序章 第13節


場所は皇国の宮廷内寝室へようやくと話は戻る。


例の詠唱を唱えて魔法陣を呼び出すと姿を現したサークルの中に入る。そして”蛇の巣”へと到着した。


(あまり瞬間移動は好きじゃないな・・・)


視界の暗幕と浮遊感。これを好き好んで使う魔術師たちの気が知れないと何度思ったことか・・・。


蛇の巣の中でも大きな広さを持つこの一画は、もはや前の面影を残していない。


ここは生まれ変わり、流動白金属無精混合精霊つまりは液体金属のゴーレムのメンテナンス及び彼らの拾ってくる情報をアストラル信号を収取する場所と化した。


今でも絶賛、流動白金属無精混合精霊の拾ってきた情報を現代では古の技術と化した方法で収集している。


ここで収取されたデータはいくつかの変換器を経て一つの場所に保管されている。それが”蛇の巣”の中心になっている幽体型結晶記録装置のある場所となっている。


「あっレユ!」

「・・・皇子」

「あっレユ皇子!」

「レユで構わない」


ベッカとコルトワンが出迎えてくれた。ベッカには情報整理とコルトワンには独自のルートで新たな情報を当たってもらっていた。


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昨晩の話し合いでの一幕。


「恐ラくアナタの母上デある第八側妃シル・エーギン・タートルットは王城と王都内にはいないでしょウ・・・」

「どうして?」

「そレはこの国の政治的立場にあル」

「なにそれ?」

「皇子ガ理解できていまスカ?」

「ああ」


コルトワンはベッカに説明することを諦めたようだ。


「そレでは話を続けマス。・・・この国の皇族の下には貴族たちがいます。彼らは大きく分けて二つの立場に分けられます。一つはこノ国が誇るエーテルインプラント技術を背後に力を付けタ革新派。もう一つは魔術・武術・錬金術など太古カらこの国を支えてきたという自負のあル伝統派」

「それが今回の件にかかわりがあると?」

「今回の根底にある事件と関係がアるか分かりませんが・・・その対処ニは革新派と伝統派ノどちらかが関わっているもしくはどちらも関わっている可能性ガあります。なぜなラ──」

「皇国に手を出した不埒な輩を見つけ出し対処したとなればどちらの派閥にせよ大きく皇族に貸しを作ることになり、それゆえ自らの権威も大きくできるから」

「やはり若クても皇族デあられますナ。ご明察通り・・・そのため皇子の母上様の居場所を知るにはドチらが今回対処しているか確認せねばなりまセン」

「僕の周りには伝統派しかいない。その彼らに聞いても皆一様に分からないと言っていた」

「ほう・・・どなタに聞いたか伺ってモ?」

「ああ・・・アキュート卿とアンバー卿だ」

「アキュート卿・・・ソリー公爵家の長子と、ジャック公爵家の長子であるアンバー卿ですか・・・なるほド。伝統派の星と呼バれる若き騎士の彼ラが知らないとなれば今回は革新派ですかナ・・・」

「分からない・・・子供の僕に言わなかっただけかもしれない」

「確かに・・・ワタシの方でも裏を取ってみましょウ。それかラ・・・これは何の確証もありませんが恐らくは匿ワれている場所はすぐ特定できるかもしれませんナ」

「?」


言葉ではなく表情で疑問を返す。それを読み取ったようにコルトワンは再度喋り出した。


「王都内で匿うとなるトすぐにどこの関係者わかってしまイますから・・・この混沌とした”廃棄街”でならうまく隠すことができるでしょウ」


”廃棄街”と呼ばれるようになった当初皇族は街の治安維持の名目で皇国軍を派遣してきたことがあったそうだ。


がそれまで捨てられた同然の扱いを受けてきた者たちの最後の砦であったこの場所を守るため一致団結し皇国軍を街から追い出してしまった。という話を『蛇足でスが』と前置きしたあとにコルトワンは語ってくれた。


