要は瞬く間に覇権を奪われイムプロイド事業は縮小していった。その起死回生を図るべく開発されたのがイムプロイド─ニューエイジ。コルトワンをはじめとした人型兵器であった。


それでも時代の波には逆らえずあえなくプロジェクトは凍結し生産していたイムプロイドたちは廃棄されていった。


そのなかで開発用に生産されていたイムプロイドがコルトワンであった。彼は同胞がその役割を全うすることなく廃棄されていく状況を受け入れられず、イムプロイドを生産していた”賢者の石”と呼ばれるギルドを強襲し同胞を呼び起こし抵抗し始めた。


があえなくしてその革命の火は消され、コルトワンを残すのみとなった。


灼熱の刃が触れるその瞬間、エーテル技術に対抗するべく備えられたその機能を発揮したのである。


全機能フルオープン・・・起動。


倒れたその姿勢から搭載された錬金術の刻印が起動し強力な噴射機能によりその場を離脱し上空に飛んだ。


空を斬ったその灼熱の刃に触れた先は鋭く裂けそして深い赤みを帯びていた。


ここでコルトワン面制圧兵装を解放した。


(あの皇子を倒すには、領域制圧用兵器を一極集中させるしかない!)


錬金術の刻印を起動させる。コルトワンの内部で起動している刻印済みの紫結晶がフル稼働しそのエネルギーは火竜刻印に注がれる。そして集められたエネルギーは各兵装から放たれた。


それは、イムプロイド─ニューエイジに想定された戦闘状況の中で範囲攻撃を旨として設計された戦術。


すべてを灰塵と化すB,B.B爆撃である。


火竜刻印はその字面から受ける印象とは違い炎を吐き出す魔術刻印でなく、刻印済みの紫結晶がもつ力を純粋な破壊エネルギーに変換したモノでありその威力は”竜”に匹敵しうることから”火竜刻印”と名付けられた。


「それを一点に集中させたのだ!無事ではいられまい」


吹き荒れる爆風と巻き上がる煙の中で皇子のいた箇所を見つめていた。


これではダメなのだ・・・この体ではダメだ。もっともっと望むべくモノに変わらねば・・・。


「ところがどっこい・・・そうはいかぬのだよ」


そこから聞こえてきた低い声と共に迫ってきた人影は煙から姿を現した。


そこにいたのは黒く炭化した姿の皇子の姿であった。


「憤怒のけい、黒金剛」


体の内よりその憤怒を、外よりは怒りがその身を焦がしB,B.B爆撃のよる爆熱それに耐えるべく、黒く厚く甲殻を着こむがごとくその体を変化させた。


「袖の一振り、煌々物打ち」


両の手で構えたその紅く燃ゆる剣が振り落とされた。


そこに大きな鋼鉄の拳が間に差し込まれる。


「させるか!」


それはもう一人のコルトワン、アインヘッド統領ボウシャワの声であった。


だがその高温の剣は止まらない。そのままその熱い壁のような拳を斬り落とした。


当然その鋼鉄の手は高熱を持ち地面に落ちるとその周辺を溶かした。


その間にコルトワンは後方に下がり態勢を立て直す。


「助かった」

「当たり前だ、私たちは一蓮托生。死なせはしないさ!」


長年二つの体を操っていたことが、人格は分かれ元が同じはずが別の自己を持つに至った者達の意識は強くまた連携も良い。


前線を鋼鉄の巨人が、その後ろからコルトワンの遠距離攻撃が入り戦闘はしばし拮抗する。がすでに頑強なはずのその大きな体は熱に耐えられず形を崩していた。


「くそがよぉお!」

「大丈夫か?」

「ああまだいけるぜ!」

「いや別の案でいこう」

「?」


それでもその威勢は健在であったが、コルトワンは”別の案”の思考を共有した。


(今のままでは勝ち目はない)

(ならトンズラするか?)

(いや・・・それでは追い付かれる可能性もある)

(じゃあどうする?)

