序章 第9節
ベッカの家には、金属加工に必要な機材がいくつかあった。どれも使い古されているが手入れの行き届いたモノだということがわかる。
今日はここでいくつかの作業をさせてもらえることになった。
まずは疑似精霊鍛造術を行うための道具作りから、廃棄セルを硬貨を支払い譲ってもらいそれを解体しセルの本体である紫結晶の幽体液。そこから微量に残っているエーテル液を抜き出し刻印の際の顔料にする。
本当に少量しか取れないが彼女の家には廃棄セルが複数個あったのでそれをすべて買い取らせてもらった。
抽出作業のために場所を貸してもらったので貸料を払うとベッカは『そんなもらえないよ!』と言っていたが、どうにか皇国硬貨を受け取ってもらった。
「その変わりとは言っては何だけど──」
受け取ってもらう変わりにベッカにはある依頼をした。
それは相場の二倍は払うことを条件にした契約、鉄くずとセルの回収である。
(ベッカ自体は先の出来事で無償でやるつもりだったようだがさすがに忍びない)
まぁ自身の稼いだお金ではないので使うのは気が引ける感じがしたが今更だろう・・・。
ベッカたちが就寝したころ家を出た。
月下の”廃棄街”は先ほどの活気も天を照らすほどの明るさもなく、ただただ今は夜空の月から淡い光を発するばかりだった。
王城に戻り自身の部屋へ戻る。
灯りは無く暗い部屋の中で魔術を使い服についた匂いと汚れを消し外出の証拠の隠蔽を念入りにしたあとベットに潜り込んだ。
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日没後、部屋の窓を開ける。宮廷の高いところにあるせいかいつも風が強い。
風を浴びつつバルコニーに出てフード付きのローブを羽織る。柵に足を掛けると一気に身を乗り出した。
魔法を発動させる。
「
ローブは形を変えてまるで鳥の羽根のように広がり羽ばたいて見せた。風に乗り王都の方へと飛んでいった。
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廃棄街の手ごろな場所で下りる。
昨夜同様に街はエーテル光に照らされて活気立っている。
向かう先は鉄くずを使った家屋群のなかにあるベッカの家、目の前までくると扉が半壊し解放されていた。
急いで中に入ると家具は壊され荒れ果てていた。そこにベッカの養っている子供たちがいた。皆どこかにケガを負っていた。骨折しひどく青い顔をした子供もいた。
「レユ・・・兄ちゃ・・・ん」
微かな少しの物音で掻き消えるほど小さな声を上げる。
「・・・しゃべらなくていい」
手をかざす。使うは治癒術、元は宗教者が生み出した神の御業と呼ばれた代物。だがその御業は魔術師や錬金術師によって解析が行われたことで理解が進みもはや神の御業と呼べるような奇跡ではなくなったが多くの者を救う技術として定着した。
魔力は頭、闘気は体、神性は心に宿る。
「呼ぶは回復の兆し《コールオブヒール》」
倒れた子の腫れあがった足はみるみるもとに戻っていく。
「え・・・気持ちいい。うう痛くないよ」
戻った足をさすりながら男の子は感想を述べた。
「ふぅ・・・よかった」
神性は正直使用した時に浮遊感があって好きじゃないがそうも言ってられない。ほかにもケガを負っている子はたくさんいる・・・はやく治療しないと。
ようやくすべてのこの治療を終えて事情を聞くことができた。
(まさか、あの媼がそこまでの勢力を持っている奴だとは知らなかった。・・・その土地の事情を知らないと事を納めるのは難しいということだな)
計400ほどを生きてなおコレだ・・・まったく。すべてにおいて後手を踏まされる。
(・・・いやな気分だ)
子供たち曰く、昨晩にやってきた媼の名前はボウシャワというこの辺りを牛耳っているグループの一つのボスらしい。彼女は未だ現役である事を街に伝えるためああやって度々取り立てなどを行っているらしい。
彼女のグループ”アインヘッド”はくず鉄山の争いで負けその恩恵にあずかれなかったもののその他のビジネスでこの街に影響を与えているようだった。
こんな話を子供たちが知っているなんてよほどこの辺りが誰にとっても容赦がないこと証だろう・・・。
その家にベッカはいない。その理由は当然アインヘッドの統領ボウシャワの仕業であった。昨日の報復とベッカを人質に揺り金をせびるつもりなのだろう。
子供達に”アインヘッド”の連中はベッカの居場所を伝えていたらしくその場所を教えてもらった。
「僕たちも行くよ!」
と各々手に鉄の棒を持ち決意を込めた眼でいる。
「ダメだ」
「なんで!」
「足手まといだ」
「!・・・そうだけど私たちだってベッカお姉ちゃんを助けたい」
「分かってる。だから約束する必ず助けて戻ってくる。だからこの家にいてくれ」
「・・・・・・わかった」
部屋を出る。扉を閉めて魔術を一つ。
「
敵意あるいは悪意のある者を寄せ付けない民間伝承として語り継がれていた魔術・・・というよりは呪いに近いモノをこの家に付与した。
そしてもう一つ。
「
戸締りを強制的に行い、使用者が解除しない限り開かないようにできる魔術これも例に漏れない・・・が一つ手を加えて時限設定と特定人物の死を条件に解除できるようにしてあるからもしもの時は大丈夫・・・もう一つ掛けとくか。
「生まれたのは忠実さ《ボーンシード》」
それは玄関先に置く外敵を防ぐ目的で召喚される植物。擬態することも可能な生体であるため今回は雑草の形をしている。
これで十分に備えられた・・・そう言い聞かせて目的地へと足を向けた。
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「ほんとに来るとおもいますか?」
人であるはずだがその顔は既に原型をとどめている部分が少ないほとんどは人工物に埋め尽くされ目と思しき所には生物的なモノはなく赤く光る円形の物質が十字に取り付けられたラインに沿って動いていた。
体はまだ原型がありそのつくりは男である。