そしてまた現在に話は戻る。


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ベッカは流動白金属無精混合精霊たちの取ってきた情報を元に街の怪しいところを探っていてくれた。


「まぁこの街全体が怪しいもんだけど・・・」


と幽体型結晶の幽性思索機能を生かして作成された立体化された地図を見せてくれた。


「この青い範囲は廃棄街の各組織の支配領域ね。それからこれが治安が最悪部分の範囲っと・・・そしてこれが今回条件に合いそうな場所だね!」


ベッカの指さしたところは、廃棄街の各組織の影響範囲の間にある空白地帯。そこから隠れるのに最適な建物がある場所を絞っていく。


「候補ハ三つ・・・さてどうしますカ皇子?」


流動白金属無精混合精霊たちを放って調べさせることもできるがその間待ちぼうけし事態が急変してしまう可能性もある。そうなれば駆け付けた時にはすでに対処しようがない事態になっているかもしれない。


蛇が出るか邪が出るかわかったもんじゃないが蓋を開けてみるしかない。どちらにしても対処しなければいけないなら早い方がいい。


「今夜3つとも侵入しよう」


ベッカとコルトワンはうなずいた。


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コルトワンの情報から3つの建物は旧メディカルセンターとスマートリリーホテル建設予定地ということが分かったそしてその二つは空振りだった。


こちらも例に漏れず建物の名前は、通称FAHと呼ばれる廃棄街に侵攻した際に立てられた皇国軍最大の武器庫”不屈と名誉の武器庫フォーティチュードアンドオナー”である。武器庫と言っても中は相当な要塞と化しており、当時は最後の砦として十二分の結果をだしていたそうだ。


周りには誰もいない・・・中に入ると、とにかく暗く誰の気配もしない。


「コこには地下施設があるらしイ・・・」


監視室の幽体型結晶に侵入しアストラル情報体にアクセスしたコルトワンは恐らくその思考内で情報を読み取っている節を見せながらその開示をしてくれた。


案内に沿って備品Mと書いてある部屋の扉は開かない。その横に何かの機器が設置されていた。


「これもどうにかできるのか?」

「マかs」

「任せて!ベッカ一号!」


ベッカの掛け声とともにその肩からは流動白金属無精混合精霊が現れた。瞬く間に鎚へと姿を変えてそれをベッカは握ると思いっきり装置を殴りつけた。


すると見事に扉が開いた。


「こういう時はシンプルが一番!」

「開いたのハ偶然だと思ウが・・・。そレにそんなに懐くもんなのですカ・・・あれハ?」

「わからない・・・僕も初めての経験だ」

「んっ、この子の話?前に私に似せてくれた時あったでしょ!あの後から妙にな疲れちゃって!」

「・・・そウなのカ」


あまり考えていても理解できることはなさそうだったのでコルトワンは早々にこの話題から撤退することにしたようだ。


扉の先にある階段を下りて先へと進む。下りきったあとにはあったのは暗い何重もの錠前機能が掛かった一見しただけで分厚いことがわかる金属の扉が眼前に広がっていた。


「お嬢さン・・・これも自慢ノで壊してみるカ?」

「できないのわかって聞いてるでしょ!」


コルトワンの軽口にベッカが反応しているとどこからか声が聞こえる。


「お前たちそこで止まれ!・・・どうやってここに来た?」

「僕はレユ・エーギル・タートルット。シル・エーギル・タートルットの息子だ。ここには母上を探しに来た。お前たちが皇国に仕える者であるならばこの扉を開けてほしい」

「嘘をつくな!もしもう一度こちらの質問に答えずホラを吐けば・・・お前たちの後ろに設置されたタレットに穴を開けられることになるぞ!」


と言われてもな・・・どうしたものかと考えていた時、音声の主の方で動きがあった。


「お前たち・・・今から扉を開ける。開けた後は携帯している武器はすべて検査し一時的にこちらで保管することになる。そのため今のうちに外しておくことをおススメする。以上!」