(・・・オレとお前一つになるんだ)

(・・・なるほど)

「・・・いいか?」

「ああいいぜ!」


意思を統一すると半壊した巨大な腕が関節部位から外れ前方に飛んでいく。それは対峙する敵にではなくその背後にいるシル・エーギル・タートルットにむけてであった。


そのことに気付きそれを受けようと真正面に立つとなんと握られたその拳は突如開きレユを掴んで巻き込んだ。


レユとコルトワンたちとの間に十分な距離が開いたくらいに鋼鉄の指を溶かしその束縛から解放されると「袖の一振り、煌々物打ち」によって斬り伏せた。


そのとき大きな金属音が起きる。その音の方はもちろん眼前の敵のところ。そこではなんと巨大な鋼鉄の背が開きその中にコルトワンがそこへ入っていく。


何かされる前に決着を!と素早く地面を駆けて迫るが開けられた距離によって完成する。


巨大な体は崩れ落ちていきその場に立っていたのは、分厚い装甲を身に着けたコルトワンの姿であった。


「・・・ありがとう」


その硬い手のひらを見つめもう一つの人格に伝える。そして地面へと降り立った。


煌々の剣を構えて迫るレユの姿を見据ると体の装甲より煙を噴射させた。


一気に視界は煙の幕が下り周囲の姿を確認することは出来なくなった。


(しかも厄介なことにこれは可燃性だ・・・)


今のレユの姿では爆発してしまうとそう判断して煙の中には入らず立ち止まった。


(自身は大丈夫でもこの建物が壊れかねない)


そう既にあの巨体で暴れまわって支柱は半壊していた状態だった。


特殊環境及び特殊個体対特化戦闘体・・・変形完了。


煙が上がり現れたその姿は、ケンタウロスを模倣したような形であった。その腕は4本あり、前脚と後脚には鋭い爪のような装甲が取り付けられていた。


「待たせたな・・・はじめよう」


暴れ馬のように前足を大きく上げて突進してきた。


その勢いは強化された外骨格と、鋼鉄の巨大な体を動かすために刻印されていた術式とブースト機能をコルトワンに移管したことで可能となっている。


煌々と燃ゆる剣の一振りするが4本の腕の二つに持っていた分厚い盾で防がれてしまった。


さらには残りの腕に持っていた長槍を大振りする隙さえ与えてしまったのだ。


軽く振っているように見えるが、その重さは十分でありそれを遠心力で上乗せされた力はそれだけで高い威力を誇る。


目の前の青年に衝突した長槍は刻印された術式、長槍仕込み近距離型DCによって爆雷を起こす。


(手ごたえはあったが・・・ダメージはあまりなさそうだ)


何度も槍を突き、斬り、を繰り返していく。そして隙を作り爆雷を叩きこむ。


高熱の剣はその盾で防ぎそのまま殴打する。相手も避けるがコルトワンにとっては些細なことだった。


錬金術によって長槍に刻印された術式、近距離型DCには爆雷ともう一つ特性があった。それは盾で受け止めた攻撃を溜めた分だけその威力を増すという機能である。


つまりは攻撃を防ぐもしくは自身の殴打によって与えた盾の衝撃はそのまま近距離型DCを底上げすることになる。


(十分に溜まった!)


