序章 第10節
魔力と神性を同時に使うことで身体強化の更に先にある極地である成長。
「その手に掴むは懐かしき日々、漂う哀愁は己たらしめる《ラピッドグレース》」
その急激な変化についていくための治癒術。
「叫べよ、その声は鼓膜を響かせ、体を響かせ、空気を響かせ、いずれは我を響かせる《サークルオブグレートヒール》」
再現するは全盛期の体、破けるのを避けるためローブは外して服は脱いでおいてよかった。
「さて・・・はじめよう」
低くなった自分の声に違和感を覚える。が今は目下の敵の対処だ。
依然の模擬戦、アキュートとアンバーとの戦いで痛感した幼年の体の限界。その対策として身体をその負荷に耐えうるようにしてしまえば良いと考えた結果として生まれた魔術と治癒術の併用。
そして生まれた己が理想とする身体。
「・・・ふむ」
そうか体が大きいとパンツも耐え切れないか・・・。ローブを腰に巻き応急処置をする。さすがに弱点をさらしたまま戦うのはなんだか集中できない。
気を取り直す。
「まずは・・・」
ベッカの救助。魔力と神性は内に納め闘気を放つ。
斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ。
放たれた闘気の斬撃はベッカの首に手を掛けた男の首元から胴体にかけて縦に両断した。
首が落ちる。
「きゃあ」
ベッカはその恐ろしい光景に叫び声を上げる。ベッカの元へと一足飛びで駆け寄った。
「大丈夫か?」
そう呼び掛けるとベッカはこちらを見て目を見開いた。
「ひゃああああ」
先程よりも少し高い叫び声を上げた。
ベッカの視界に見えたのは先程、自分よりも小さな男の子がなぜか、凄まじいほどに顔立ちの良い青年なりどうしてか鍛え抜かれた上半身が露わになっていることだった。
だがその背後には頭から無数のケーブルがまるで髪が逆立つようになり、さらには赤く光る目のようなものが怪しく輝く老婆の姿がせまってきているのが見えた。
「ぎゃあああああ」
その恐ろしい姿にベッカは思わず叫んだ。
(そうか・・・この街なら首ぐらい見慣れていると思っていたがさすがに少し派手だったか・・・なら──)
目がこれでもかと言わんばかりに開いて左右を行っては来たりを繰り返すベッカの頬に手を触れる。
「ぴゃああああ」
ベッカは混乱した様子で頬を赤くなっているように見える。この部屋は赤く淡い蛍光に照らされているのだそのように見えるのは当然のことだろう。
「ええい!声を抑えろ・・・しょうがない今は3つ数えて今は寝ててくれ」
魔術を発動させた。
「
ベッカの意識は夢の中へと招かれていくのが見える。
「ななななにをいってぇぇ」
混乱した彼女によりその度合いが強くなる。がその耳にはたしかに聞こえた・・・羊の声が。
「羊が・・・一匹・・・にひk──」
意識は昏倒し項垂れた、そして彼女の体はゆっくりとした呼吸をはじめた。
後ろを振り返る。ボウシャワがすぐそこまで迫って来ていた。自ら動くでなくケーブルを引っ張り上げるようにして移動しているようだ。
「どうやら交渉決裂だねぇ・・・わたしをコケにしてくれたんだ。たっぷりお仕置きしてやらなくちゃねぇ、ギャギャギャ!」
老婆はこちらに顔を寄せて笑い声を上げた。
「媼よ・・・この前見かけたときとは大分と見た目が違うようだが」
その問いかけと同時に、闘気の刃をバウシャワにむけて振り上げた・・・がケーブルに引かれるように胴体は後ろへ下がり刃は空を斬る。
