序章 第11節
その衝撃は体に響き勢いを受け止められずに対面の壁にたたきつけられた。
埃の舞う中で破壊された壁から現れたのは、鋼鉄の巨躯。
「ギャギャギャ!お前は殺すって言っただろ?私は言ったことはぜってぇ叶えるのさ!」
その鋼鉄の中から聞こえる老婆ボウシャワの声。
「どこにいるかと思ったらそんなところにいたのか」
「カッコつけてるつもりかい?クソガキがよぉ!」
また拳は振るわれ、鋼鉄の塊が迫ってきた。エネルギーブレードで斬りつけるが傷つかず、また吹き飛ばされた。
「・・・なかなか硬いな」
「あたりめぇだろうがよ・・・これはな!いずれ来る皇国軍の切り札に使うつもりだったんだ。そんじゃそこらの剣使いには傷もつけられないさ・・・まぁ坊やは腕があるようだから傷はついてるだろうさ・・・おやぁ何にもついてないじゃないかぁ?新品そのものだギャギャギャ!」
ボウシャワはわざとらしく鋼鉄の拳を見て驚いた様子を見せ煽ってきた。”皇国軍の切り札”というのも気になるが今はそれどころじゃない。
「今までやられた分やってやるよぉ!」
辺りを破壊しながら進む鋼鉄の鎧巨人にそのまさしく鉄拳を避けながら何度も剣身を通すが一向に斬れる気配がない。
(・・・もうここは狭すぎるか)
避けるたびに後方へと下がり続けた結果大きな部屋であったが壁に追いやられはじめていた。
(ここは逃げるに限る)
振り下ろされた拳を避けて剣を振り下ろす。
「ムダさねぇえええ!」
鋼鉄の巨躯に触れるエネルギーブレードは大きな火花を散らしながらその硬い体を撫でる。
「なにぃ!?」
宙に舞い上がる高温の熱にボウシャワの視界が白む。その隙に背を向けて走り出す。気絶しているベッカの体を持ち上げ抱えると部屋の奥にあるまるで蛇の集団が一堂に会したような廊下を進んだ。
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「zzz・・・うぇ!?・・・うぇええええ!」
ベッカは羊の群れと戯れる草原の中でやけに揺れを感じるなと思っていた。平和な景色は何度も何度も揺れやがてそれが自身が起こしているモノだとわかったとき現実に帰ってきた。
瞼を開けると淡い赤色の光がある暗く長い廊下の中で目前に迫ってくる黒い塊。それが歩を進めるたびに何かが揺れまたは壊されていく。
「なになになんなのさ!これは!」
その光景に思わず声を上げてしまう。
「おう!起きてしまったか!」
背後から聞こえる声に顔を向けるとそこには、気絶前に見た異様に顔立ちの整った青年がいた。そして自分自身がその青年にまるで大きな荷物でも運ぶように抱えられていることが理解できた。
「ぴゃあああ!なななんでなのさぁぁぁぁああ!」
鋼鉄の拳が振り下ろされる度に心臓が縮まる思いをしながらもどうにもできない現状にただただ叫ぶしかなかった。
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ベッカはようやくの荷物のように担ぎ上げられた状態から解放された。
舞台は、広い作業場となった。大小さまざまな荷ほどきの済んでいない物と、鋼鉄の二足戦車”バイペッド”が複数置かれていた。
ベッカはその姿を見て開いた口が戻らないほど驚いていた。
「これぇぇぇええ!すごい!すごい!バイペッドがこんなに!」
「・・・これはそんなにすごいものなのか?」
「そうさ!これはね”バイペッド─シリーズ800型”なのさ!シリーズ初の幽体深下融点セルを搭載したことで小型化した初のバイペッドなのよ!」
「・・・そうか」
あまりにも進んだ技術とそれを流暢に次から次へと言葉が出てくる少女に追いつけず生返事をするのが精一杯だった。
「まぁ・・・でも今は”バイペッド─シリーズ500型”が主流になっちゃったの。かなしいね・・・まだまだこの子たちは動くのにさ」
そう言って寂しそうにバイペッドの黒く硬い肌を撫でた。
渡ってきた廊下の方から大きな爆発音とともに鋼鉄の鎧巨人が現れた。
「ギャギャギャ!逃がさないよ坊やどもぉおおお!ヒャッハー!」
大きく跳躍し眼の前に降り立つ。床は踏み抜かれて大きな穴が空いた状態になりその地響きと衝撃によりあたりにあるバイペッドが破壊されていた。
