序章 第12節


”蛇の巣”はとても深く、おそらくは当初あった旧皇国軍兵装準備施設の原型をとどめていない・・・ように思う。


(全貌が見えないのだ・・・それもしょうがない)


アインヘッドの構成員の頭を記憶拡張デバイスが無事ないくつかを取り上げてこのアジトに関する情報を確認しようというベッカからの提案を採用することになった。


この内部を完全に把握するには、記憶をスキャンするかもしくは機密データを見つけ出すかの二択だったが、データバンクを管理する幽体型結晶にアクセスしアストラル情報体を閲覧するしかない。


「私にはハッキングは無理だよー」


とのことで前者の”記憶拡張デバイス”から情報を集めることにした。


どうやら思いつくままに拡張を繰り返した結果としていくつもの部屋が至るところに存在しているようだった。


身体拡張のためのエーテルインプラントを施す手術室やデータを保存する冷却室や各種ハッキングを行う部屋など用途は様々だが同種の部屋が混在していることもあった。


(記憶データを見るに内部でも縄張り争いがあったようだからそのせいだろう・・・)


その部屋でも特殊な場所があった。そこは檻が敷き詰められており、捕虜などを捕まえてておく目的がある事は間違いない。今は幸運なことにそこには誰もいないようだった。がその部屋にはさらに奥につながっていることがわかった。


「記録的にはすごく重要なモノが保管されてるって・・・なんだろ?行ってみる?」


という年相応の好奇心が現れた顔のベッカの提案に刺激され向かうことにした。


(今は液体ゴーレムの生成待ちだしな・・・)


疑似精霊鍛造術によるゴーレムの生成は時間が掛かる。特に今回は特殊な形態であり溶かした大量の金属が必要なのだ・・・それゆえしょうがない。


部屋へ向かう廊下は薄暗く機械光が多少の明るさを保っている程度だ。


そこを抜けて現れる金属の分厚い扉、上に取り付けられた格子を覗き込むと中央に置かれたテーブル足をに伸ばし、顔を高めの頭頂部と長めのつばを持つ帽子を深くかぶり者が一人だがその正体は伺うことができない。


