序章 第8節


さて・・・闇雲に事態を探ってもいいが時間があるとは思えない。


だから一人では無理だ。だからそこで頼るのは人の手ではなく・・・ゴーレムの手を頼ることにした。


錬金術には一つの目標があった・・・それは命を作り出すことだった。その目的のための研究対象となったのは精霊であった。


精霊は魔法的な生物、人生を終えた生き物の成れの果てとも終着点とも昇華した魂とも言われる抽象的なモノ。研究は困難を極めその果てに、精霊同士がコミュニケーションをとっていることがわかりその方法を模倣した精霊文字とのちの呼ばれる言語を生み出した。


精霊文字は単一でも何かに刻むことで付加価値を加えることができた。そうして生まれたのが疑似精霊鍛造術。いわゆるゴーレムを生み出す技術であった。


本格的なゴーレムを作り出すには、時間と素材が足りない。だから今回は探索特化の簡易ゴーレムを作り出すことにした。


ちなみに蛇足だが、疑似精霊鍛造術はエーテル技術の根幹を担うモノの一つになっているらしい。


疑似精霊鍛造術の基本は、素体となる物はよいものを用意することに限る。これも蛇足だが魔法で生み出した物質は精霊鍛造術には使用することができない。


「開けるは我が秘匿、目に映らざる秘奥の郷、それは胸の内に他ならない」


ここは自分の部屋だが何かを錬金術を行うには小さすぎる・・・だから拡張した。


部屋に刻んだ印。それが光を帯びて壁に浮かび上がる。円状に浮かんだ文字の中心に開かれた奥行きに進む。一瞬の暗転の後に石造りの広い空間が現れる。


ここは次元の狭間でも異界でも魔法の空間でもない。実際に存在する場所だ。


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日は少し前に戻る。


人に頼らず現在王城で起こった賊の侵入と母の居所がわからなくなった件の状況把握をする理由は、内通者がいることを恐れているからだ。


そもそもだがここは皇国の中心であることから、外敵以外にも敵は多くいる。言ってみれば政敵である。


皇帝が存命中ではあるが、跡目争いはいつでも起きていて、理由は様々であるが今回母のシル・エーギン・タートルットはそれに巻き込まれたという可能性は十分にある。


つまりは跡目の子を少しでも減らすとか・・・もしくはもっと複雑な何かかは今は分からない。


探るしかないが人脈も無ければ影響力も無い・・・その上敵味方も分からない現状では”人の手を借りる”というのは悪手になりかねないだからこそのゴーレムの手ではあるが材料がない。


入手するため今は、王城を出て王都に繰り出していた。


(『王都は平和ですが危ない場所も多いのですよ』とアリスからの情報だったな)


今はその言葉から警戒して夜の王都を屋根伝いに移動している。


街はどこを見ても明るく昼間に太陽が大地を照らすがごとく今は空をこの街が照らしていた。


「エーテル光はこうも明るいか」


話には聞いていたし城もあちこちがこのエーテル光を携えたランタンで照らしていたが、王都はそのランタンを街の至る所に立てられた支柱に掛けており、その光はまぶしいほどだ。


だが今日はこの明るい街に用があるわけじゃない。目的の地はもっと先にある。


通称”廃棄街”と呼ばれている場所。ここも王都の一部であるが仕事を求めてやってきた地方の者たちが職にあぶれて住み着いた場所・・・それが、エーテル技術の発展によって多くの物資の運搬と大量生産が可能となった結果生まれた大量の使用済みの物。


それは仕事にあぶれた者たちにとってはまだまだ使えるモノ。もしくは使用できるように加工して売り物にするにはもってこいだった。


それが今や立派な王都の一部となった場所。ここには皇国軍憲兵は存在しない。


(さて・・・どうしたものかな)


