序章 第7節
(これだ!これこそだ!)
アキュートは目を見開きその姿を捕らえ続けていた。その小さな体から発するには大きすぎる力の波動に体を締め付けられているような気さえした。
(フフフそうだろう、そうだろうともさ!)
隣にいるアンバーを傍目で覗くと驚きの表情を浮かべていた。
(一度対峙した私でも驚いているのだ!はじめてであればなおさらだ!)
と内心アンバーを擁護していたがアキュート自身もそんな余裕は続かなかった。
「全く!・・・これほどとは!圧はあの時以上か!」
両の手で剣を持ち構える。
「シクリッド流、推して参る!」
「ノータス流、推して参る!」
アキュートとアンバーは互いに流派を名乗ったあと走り出した。
「二人いるのだ・・・それならばこちらも剣を二つでお相子」
木剣を両の手に一本ずつ持ち、まるで師が弟子に言う様なセリフを吐いた。本来ならばなにを馬鹿なと怒っても良さそうだが二人は既に集中しその声に反応することはなかった。
「シクリッド流一剣ウスライ!」
あの日見せた剣技ウスライ。一刀に神速の横に薙ぎを入れるが避けることもせず一剣で薙ぎ一剣で払う。それを容易くしかも素早く返したのだ。
アキュートも負けず劣らずに反応し紙一重で避ける。赤子が少し成長した程度の膂力しか持たぬはずの相手が自身の剣技を片手で払い、あまつさえ反撃までしたのだ。
「どうなっているのだ・・・まったく」
あの日でさえその才能に驚いた物だが今日はそんなものではない。というか手加減されていたのではと内心では思いだしていた。
「・・・そうであれば、あの時の私の反応と言ったら恥ずかしいものだ。シクリッド流一剣カイテイ!」
相手の攻撃に対して呼応するように流れる剣撃。受け太刀しようと構える剣に対してそれに反応し別の個所へと攻撃の矛先を変えて一撃を入れる技。
斬らねばならぬ・・・。
今回はその刃先は腹に向かっていったがそれは叶わない。なぜならそれは受けの構えではなくアキュートの持つ木剣ごと叩き斬る剛の剣であったからだ。
(斬られる!)
咄嗟の回避も間に合わず研ぎ澄まされた感覚が見せるすべてが遅くなった視界。
「あぶねぇ!」
アンバーはその言葉と共に背後から駆け付け、アキュートの代わりに剣を受け止める。
「ノータス流”孤剣”
ノータス流は”硬い剣”と呼ばれる守りを得意とし相手の隙を突いて反撃をすることに長けた流派。その一つの技”
弧を描き返る剣撃はその途中で止まり押し返されはじめた。アンバーの額からその心情を表すように一粒の汗が流れる。
斬らねばならぬ・・・。
木製の剣と木製の剣を交差。本来であれば鋭さの無い物同士であるがアンバーの持つ木剣に刃が食い込んだ。
「おい嘘だろっ!」
剣技は、闘気丈という体に宿る力を用いる技術である。魔力は頭に、闘気丈は体に宿ると言われるほど鍛えれば鍛えるほどその力は増すとモノであるが闘気をより高めるには幼少期より鍛錬を続けるしかなくその点でいえばアキュートとアンバーは間違いなく皇国内でも同年代であれば屈指と言える。
そのアンバーが闘気を込めた剣技を、幼子に返されたのだ驚くのも無理はない。
その幼子の背後より迫る影がある、他でもないアキュートである。
「シクリッド流”一剣”、
ウスライと同じモーションであり放つ闘気も一緒だがその威力は圧倒的に高い。
レユがその攻撃を受けた木剣は押し込まれていく。
「良き」
レユはそれだけ言うと彼自身の放つ闘気はさらに上昇する。そして二人まとめて押し返され吹き飛ばされた。
急いで態勢を立て直しレユの方へ向き直る。目視した彼から放たれる闘気がまた上がる。
「・・・オレは一体何を相手に戦っているんだ」
眼前の幼子はまるで伝え聞く魔王のようにさえみえるほどおよそ人が醸し出すモノではないように感じた。だが彼のノータス流の教えが頭を過ぎる。”恐れは動きを鈍くさせるが、抱かぬことは出来ないだからこそ飼いならせ”と・・・鼻から息を吸い込み深呼吸をする。
「まったくどっちが指南役なんだか・・・」
指南役でもない彼だが感想はその通りであった。今や挑戦者は彼らだ。
アキュートは胸の鼓動はより高鳴っていた。
アキュートは、今まではソリー家嫡男としての義務と伝統で騎士を目指し鍛錬を続けていた。だが今この時はそのことを忘れ全力で戦いを楽しんでいた。
(愉悦!これこそは至極の愉悦!)