その声の後すぐに大きな扉は何重にもかかった錠前機能を解除していく重厚な音と共に少しずつ奥行きが生まれていった。


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「お前たち顔を上げよ!」


その声に従い視線を上げるとそこには金色の鎧を身に着けた金髪の女性とその横にシル・エーギル・タートルットが豪勢な椅子に座っていた。


「ああ!やっぱりレユあなただったのね・・・いらっしゃい」


その大きなおなかを抱えながら椅子から立ち上がったシルは手を広げた。その表情はとても慈愛に満ちている。


自身の証明をするためには少し気恥ずかしいが今はそれに従うしかない。


「母上・・・心配しました」


久しぶりの母上との再会に安堵する。


「おなかの子は大丈夫ですか?」

「ええとても元気よ。フフフ・・・あなたが来てるのがわかるのね。今とっても元気に動いているわ!」

「そうですか・・・よかった」


とりあえずの心配は解消された。


「ところで・・・どうしてこんなところまで来ているのか・・・しっかり聞かせてもらいますよ。いいですね、フフフ」


慈愛に満ちた表情をそのままに雰囲気だけが暗雲立ち込めた空のように重くなっている様に感じた。


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「そうですか・・・ベッカというのですね」

「はっハイ!」

「そうかしこまらなくていいのよ・・・私の大切な息子を良く世話してくれました。感謝します」

「そっそんなとんでもない・・・です。私の方こそレユ様にはとてもお世話になりましてっ・・・え」


緊張がこちらにも伝わる中でシルは彼女に近付き頭を優しくなでる。


「こんな小さな歳で・・・よく頑張りました」


ベッカは言葉を失い制止すると身を震わせ大きな瞳から大粒の涙がこぼれそのそばかすのある頬を通り降りていった。


気づけばその小さな腕をシルに回していた。


「あらあら・・・レユ」

「はい」

「あなたは特別強い力を秘めています。それは自覚していますね」

「はい」

「よろしい。ほかの者はみなあなたのように強くない。それを今一度自覚しなさい。よろしいですね・・・」

「はい・・・肝に銘じます」


そうだった。そうなのだ・・・なのにその日生きるので必死な彼女をながれでここまで巻き込んでしまった。そのことに今更気づくとは・・・全く。


「あなたには・・・褒美が必要ですね」


シルは未だ膝を屈しているコルトワンを見ていった。


「ありガ──」

「それは少し待っていただきたい!シル第八側妃」

「あらいつも通りシルちゃんでいいのよ、ラクシャータ伯爵家が総領の娘。エイレ・カレイナ・ラクシャータ騎士爵位殿」

「うっそういうわけにはいきません、シル様。ここは公式の場ではないですが、多くの者がおります。それに私の部下もいますので」

「あら、なら二人きりなら呼んでくれるのね!あとが楽しみだわ!エイレき・よ・う」

「からかわないでいただきたい!」


少し顔を赤らめている美麗な女性、エイレ・カレイナ・ラクシャータ。


伯爵家の長女に生まれながら剣の階位を持ち、さらにエーテルインプラント技術で得た多くの能力を合わせることで今までにない騎士像を確立した。その功績を受けて若年で騎士の位にまで上り詰めた逸材である。