大量の廃棄物と言われているが確かにまだまだ使いようはあるように思う。


「というか実際・・・使える」


廃棄された鋼の部品たち。この形のままでは使えないが熱で溶かし加工すれば問題ない・・・と手当たり次第に拾っていくと声を掛けられた。


「おい!お前!マントを羽織った!お前だよ!なんだお前見かけない奴だな」


古臭い油の匂いを纏わせた男が近づき警戒した表情でこちらを伺っている様子だった。


「お前・・・名前は?」

「レユ」

「レユ?ハハハ!まさかとは思うが皇帝の息子の名前を言えば俺がひれ伏すとでも思ったのか?」

「・・・そんなつもりはない」

「チッ!・・・そういえばお前いいローブを羽織ってるな・・・それ寄越せ」

「・・・嫌だと言ったら」

「オレの服のエンブレムを見てわからないのか?ここは俺たちアブドラの縄張りだ!ここでお宝探ししたいならそれなりの物寄越せって言ってんだよ!」


男は身分を隠すために羽織っていたフードの付いたローブを掴もうと迫ってきた。


魔術を一つ体の内より形成し詠唱を──


「ちょっと待ったぁー!」


オーバーオールを着た女の子が間に割って入ってきた。


「すみません!カウールさん!この子今日来たばっかの新人でここの仕組みをわかっていないんですよ!だからね・・・多めに見てもらえませんかね?っね?」

「悪いが無理だこい──」

「あーーー!そうだった!今日はこれ見付けたんです!」


とオーバーオールの女の子は腰につけたバックから青い液体の入ったガラスを金属製の枠で囲った物を取り出してきた。


「──つをってこれ!セルじゃないか!ベッカやるじゃねぇかテメェ!」

「へい!ありがとうございます!」


ベッカと呼ばれた女の子は低頭するとカウールと呼ばれた男は軽くその頭を小突いた。


「これは俺がもらってく!今日は機嫌がいい!おい坊主、ベッカに感謝するんだな!ハハハ!」


というと男はベッカの手からかすめ取るようにセルをもってどこかへ行ってしまった。


「ほら!いくよ!」


ベッカは突然手を握り引っ張った。その勢いのままにゆだねていると鉄くずの山を囲んだフェンスの外まで来た。そこで手が離された。


「ちょっと!あんたどうしてあんなところにいたの!」

「えっと・・・」


ベッカはとても怒っているようだった。


「あんたどうやってここまで来たのか知らないけどここはあんたみたいな坊ちゃんが来るようなところじゃないのよ!わかる!」


怒った表情のまま迫ってきた。


「・・・すまない」

「すまないっじゃないのよ!おかげで私のセルを上げる羽目になったでしょ!どうしてくれるの?あれがあれば一か月の食費になったのに!」

「そんな高価なモノだったのかあれは?」

「あんた・・・本当にどっかのボンボンなのね。セルも知らないなんて!」

「いやセルは知っている・・・それが高価なモノだったことが知らなかったんだ」

「セルは高価かよ!あれはね・・・ってこんなことしてる場合じゃなかった!あんたもきなさい!」

「えっ」


また手を引かれてどこかへ連れていかれた。


凄く古く寂れた家屋。その扉をベッカは開き中へ入っていく。それにつられるように入ると古びた家具が並びそこには自身と同じほどの歳の子たちがいた。


「ただいまー」

「お帰りベッカお姉ちゃん!・・・まただれか連れてきたの?」


出迎えてくれた子供たちはベッカに集まり朗らかな笑みを浮かべていた。それだけでこの子たちにベッカが好かれていることがわかる。


「この子は違うのよ!見なよいい服着てるでしょ!私たちとは違うのよ!」

「えーじゃあなんで連れてきたの?」

「それはね──」


ベッカ曰くこの街は特に夜が危ないようだった。


(まぁそれはどこも一緒だと思うが・・・)