「おう怖い怖い・・・この前?それは──」
レユの目前に上から老婆の顔が現れた。逆さ吊りに吊り下げられ白目をむいた皴の多い顔、それはまさしく昨晩だったその時の顔である。
突然と白目は色を取り戻したと思えば顔が花開くように変形し鉄の種子が如くそれはあった。
そこから出てきたのは赤い色の煙。一体何が飛び出てくるかと構えていたが出てきたのは煙に拍子抜けしてしまうが・・・それが目的であった。
「ギャギャギャ吸ったねぇ?吸っちまったねぇ!!それは紅錆毒この辺りじゃそれに感染したら解毒薬を飲まない限り1週間で死んじまう猛毒さ!ギャギャギャ!」
確かに異変を体の底から感じる。
「1時間もすれば坊やは昏倒するだろうさ・・・そうなったらアンタの親にたかっちまおうって魂胆さギャギャギャ!」
どこからこちら語りかけているかわからないがハッキリと聞こえるボウシャワを聞いてフッと微笑してしまう。
「そうなれば・・・お互い大変なことになるな」
「何いってんだ?馬鹿かよテメェはよ。大変なのはお前の両親さね。あたしらはアンタでガッポリ儲けさせてもらうさギャギャギャ!」
「ホーーーーガーーン!!!」
ベッカの横にいた男の亡骸を見て、十字顔の男は頭を抱えて大きく声を張り上げた。その叫びには悲壮と怒りが含まれている。
「テメェーよくも弟をぉぉぉぉお!」
その人工の1つ目は、より紅く輝き熱を帯びはじめてそこから熱線が放出され、それはそれは凄まじい速さで迫ってきた。
足元に転がっていた亡き男が持っていた得物。先ほどはエネルギーの刃を出していたはず・・・。
蹴り上げて宙へと浮かせて手に握る。エネルギーの刃を発生しない。
(どうやらこれではいけないらしい・・・)
でもこれが剣の類であるのならばお前はその役割を果たせねばならない。
斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ・・・。
我こそはお前の新たな主人なり、お前が剣を名乗るモノならばその力を見せてみよ。
そうして刃のない柄を振り上げ迫ってくる熱線に向けて振り下ろす。
当然空振る・・・はずが、どういった原理であるのかエネルギーの刃は独特の音と共に現れ熱線と対峙した。
「良き」
エネルギーの刃は熱線を受け止めて尚も健在であった。それどころか熱線を吸収しはじめ剣身は赤くなっていった。
「あちちち」
温度が上がり煙を吐くその体に耐えられる熱線は勢いはなくなりやがて消えた。周りはその熱さに変形してしまっていた。
「このバカやろうが!あれほどアジトのなかで”レイ”を使うなと言っただろうが!!」
「うるさい弟がオレの弟が殺されたんだ!うぁぁぁああ!」
十字の男はその腕の中から大きなブレードが飛び出し、さながらカマキリのようであった。
そしてその大きなブレードを振り回しながらこちらに迫ってきた。
「・・・エーテル技術とはそのようなこともできるのだな」
そう感嘆として思いの述べながらも構える。
十字の男のそのブレードの名前は”マティス社ブレードシリーズ1700”その盗品である。エネルギーブレードが主流な中で実体のある刃をつくることに拘った一級品。超高温である1700度まで耐える合金で作られたその刃である・・・弟の自慢の愛剣であれど負けるわけがない。
(エネルギーブレードを斬り裂いてそのままコイツも真っ二つだ!)