「話を戻します」


金髪のきれいな髪をたなびかせコルトワンとシルとの間に立つ。この広間にたかれた光で身に着けている金色の鎧がより輝いて見える。


「貴殿はイムプロイドに見えるが違うか?」

「ソうでス」

「コルトワンって名前もあるのよ!」


涙を拭いたベッカはエイレに伝えた。それは暗に個人として扱ってほしいという意味が込められていた。


「コルトワン?・・・本当か」

「ハい、ワタシには自我がありまス」

「そうかではなぜ皇子に手を貸してまでこのことを追ってきたのだ?」

「ソれはワタシは記者ですかラ」

「イムプロイドの記者であれば話に聞くぐらいはありそうなものだがな?」

「まだまだ未熟者ですから」

「・・・」


エイレの厳しい追及にコルトワンは淡々と返した。がエイレの満足いく答えではなかったようで表情はとても厳しいものだった。


その時大きな爆発音とともに建物が大きく揺れた。


「何がった!」


エイレの視線はコルトワンからこちらに走ってきた彼女の部下に注がれた。


「エヌビ近衛h──」

「前口上はいい!さっさと説明しろ!」

「ハッ、失礼しました。侵入者が現れました」

「なに!?今どこにいる?」

「すでに防衛網はAからDラインまで突破されここに向かっています!」

「なんだと!?」


エイレの表情を確認するまでも無く状況が悪いことは分かる。


そしてまたも大きな爆発音とともに入り口付近から大量の煙が入ってくる。


「アヌビ副長」

「ハッ!」


彼女の後ろの控えていたグレイの長髪をした女性が煙の前に出た。


それは彼女の網膜での出来事。


[詠唱コードを確認してください]


(これね・・・)


[コードロード中/完了/起動準備完了]


(お願い)


[起動]


目視で行われた起動範囲は忠実に守られた発動した。


[魔術コード/5203908010/詠唱コード/5552023550279693908010]


部屋を覆いつくす意思を持つようにその煙は下から徐々に舞い上がって全体を覆おうとしている。そこにアヌビと呼ばれた女性はその方に手を伸ばし胴体から伸びた光る筋が手の先まで達するときれいなエーテル光を放ちそれは起動した。


煙は瞬く間に入り口付近の押しやられていく。


「よくやった」


エイレは一言ねぎらう。


「ハッ!」


頭を下げたアヌビは口を閉じたまま口角が上がっていた。


煙は姿を隠すように入り口へと押し込まれた。そこには人影があった。いや人影にしてはとても大きい。晴れたその場所に立っていたのは鋼鉄の鎧巨人だった。


「ギャギャギャ!久しぶりだな坊やども!」


その声はまさにボウシャワであった。


(どういうことだ!?)


思考は巡る。そして目の前にある情報を取り込み一つの答えを出した。


急いで振り返るとそこにはコルトワンが母シル・エーギル・タートルットに人差し指を頭に突き付けていたところだった。


「動くな・・・坊やども」


コルトワンから聞こえてきたそれは、背後から聞こえるはずのものだった。


「どういうこと・・・」


ベッカの戸惑いを隠せない表情と声に視線を合わせず答えた。


「理解できんか・・・お前たちは騙されたんだよ。このわたしにな」

「うそ・・・」

「貴様ぁ!その方から離れろ!」


エイレは叫び、剣を抜いて飛び出した。


「赤ん坊には恨みはないがこれも同胞の為だ・・・悪く思うなお嬢さん」


軽い爆発音とともに炸裂した火薬が吹きそこからその衝撃を一身に背負った鉄の塊がコルトワンの立てられた人差し指から顔を出す。


そのとき目を見開いた状況を理解したことで動き出した体の素早さに反して視界と感覚は遅くなっていく・・・そして聞こえてきた声。


ようやくじゃ!ようやくじゃ!・・・やっと妾は目覚めたのじゃ!。なのに主としたことが悲しいのう、悲しいのう。だから手を貸してやろう、感謝せよ!感謝せよ!


鈴を転がしたような耳心地の良いその声が頭の中で響いた。


そして視界と感覚は元に戻った。


「妾に触れるな下種が!」


母シル・エーギル・タートルットに似つかわしくない鋭く響く声がそのような力を持っていたかのように鋼鉄の指先から放たれた銃弾と共にコルトワンは強い衝撃を受け吹き飛ばされた。


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読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字があるとおもいます。


お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。


また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!


併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。


良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、

面白いと思っていただいている点、

『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!


どうかよろしくお願いいたします!


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