一番の問題はこの街には皇国軍憲兵が駐在していないことと他の場所と隔離されていることだと彼女は言った。


そんな彼女は捨て子を拾ってここに住まわせ食い扶持を稼いでるらしい。


「将来はエーテル技術者になったここを出るんだ!」


と意気込んで今日拾い集めてきた部品を嬉しそうにさわっていた。


その後『今日はここで泊っていけ』というベッカは提案してきた。その好意に甘んじて・・・というわけにはいかないので機を見てここを抜け出そうとそう算段を立てていた時。


扉がどんどんと鳴る、この家に用事の来訪者からの合図だ。


ベッカは、コーンの粉末を水で薄めた無味のごはんを食べていた手を止めて、扉を開けた。


そこには年老いた女性とその背後には背の高い皺の多い男が立っていた。


「相変わらず汚いところだね・・・」


開口一番悪態をついて部屋の中に入ってきた。もちろん男も一緒だ。


「今月の家賃払ってもらうよ!」

「そんな!今月の支払いはまだ先じゃ──」

「先月分も未納なんだよ!これでも待った方だよ!」

「っひ!」


年配の女性はそのしわの寄った顔をさらにしかめベッカを叩いた。


「ごめんなさい!」

「ごめんなさいじゃないんだよ!この馬鹿女が!金もないのにこんなにガキを住まわせて・・・また一人増えたのかい!そんなことする暇あったら私に金払いな!」

「来月にはどうにか!」

「ダメだ!今日払えないなら出てってもらうよ!」

「そんな!」

「無理とは言わせない、ジョージ!」


老婆がそういうと後ろにいた男が前に出てきた。


「こいつはね・・・女子供だろうと容赦しないよ。どうしてもここに住みたいならベッカ・・・あんたには体で払ってもらうよ。ケッヘヘヘあんたには立派なもんが付いてるんだ」


意地汚く笑う老婆を前にベッカは絶望した表情を見せる。


「・・・ちょっと」

「ん?」


老婆が不機嫌な顔でこちらを睨むように振りむいた。


「なんだい坊や、もしかしてあんたいっぱしの正義感でこの女を守ろうってか!黙ってな!」


声を張り上げ唾を飛ばす老婆に続けて話しかけた。


「お金を払えばいいんだろう?」

「あんた誰に口をってまぁいいさ・・・そうだよ坊やもしかして坊やが体で払ってくれるのかい?よかったねぇジョージ」

「違うさ・・・ほらこれで足りるか?」


どこかで必要になるかも持ってきた硬貨の入った袋。それなりにたくさん持ってきたがさすがに全部必要だと思わないので手に握れた分だけを老婆に渡す。


その硬貨の数と色を見て老婆の目の色が変わった。


「ほうほうほう!これはこれはもう少しあれば先月分はたりるんだけどねぇ」


老婆は歯のない口をさらすように口角を上げた。


「いや足りるわよ!むしろ今月分いれても余るぐらいよ!」


ベッカは老婆の手に乗せられた硬貨を見て叫んだ。


「黙りなベッカ!これは私と坊やの取引だ!それでどうする?」


老婆は意地の悪い笑みで問いかけてきた。


「わかった・・・ただしこの袋に入った硬貨を半分でこの家を買いたい」

「なに!・・・そいつは無理な相談だよ・・・あんまり調子に乗るなよ!ジョージ!」


ジョージと呼ばれた男はベッカを掴んで持ち上げた。


「ベッカを売られたくないならその袋全部寄越しな!それでベッカの身売り代と先月の家賃代としてやるよ!どうする坊や?」

「・・・そうか」


硬貨袋を手に老婆に近付く。


「ヘッヘッヘ、いい子だねぇ~」


老婆の笑い声が部屋に響く。


斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ


闘気の刃でジョージの意識だけを一刀のもとに斬った。


大きな音を立てて倒れるジョージの姿を見て老婆は驚く。


「ひやぁあ」


と同時に腰を抜かした。老婆の目の前に立つ。


「さぁ賽は投げられた。この硬貨を受け取るか・・・この男のようになるか。どうする嫗よ?」


老婆はその言葉に従う他に選択肢はなかった。


「ありがとう、ありがとう!」


背後からベッカの熱を感じた。


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読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字があるとおもいます。


お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。


また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!


併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。


良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、

面白いと思っていただいている点、

『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!


どうかよろしくお願いいたします!









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