「どうも」


とりあえず挨拶・・・さぁどんな反応を示すか・・・。


「ドウモ」


酷くこもっている様に聞こえるそれにとても独特で抑揚のないように思えた。


「どうしてこんなところにいるんだ?」

「キミこそ、ドウシテこんな物騒なところにいるんダイ?」


質問が質問で返ってきた。


「・・・野暮用でね」

「ソウカ・・・コンナ物騒なところに子供が来るなんて、よほどのことなのダロウナ。まさか先ほどの爆発は君たちじゃないヨナ」

「いや当たってるよ・・・彼女がやった」

「ちょっと!」


隣にいたベッカは驚き否定しようとしたがあながち間違いじゃないことに言葉が詰まる。


「フム・・・扉越しではナンダ。ここを開けてくれナイカ?」


部屋の中にいる曇った声の主はそう提案してきた。ベッカは言葉なくその意思を伝えてきた『危ないのでは?』と。


だが開けることにした。


ガチャリ・・・


やたらと重い扉を開けて部屋に入る。


「そこに座ってクレ。殺風景な部屋でスマナイナ・・・私の趣味ではないので勘弁してクレ」


曇った声の主は対面に置かれた椅子に手を向けそこに座るように促した。その意思に従い座る。


「そろそろ素顔を見せてくれまいか?」

「・・・おっと、これは失礼した」


素顔を隠したハットをかぶり直して表れたのは鋼鉄の肌に輝く赤い眼をした人型機械であった。


「ついでに自己紹介をした方がいいカナ?」

「いや知ってる」

「・・・ほうヨク調べているようだ・・・ぜひとも聞いてミタイ」

「ああ・・・だが知っているのか彼女だ」

「ええ機体名はイムプロイドでしょ」

「それは個体名ではナイ・・・これからはキミたちを漏れなく”人間”と呼んだほうがいいノカナ?」


後ろに控えていたベッカは「うぐっまぁ・・・たしかに」とイムプロイドに言われた言葉にしゃべる言葉を失ってしまった。


「すまない。名前を聞かせてくれ?」

「フム・・・いいだろう。ワタシの名はコルトワン。Mrコルトと呼んでクレ」

「ミスター・・・認識は男になっているのね」

「そうダ。君達にもアルようにナ」


そういうと懐から何かを取り出す。目線のみで警戒するとそれに気づいたコルトはおりだしたモノを指で加えて見せてくれた。


「おっと少し警戒させたカナ・・・タバコを一本吸ってもいいカナ?」

「機械の体に効くのか・・・それ?」


ベッカの疑問にコルトは鋼鉄の口にタバコを近づけながら答えた。


「もちろん君たち用じゃナイ。それに人間に害のあるモノでもない・・・イイカナ」


その機械仕掛けの赤い眼をこちらに向けて許諾を請うた。


「・・・構わない」


そう言ったその時、その口から大量の煙が顔を出し周囲に広がった。そして悪くなった視界の中でテーブルが宙を舞いあがり地面に強い衝撃と音を響かせたときには目の前の彼は立ち上がり人差し指を喉元に突き付けてきたのだ。


「悪いナ。幼子相手ニする態度じゃないコトは十分わかっているが・・・お前は危ないトナ、ワタシの勘がそういってルンダ」

「イムプロイドは勘が働くの?」

「長ク生キていればナ・・・」


ベッカはこちらに近付こうと一歩前へ足を延ばした。


「おっと、動カない方がイイ。今動けばコイツの頭が吹き飛んじ舞うぞ・・・それはお互い望む結果じゃないよナ?」


ベッカは動きを止めて息をのみ事態を見守ることにした。


「それでお前はナンダ?」

「聞いてどうする?」

「それは話ス内容によるナ?」


喉元に掛かった冷たい指先がより深くなる。


(準備は整うまでにはもう少し時間が掛かるな・・・)


時間を稼ぐため口を開く。


「僕はタートルット皇国第八側室シル・エーギン・タートルットの長子・・・レユ・エーギル・タートルットだ」

「随分とと大きく出たナ・・・少々大キすぎる気モするがどうなんダ」


想像もしてなかったのかコルトは少し思慮を巡らしたように見えた。


「無い」

「やはり嘘カ」


襟を持つ彼の硬い手が強くなる。


「嘘じゃない。本当に皇子だったとしてそれを証明するものをこの街に持ち込むと思うか?」

「フム・・・確かにナ」


手が緩む。


(・・・準備が整った)


視線の先、煙が薄くなりクリアになった景色の中で部屋の壁に張り付いている金属の液体。それが液状の体を伸ばしコルトに巻き付くとそのまま後方の壁に引っ張った。


コルトはそのまま液体金属に羽交い絞めにされる形で壁にはりつけにされた。


「次はこちらの疑問に答えてくれ」


皺の入った襟元を伸ばしてコルトワンに近付いた。


「お前はなんでこんなところにいるんだ」


目の前にいる鋼鉄の肌を持つその男は顔を上げて答えた。


「それハ・・・あなタですヨ。レユ・エーギル・タートルット皇太子。あなタを探しにキたのでス」


コルトワンはその赤い眼をまっすぐにこちらに向けた。


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コルトワンはタートルット皇国出身ではなく、情報収集のために外から廃棄街に来ていたようだ。