「あ!ひどい!あの子達は何もしてないのに!」
ベッカの悲痛な叫びが響く。
「何もしてない奴がこの世で一番有害なんだよぉ、お嬢ちゃん!」
わざとらしくバイペッドを踏み潰した。
「自分たちの物なのにいいのか?」
好奇心から尋ねた。
「うちの連中がどっか奴らと勝手に商売しやがってなぁ・・・それでこんな中古品掴まされたのさ。こんなのどこがいいって言うんだ!小型化なんか下らねぇ!ロマンがねぇだろ!」
もう一つ蹴り飛ばした。そしてもう一つ──
「やめてー」
ベッカは飛び出した。恐ろしげもなく、その視線はバイペッドに注がれていた。
「おい!」
手を伸ばすが届かずその背中はどんどんと死地に向かって進んでいく。
ベッカを救うには、振り下ろされる鋼鉄の拳を止めるには斬り落とす以外に方法は無い。
「いい加減言う事を聞いてもらうぞ・・・」
手に握ったエネルギーブレードに向けて放ったプレッシャーはその柄に纏わりつく。
エネルギーの刃はその色が黒に染まり、幽体液性セルから発生した高出力の高熱の光は発散ではなく刃の形を保ちつつ収束し密度が高まっていく。
ベッカは勢いで飛び出し、バイペッドに迫る鋼鉄の拳の前に立ちはだかった。
(あれ?・・・あたし死ぬかも・・・)
斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ・・・。
高出力と高熱と闘気を込めた刃が通る。融解と切断が同時に襲った鋼鉄はその強度を保てず変形していく。
「チッまぁ予想通りだ・・・粋がってるんじゃないよ!まだまだこれからだぁぁあ!」
縦に切断され割れた拳をなんと切り離し新たな手ではなく大きな金属音を鳴らす地を穿つ鋼鉄の突具が現れた。
「さぁ!もう死んでくれ!」
何もかもを巻き込みながらその突具は視界を占拠していく。突風が体を押さえつけてくる。
「お前は下がっていろ!」
背後にいるはずのベッカに話しかけるとすでにそこにはその面影すらなく代わりに大きな爆発音がした。鋼鉄の鎧巨人はよろめき、立っている状態を維持するためにバランスを取ろうと足の置き場を何度も変えている。
そこをさらに横から爆発音とともに鋼鉄の巨躯を殴りつけるかのような威力の炸裂が起きる。
「ふん!何が『ロマンがない』なのさ!こんなかわいい体にこんな魅力を秘めてるなんてそれこそロマンだ!」
なんと端にまだ損傷を受けていない”バイペッド─シリーズ800型”を操縦するベッカの姿があった。
「くそごらぁぁあああ!!」
態勢を立て直しを諦め横に傾いたそのままの勢いを利用して奇跡的な旋回でベッカの元へと走り始めた鋼鉄の鎧巨人。
「無駄なのよ!さぁーたんと御上げなさいな!」
意気揚々に声を張り上げ操縦桿を握りると炸裂弾の発射装置を押した。
「あれ?あれあれあれ!」
何度押しても軽い音が出るばかりで一向に炸裂弾が出る気配がない。
「ギャギャギャ!馬鹿めそんな小さいポンコツが大量に弾を保有できるわけがないだろう!お前とぴったりお似合いの詰めの甘さじゃないか!」
迫りくる鋼鉄の突具に、どうにもできずただただ目を瞑るしかなかった。
地面を割りながら進む巨躯は止まらないが突如その態勢を大きく傾かせた。そして大きな衝撃と共に地面に伏せた。なにが起こったかは分からないが立ち上がろうと体を腕で支えて足を立てようとしたときようやく気付いた。
「足がないだと!?あのクソガキがぁ!」
奇麗な切断面を残しその巨躯を支える両の足先が後方にあった。
「もういい加減・・・決着をつけよう」
その声はボウシャワの耳には自身よりも上から聞こえてきた。
斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ・・・我に斬れぬものなどあってはならぬ
。
「袖の一振り伏しの段。鎧の撫で裂き」
大きな鋼鉄の体を上空より腰からはじめ伸ばした腕に掛けて斬り裂きボウシャワは永久に伏せた。
そしてそれがようやくの残心となった。
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「良かった!よかった!」
ベッカは急いで降りるとそのたくましい体を抱きしめた。普段ならそんな大胆なことは出来ないがなぜかこの時は出来てしまったのだ。