何度目かの攻防。


相手の高温の剣を槍で受け止めないようにするのは難解であったが十分その価値はあった。


大きく振りまわし少しでも威力を高めそして放った近距離型DCは爆炎を起こし更にはレユを上空に押し上げてなお衝撃は衰えずそれはコルトワンの身体も振動を感じた。


が・・・その急激な消耗によりとうとう長槍は原型をとどめないほどに変形してしまっていた。


「なるほど・・・その盾以外は脆いのか」

「!?」


レユのその言葉に人間もしくは表情を持つ機能があれば苦笑いしていたところだろうコルトワンは、


「本来なら十二分に過ぎるのだがな」


と一言返すと長槍と捨てた。


「あれでもダメか・・・ならば盾で殴る方が得策だな!」


着地したレユに向かって勢いよく駆けると、盾を使い攻防一体の動きで圧倒し始めた。


二つの盾を分割させて殴打もしくは攻撃を防ぐと役割を分けて次々と攻撃を仕掛けてくる。そして意識がその二つになったとき前脚で蹴り上げる。


「どうしたこんなものか?」


一気に迫ってくる。その勢いとその機械の体が可能とする強力な殴打を受ける。


「心配するな・・・もう決着をつける」


跳躍し、もう一度煌々の剣を呼び出し構える。


「何度やっても同じこと!」


分割した盾を一つに掛け合わせ、その大きさと分厚さは2倍以上となる。そして迎え撃つ。


「さっきの爆雷の術式・・・参考になった」

「?」


錬金術によって刻印された術式、あれは盾で衝撃を溜めた分だけその威力を増すような仕掛けになっていた・・・なるほど面白い。


煌々の剣・・・というかそのほかの闘気による剣術は剣あってはじめて本来の力を発揮する。そのため実体のない剣を生み出し戦っている時点でそもそも例外でありその分威力は落ちるものだ。


(現時点で威力を高める方法それは・・・衝撃を溜めて一気に放つ!)


そしてレユは魔術を発動させた。


魔術の名は”彼方の魔術”、黒き異界との扉を開けてその力を使用する魔術。


その力のひとつ”過重”、それを一身に向ける。「憤怒のけい、黒金剛」によって耐久性は上がっているそれを生かしてその衝撃を溜めた。


「袖の一振り、憤怒のけい。煌々”赫”物打ち」


それはもはや剣ではなく強力な衝撃波と灼熱を併せ持つ”太陽”のごとき代物であった。


結果は想像に難くなくいかに特殊環境に対応するために作り出されたものであっても形を保ってはいられるはずはなかった。


原型はなく、そこにあったのは黒く溶けた鋼鉄の塊であった。


その姿を見て憤怒のけいを解き、姿も元に戻す。


「大丈夫?」


そこにベッカが駆けてきた。


「ああ・・・大丈夫」

「・・・そっか」

「残念だったな」

「ううん・・・いや、そうだね!残念だった」


そう言って融解した鋼鉄に残骸を見ていた。


そしてコルトワンとの戦闘はようやく終わりとなった。


────────────────────


あれから大分と説明することになった。どうしてあそこにいたのか、どうしてあんな姿になったのか、どうしてあんなことができるのか・・・エトセトラ。


その出来事もとうに過ぎ月日はそれから10年経った。


15の歳となりこの姿でも魔術も治癒術を使わずとも幾分、力は発揮できるようになった。


一日の稽古、習い事を終えて宮廷内の庭園でくつろいでいた。


少し先で騒ぎが聞こえる。


「兄さまや、兄さまや、一体どこにおられるのですか?」

「クツル様淑女が走るなどいけません。何度いえばわかるのですか!」

「嫌じゃ!妾は兄さまに会いたいのじゃ!兄さまや、クツルは寂しゅうございます!一体どこにおられるのですか!」


声は徐々に迫ってくる。そして──


「ようやく見つけました!兄さま」


その声の主は背中から抱き着いた。


「一体なんのつもりだ?」


そう背中越しに尋ねる。


「あら兄さま!そんなに邪険しなくてもよろしいではありませんか?」

「とにかく離れろ」


いやとは言わせず手を解き姿を真正面から見据える。


その姿は、長い髪は清涼とした川のように清くそしてその大きな目は見た者を魅了させてしまうほど美しいと評判でさらには、齢5歳にしてすべての習い事に才能を見せる自身の妹であった。


「お前は一体何のつもりだ?」


だが紛れもなくその気配と宿す力には覚えがあった・・・それは最後の因縁。


そして4度目の転生をする羽目になった問題の張本人、治癒術が衰退した原因となった異端にして汚点、白き魔女の”アグダバト”。


勇者に倒されたはずの魔女が転生しなんの因果か妹として生まれたのであった。


「なにもそれもわっちはお前の妹だからな!それらしく振るわねばバレてしまうぞ?」


そう言って彼女のメイドが追い付いてきたその瞬間。


「兄さま、わらわと遊んでくだされ~」


首に手をまわされ抱きしめられた。


────────────────────

────────────────────


読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字があるとおもいます。


お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。


また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!


併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。


良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、

面白いと思っていただいている点、

『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!


どうかよろしくお願いいたします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る