その折、不運にもアインヘッドに捕まりどうにもならず立ち往生していたようだ。


液体金属の束縛を解き、辺りに散らばったテーブルなどを元に戻したあとお互いに椅子に座った。


そして改めてその理由を話し始めてくれた。


「アる筋からタートルット皇国が側室が暗殺サレかかったという情報があっテネ。それを確カめるために来たのダ」

「どうして?」

「これでも記者デね。情報の真偽を確かめるために来タ」

「なるほど・・・それでどうして僕に?」

「それハ当然。襲ワれたのがあなたノ母君だということがわかったからでス」


コルトワンと話を進める中で置いてけぼりにされていた少女が一人。


「ちょt・・・ちょっと待って!!」

「どうした?」

「どうしたって・・・レユあなた本当に皇子なの?」

「そうだ」

「そうだってそんな簡単に・・・ふつう隠すものじゃないの?」

「かくして何になる?」

「わかんないけど・・・ほらこうやって襲われることだってあるし!」

「僕なら大丈夫だ」

「まぁ・・・」


ベッカはアインヘッドの連中との戦いを思い出す。


「たしかに・・・」

「話を進めていいかナ?」


コルトワンは逸れた話題を戻すため挙手し割って入った。


「ワタシの目的は貴方様に真実をお聞キしたくここまで来ました・・・ソレデお伺いしてもよろしいでしょうカ?」

「・・・口調変わってない?」

「オ嬢さンも変えた方がいい。目ノ前にイルのはこの国の王の息子ダ」

「はっ!?」


今さらに重大なことに気付いたベッカは恐る恐るこちらに顔を向けた。


「構わない」

「ほっほんと?」

「ああ」

「ふぅー良かった」


冷汗を拭いホッとした面持ちのベッカにコルトワンは水を掛けるような事を言った。


「皇子ガ良くても皇族関係者にバレれば首が飛ブかもしれないがよかったなお嬢さン」


また青ざめるベッカ。


「僕が構わないと言っている。大丈夫だ・・・からかわないでくれ」

「コれは・・・大変失礼しましタ」


コルトワンの頭を下げて謝罪すると話を元に戻した。


「それで答エていただケルのですカ?」

「答えてもいい」

「ソれはよk──」

「ただし条件がある」

「なンでしょウ?」

「先ほど言っていた情報筋が誰か教えてほしい。それともう一つは・・・条件飲んでくれるという承諾を得てからでないと詳細は話せないがどうする?」

「その歳デ交渉とは恐れ入りますナ。フム・・・こちらとしては破格に条件ですが少し問題が・・・」

「なんだ?」

「それはワタシには守秘義務コードというものが情報体に刻まれておりまして」

「守秘義務コード?」

「エえ、情報提供者ノ安全を守るためにあるコードです。これガあれば万が一ワタシが捕まり拷問アルいは内部情報体にアクセスされた場合でも提供者の名前を隠すことができるのですヨ」

「なるほど・・・それは関連情報もか?」

「今回は特ニ厳しくコードを掛けられているノデ明かしたくても明かすコトができないのです」

「そうかそr」

「ですが情報提供者と対峙シタときだけはその情報体にアクセスできますかラその時にこのコトを伝えるというのはいかがでしょうカ?」


コルトワンも提案を受け入れるか考えていた時、


「ちょっと待ってよ・・・それじゃあその人に断られた時はどうするの?そしたらこちは報酬の一部を受け取れないってことになるでしょ?」


ベッカは情報をかみ砕きコルトワンの言っていたことへの疑問をぶつけた。


「アナタの言う通り・・・ダガそれならそれで正体を明かせぬ誰カという情報が手に入るということなります。その情報はとても重要だと思いますガ?」


最初はベッカに後半はこちらに向けて言葉を返してきた。


「分かった最初の条件はそれでいい・・・もう一つはどうだ?」

「最初の条件も満足いく答えを持ってこれるかわからないのでス・・・二つ目の条件は謹んでお受けいたしましょウ」


そう言ってコルトワンは胸に手を当ててお辞儀し条件を吞んでくれた。


「分かった・・・それなら僕と共に母であるシル・エーギン・タートルットを探してほしい」


最後の条件を明かした。


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読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字があるとおもいます。


お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。


また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!


併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。


良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、

面白いと思っていただいている点、

『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!


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