普段の彼からは想像できない歯を見せる笑顔。
「すばらしい!素晴らしいですぞ!おうじぃぃい!」
彼は走り出していた。向かう先はもちろんレユのいる場所。もう彼には幼子を相手にしているという感覚は皆無だった。
「シクリッド流”一剣”奥義、天と地のすべては
それは闘気を限りなく澄み切った状態にすることでしか発動できない。剣技であるが剣技を逸脱した奥義。目に見えるすべてが青く塗りつぶされていくまさに大波のようであった。
だがそのすべては斬撃である。
「良き」
溢れる闘気を手に持つ木剣に乗せた大きな一振り。
「袖の一振り”穿ち”」
木剣から伸びる斬撃、それには溢れんばかりのただの木製の剣には過多の力が乗せられていた。そしてアキュートの奥義津波のように押し寄せる斬撃を縦に分けてしまった。
黒々とそれは稲妻のように一瞬の轟音と閃光と共に、大地を割るように斬り裂いた。
「・・・まじかよ」
アンバーはその姿を見て驚きながらもそれが表立って表情に表れることはなった。というよりは驚き疲れて反応が鈍くなったという方が正確だろうか。
目線の先にいるシクリッド流の奥義を斬り伏せた張本人はゆっくりとこちらに振り向いた。
その姿を見てアンバーは剣を握り直した。そして闘気を込める。
ノータス流は剛剣でありながら反撃を基本としている。その理由は剛の剣に隙が多いから。だが反撃ではなくこちらから仕掛ける剣技がないわけではない。というよりはそれがノータス流の奥義であった。
「ノータス流”孤剣”奥義、
豪の剛。身に余るほどの闘気を憤怒へと変換し鬼人と化してすべての力をその一撃に込める奥義である。その衝撃は凄まじいその一言に尽きる。
(いかに木剣を闘気で固めても無理だろう・・・)
上段から両手で構えたところから迫りくる闘気をありったけ込めた剣の圧。
「が!ならばこそ!」
片手に一つずつ持つ木剣に闘気が収束して雷鳴のごとく音を立てる。
「袖の一振り”弐の天仰”」
下方より二つの剣が交差するように振り下ろされる剛剣を迎え撃つ。
それを例えるならば天と地より二つの雷がぶつかり合うようであった。
その結果、天が割れた。
空中へと放り出されたアンバーは何度か回り地面に落ちた。奥義を使い闘気を大分と失った二人を前にレユは剣先を向けていたが二度の技に耐えられず刃先より崩壊し塵となって風に消えた。
だがその持ち主である本人はいまだ健在であり、凄まじいほどの闘気を放つ。
「・・・これで終わりか」
二人は剣を構えているが呼吸は乱れ疲労が見える。
「私はまだいけますぞ!」
アキュートが声を上げ剣を構えるが先ほどのような闘気の圧は感じられない。
「良いのか・・・私は手加減しないぞ」
「皇子こそその手には何も持っていないように見受けられますが?」
「ふん、無手であっても今の御目ほどであれば容易いさ」
と闘気を上げようとしたが力が抜けていく。
「そうか、さすがに負担を掛けすぎたようだな」
出力が下がり肉体の疲労を感じる。
(さすがにいかに強化していようと幼子であれば無理があるか・・・)
「今回は痛み分けですね」
「そのように思うか?」
「フフ・・・いや私たちの負けでしょうな。そうだなアンバー」
「・・・ああそうだ。降参ですよ、皇子」
二人の声を最後に気が抜け地面に倒れた。
「いや・・・痛み分けだな」
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現状の自身の力を把握できたことはとてもよかったところだ・・・だが悪かった点はそのあと長い時間メイドに怒られたことだ。
(いつまでたっても怒られるとは・・・気が咎めるものだな)
が落ち込んでもいられない。自身の力量を把握できた後は、母シル・エーギン・タートルットが今どこにいるのか、そして殺害を計画した者にはどういった思惑があったのか・・・それを調べていく必要がある。
扉を叩く音がした。
「入ってよいぞ」
許可を出すと扉が開きそこに立っていたのは、メイドのアリス・デフリツ・ダーランドだった。
「失礼します。体長はよくなりましたか?」
「ああおかげ様で・・・だからその機嫌を直してくれ」
「怒ってはいません・・・私は怖かったのです」
「怖かった?」
「はい、あなた様が死んでしまうのではないかと・・・」
ベットに近付き寝ているこちらに身を寄せ、目に薄く涙を浮かべる彼女の顔に触れる。
「それは申し訳ないことをした。その今後は善処する・・・だから泣かないでくれ」
瞳に貯まる涙を拭い取る。
「ええ約束ですよ!」
アリスは両手を硬くその手で包み込んだ。
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読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字があるとおもいます。
お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。
また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!
併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。
良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、
面白いと思っていただいている点、
『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!
どうかよろしくお願いいたします!
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