「来るよ・・・お前は体が熱いんだこっちに近付くんじゃないよ!」
皺の多い媼ボウシャワは男を杖で押し距離を空けた。
「へい!すいませんボス。これでも少し減らしたんですがね」
「ったくこの小心者が!自分に自信がないからそんな体になっちまうんだ!」
罵声を浴びせたあとボウシャワは質のいいソファに腰かけて、頭には顔が隠れるほどのヘッドギアのようなものを付けておりそのヘッドギアの至る所からいくつものケーブルが出ていた。
ベッカはその様子を伺いながらも手を縛るケーブルを外そうと必死だった。
「ギャギャギャ無駄だよベッカ」
独特な笑い方をしつつボウシャワはベッカに顔を向ける・・・と言ってもヘッドギアを付けたままであった。
「うるさい!さっさとはずせ妖怪ババア!」
ベッカは恐怖を隠すように強がって見せたがお見通しだったらしくボウシャワはまたも笑った。
「ギャギャギャお前は人質なんだ外すわけないだろ。そんなことしたら金泉を手に入れられないだろう。なんたってくず鉄一個にあんな破格な値段をつけてくれる奴なんだからねぇ・・・ギャギャギャ!」
下卑た笑いが部屋に響く。
「おっと・・・来たみたいだよ」
ボウシャワの表情が変わった。
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出迎えは昨晩のジョージだった。
背の高い男は玄関先でこちらを迎えるために待っていた。
「お前・・・よく来たな」
それだけ言うと背を向けて奥へと歩いていった。
それに続くように歩を進める。部屋全体は凄く暗い赤く淡い光が照らしているだけであった。
なにかの駆動音が時折聞こえてくるがそれが何なのかはわからない。道すがら出くわす”アインヘッド”の者たちはこちらを恐らくは睨みつけてきているはずだがほとんどは顔は改造されて真相は分からない。
(・・・まるでアリの巣だな)
そう思わせるほど複雑で通り過ぎた部屋はいくつもあった。
ようやくと開けた場所に出た。そのに広がった光景の中で目についたのはソファに腰かける老婆とその横でケーブルで吊り下げられた少女の姿だった。
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「ギャギャギャようこそ私の棲家に・・・よくこれたね」
「・・・そっちが呼んだんだろう」
「そんな構えなくていい・・・ただ商談がしたかったんだ」
「なら彼女を離せよ」
「そんなことしたら話聞いてくれないだろう?」
ボウシャワは口角を上げて話をつづける。
「お前は鉄くずが欲しいんだろう?だったらそこの汚いガキとじゃなくて私としようじゃないか?」
「断ったら?」
「分かってるだろう?・・・互いが望まない展開さ」
「・・・なるほど」
思考する。望む未来は彼女の生還。だがここで暴れて無事ベッカを連れて脱出したとしてもこの先ベッカは生活ができなくなる。つまりはここで生きることができ、なおかつ”アインヘッド”やほかの有象無象から無事でいるようにならないといけない。
(ならここで提案を受け入れるのも一理あるか・・・ってことにはならないか)
ボウシャワは沈黙の中で話を再開した。
「どうしたぁ?なにもイヤな契約じゃないだろ・・・私は金をアンタは鉄くずとそこの小娘たちの安全が買えるんだ。悪くないだろうさ」
「鉄くずの値段は?」
「アンタがあの子に提案した金額の倍だ」
「こっちが鉄くずがいらなくなったら契約は終了でいいのか?」
「ギャギャギャ!わかってるんだろ?そんなわけにはいかないことをさ坊や?」
「・・・やっぱり」
つまりは彼女たちの安全代として一生金を払い続けろということだ。安全と言ってもおそらく自由は無くこの廃棄街からも出ることは出来ないだろうが・・・。そして身代金をここで一括・・・ということも論外だ、なぜなら同じことが起きるからだ。
答えは決まった。
「ギャギャギャ!そんじゃ答えは決まったねぇ!契約成立だぎゃ?」
ボウシャワの下卑た笑い声が響く中で体の内より放つは魔力と神性。
ヘッドギアから感知アラームが表示された。ほかの者も各々感知した。
「やっぱりあの時のは魔法だったようだね・・・それにしても期待していたよりバカだったらしい」
アインヘッドたちは武器を手にして構え始めた。
ベッカの近くにいた者はその小さな首にエーテルから生み出されたエネルギーの刃を近づけた。
「・・・答えはとうに決まっていた」
ボウシャワのヘッドギア越しに映る少年はみるみると体が大きくなっていく・・・いやというより──
(成長している?)
ボウシャワは驚きのあまり次の行動を見極められず心の内で感想を述べるだけであった。
(ここにいる奴らは皆殺しにする。そしてこの街にいる連中に対しての見せしめに使おう)
殺伐とした環境で生きた記憶から色あせない感情が蘇る。それはとても軽いモノじゃなく・・・どちらかと言えばとても黒いものだった。
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読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字があるとおもいます。
お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。
また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!
併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。
良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、
面白いと思っていただいている点、
『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!
どうかよろしくお願いいたします!
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