熱を受け赤くなったエネルギーの剣身は持ち主からの強烈なプレッシャーを受けて、それはそれは奇麗に整えられていた。
エネルギーブレード、幽体液性セル─1000ハイパー付き。その性能の中に熱線を吸収する機能はない。明らかにその武器の機能を逸脱したモノ・・・それが可能にしたのは超高熱のエネルギーの刃、そしてそれに上乗せされたのは特大の闘気である。
容易く・・・それは余りにも容易くまるで紙を斬るがごとく”ブレードシリーズ1700”を切り裂き触れた先より熔解させていった。
十字の男は驚く暇などなく、口元だけの判断であるが勝ち誇った表情を浮かばせながらその視線は暗幕が掛かった。
胴体より裂かれたその体は高温の熱に耐えられず周りの物を巻き込み溶けていく。
「思ったよりも、じゃじゃ馬だなこいつは」
手に持つエネルギーブレードを見て使用感を述べる。
おそらくは誰も・・・その作成者でさえわからない感想であった。
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戦いはまだ続く。
「お前たちさぁなにをぼさっとしてるんだい?さっさとアイツを倒しな!」
未だ大金を稼ぐことを諦めていない統領、杖を小型化した”エミット”でエネルギーの弾を撃ってもすべて返され近づけば真っ二つ。このまま戦い続けるか迷うくらいの強さを眼前の青年から見せつけられていた。
「お前たちあいつを倒した奴には極上の”キャンディー”をやるよ!ほらその前に少し前払いだ!」
その言葉に端を発しアインヘッドのメンバーは身震いし異様な空気に包まれる。
「アァハハハハ!オレがさぁきぃだぁー!!」
狂気をはらんだ声を上げて、ナイフ、こん棒、エミットなどなどを持ち襲ってきた。
無我夢中まさにその言葉の通りの対峙していてもその目には自分が映っていないことがわかる。彼らの頭は何か特別なモノが占めている。
襲ってくるたびに斬り続けている。いつまでも付き合ってやる必要はない。
真理はいずこ・・・心理はいずこ・・・。
熱を帯びた連中には合うは心も凍る零度なり・・・そこよりは灯でさえもその役割をこなせまい。
「そこよりは、誰も彼も問わず、憎き敵も愛する者も、平に死する──」
一拍おいて唱える。
「永久に凍久」
火照った体の熱は、エーテルインプラント技術の性能に引き出すために拡張した部品をより熱くしていた。本来であれば耐えられないその痛みには感覚緩衝装置によって遮断されている。が事実としては体は熱を帯びている。
それを一瞬にしてその熱さを奪いさらに冷やし生きることを困難にし命を絶ち切った。
「まだやるか?・・・媼よ」
「はっ!じゃかぁしいわ!こんなやつらはまだまだいるさね!ここからが本番だよ坊や」
またどこからか聞こえるボウシャワの声より現れたのは、女性のような細いラインの機械仕掛けの体。四つん這いで歩行しながら近づいてきた。異様には俊敏な動きを見せる。
跳躍すると前と後ろの足より刃を出しこちらに向けた胴体よりは射出装置が表れ熱線を短い間隔で撃ってくる。
それが複数同時に、それも四方から迫ってきた。
斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ・・・。
一つ・・・二つ・・・三つ──
次々と斬り着けるが破損した状態でもまだ動き襲い掛かってくる。そしてどんどんと増えていく。それでも斬り続ける。
八つ・・・十二・・・二十──
「なんなんだよテメェはよぉ!」
ボウシャワの声が響く中、遂に機械仕掛けの身体はどこからも出てこなくなった。その代わり背後にケーブルに吊り上げられた老婆の姿があった。
「クソガキがよぉ・・・おとなしくつかまってりゃいいのによぉ!テメェ選択をミスったぜ・・・死ねよぉ!」
宙づりのまま迫ってくる老婆は頭から伸びるケーブルを器用に使っているのか俊敏な動きを見せてくる。鞭を思わせるしなるケーブルが迫ってきた。
斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ・・・。
「がぁぁぁあああ!」
老婆は最後の足掻きか体中からブレードを飛び出させて突進してきた。
だがそれも斬り伏せる。
「テメェになんか関わらなければよかったぜ・・・」
顔から胴体までを真っ二つにされその言葉を最後に動きが止まった。
「なんてぇなぁぁぁぁああ!」
横より鋼の槌が壁を破壊して現れた・・・否それは巨大な鋼の拳であった。
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読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字があるとおもいます。
お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。
また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!
併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。
良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、
面白いと思っていただいている点、
『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!
どうかよろしくお願いいたします!
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