だがここで計算外の出来事が起きる。それは魔術の効果切れによるレユの体の縮小である。
「・・・重い」
その一言にベッカは我に返りまわした腕を引っ込めた。
「ごっごめんなのさ・・・」
ベッカは己の羞恥で火照った顔を覆い隠した。
(くそ・・・思ったよりも手こずってしまったな・・・。やはりその場の剣ではどうにも心許ない。が今はどうにもならないことで後日の課題ということにしよう)
役割を終えすべてを使いつくした柄はまるで魂が抜けるように煙を吐いた。
そっとの手元から地面に置き立ち上がる。
「さて・・・なし崩しであるがここを利用させてもらおう」
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アインヘッドの構成員を滅ぼし、その統領であるマダム・ボウシャワ。別名メドゥーサを倒しそのアジトである通称”蛇の巣”と呼ばれる旧皇国軍王都東部兵装準備施設をたった二人で制圧した。
ベッカと話し合いこの”蛇の巣”で生活してもらうことになった。理由は当然防犯機能がこの場所は充実しているから・・・とここをほかの誰かに渡すよりも自分たちで運用していく方が断然マシだと判断したからだ。
もちろん心配はある・・・それを解消するため今は施設内で奮闘していた。
残骸、残骸、残骸、たまに腐った食べ物、そして残骸。
(この施設はおよそ清潔とは無縁の場所のようだ・・・)
すべてはあるがままにしているこの場所に頭が痛くなる思いだった。がそれ以上に魅力があるここはぜひとも活用したい。そのためには──
「まずは”ゴーレム”作りからだな・・・ふぅ」
錬金薬を取り出す。もしもの時の活力剤として作っておいた”ディファイア”と呼ばれる昔ながらの錬金薬を一気に飲み干す。
「よし・・・やるか」
疲れを忘れるように意識をゴーレムづくりへと向けた。
まずは金属を溶かしていく。それも大量に・・・。幸いここには使わない鉄くずが大量にある。融点を超えて赤みを帯びて煮えたぎる。そこから不純物を取り除いていく。
出来るだけ純粋な金属の中に入れるのは、セルから微量に取り出した紫結晶の幽体液。これを魔力で圧を掛けることで深下しやがてエーテル化させてそれを溶けた金属と共に混ぜ合わせインゴットを生成する。
そしてようやくここで”放射刻印筆”を使う。これは昔ながらの疑似精霊鍛造術には欠かせないモノだ。
これでインゴットに刻印していく。そして出来たのは──
「これは・・・スライム?」
いくつか買い物を済ませ家を整理してきたベッカに見せるとその姿に小首をかしげた。
「ちがう・・・ゴーレムだ」
「どこがそうなの?」
「・・・見てろ」
うねうねと動き出しやがて少しずつ形成をはじめてベッカを模した形を取り出した。
「うぉ!?これはすごいわ!・・・でもゴーレムって言えば硬いのが代名詞なんじゃないの?」
「ああそうだ・・・やってみろ」
液体ゴーレムは拳を握り近くにあった金属板を殴った。きれいな拳の跡がそこには残った。
これで”リクウィッドメタルゴーレム”が完成した。
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読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字があるとおもいます。
お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。
また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!
併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。
良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、
面白いと思っていただいている点、
『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!
どうかよろしくお願いいたします!
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