序章 第6節


昨日はかなりの夜更かしのせいで少しきつい目覚めとなった。そのため魔力に多少の乱れがある。


(こういう時に一番効くのは・・・)


気力はあっても体に活気がなければ魔力は乱れてしまう・・・そういうときの疲れを癒す良い方法は・・・湯浴みである。


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「レユ様、湯浴みの前に服を脱がせますので手を広げてください」

「いや、自分でできるよ・・・」

「何を言っているのですか!皇子である御身が湯浴みを自身で済ませてしまうなど!皇家の恥と言われてしまいますよ!」

「ええそうです、ほーら手を広げてくださいな」

「はぁ・・・わかったよ」


アリス、カーレン、エリーザ。3人御付きメイドに湯浴みに行く途中に見つかってしまいこのざまとなってしまった。諦めて素直に手を広げることにした。慣れた手つきでボタンをはずし、ズボンを下ろしていく。


恥ずかしい限りだが・・・ちょうどよい機会と昨晩のことを聞くことにした。


「そういえば昨日の騒動。その後はどうなっている?」


と投げかけた疑問に3人は顔を見合わせあと首をかしげて答えた。


「はて?・・・申し訳ありません昨晩の騒動とは一体どのようなことでしょうか?」


なんと・・・あれほどの騒ぎであったはずだが家中メイドの耳に入っていないというのはおかしい。城でおこったことは彼女たちの耳に入る速度は速い。そしてそれが噂として広まるのもはやい。だからどこから聞きつけたのか、アキュート卿との手合わせなどはすぐに”剣の神童”なんて誇張して広められているほどだ。そのせいで今やアンバー卿というアキュート卿の同輩を筆頭に見物人が訪れるほどだ。


その彼女たちの耳に入っていない・・・。


「であれば・・・今日母に会いたい。日程を調節してもらえないか?」

「えっと・・・それがですね・・・」

「シル側妃には、今日はお会いになれないようです」


アリスに変わり、カーレンが答えてくれた。


「どういうことだ?」

「それが体調を崩されたとかでー快復されるまではだれもお会いにすることは出来ないようです」

「・・・そうか」

「・・・一度伺ってみましょうか?もしかしたらレユ皇子であれば・・・あるいは」


エリーザが気を使って提案してくれた。


「よい・・・忘れてくれ。僕の聞き間違いだ。ここで僕が聞いた事も忘れよ」

「はい、承知いたしました」

「それとな」

「はいなんでしょうか?」

「湯浴み場まではついてこなくてよいぞ。少し一人で考えたいことがあるのだ」

「ですが・・・」

「・・・ではな」


レユは返事も聞かずにタオルを持って煙立ち上る湯浴み場に消えていった。


その姿を3人のメイドは見送った。


「聞きましたか、カーレン!エリーザ!」

「ええ」

「・・・うん」


3人は顔を突き合わせるほど近づき会話をつづける。


「レユ様ったらますます、口調がとても皇族の方らしくなられて」

「ほんとですねー・・・アリスさんから聞いた時にはまた誇張してお話になられているかと思いましたのにー」

「私のそう思っていた・・・でも違った・・・」

「ちょっと!二人ともひどくありませんか?」

「ですが、この前は王都にとても大きなパンケーキを出す店ができたと言って連れて行っていただきましたが・・・」

「うん・・・そんなに大きくなかった・・・」

「いや!十分大きかったよ!カーレンもエリーザも大食いなだけだよ!」

「私はそんなことない・・・カーレンは大食い・・・」

「あらぁー私だってそこまで食べませんよー」

「ちょっと話が逸れた!」

「そうでしたねー・・・それにしてもあれでまだ5歳ですからねー。レユ皇子はこの先が楽しみですねー」

「うん・・・そう思う・・・」

「うん!本当だよね!」


その後も3人は湯浴み後の準備をしつつ談笑は続いた。


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大きな桶に貯まった湯。そこに肩まで浸かりそのぬくもりを全身で感じる。


それにしても・・・どういうわけだ。賊が入ったというのは城にとって一大事だ。お皇族にしろ、側近たちにしろこの先の危険がある。それになにより腹立たしいのは母であるシル・エーギン・タートルットが殺害されかけたのだ。大騒動になってもおかしくないはずだ・・・。


だがメイドもそうだが、宮廷内の雰囲気も特に変わった様子はない。


(とすればどうして隠蔽しているのか・・・ということになるが)


考えようにも答えはない。当然だまだ5歳の子供に情勢など伝えられるはずがない。加えて一番最後の側室の息子・・・となれば中央からはより遠のくだろう。


(こうなるのなら、昨晩は最後まで付いていくべきだったな・・・クソ)


自身の詰めの甘さに少し気分が悪くなる。400年も生きてこれなのだから自分の事ながら始末に負えない。


(さて・・・)


後悔を続けていても問題は片付かない・・・未来の希望を腹に携え生きる者は守らねばならない。


(ならば・・・行動だ)


立ち上がると体に纏っていたぬるま湯が落ち弾け辺りを濡らした。


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場所は鍛錬場。そこには二人の青年が立っていた、ふたりともレザーアーマーを身に着けている。


アキュート・ダリウ・ソリーとアンバー・ダントン・ジャックだ。


「お前は自分の仕事にいったらどうだ?」

「ん?どうしたそんなに俺がいると稽古はやりづらいか?」

「当たり前だ・・・人が違えば教え方も違う。お前が口を挟むと皇子が混乱してしまうだろ!そうなれば育つモノも育たない」

「わかった!わかった!口は挟まないから居ていいだろ!」

「・・・ほんとだな?」

「おうさ!男に二言はねぇ!」


眉を潜み怪しむアキュートの肩に手を置きアンバーは、太陽のように晴れやかな笑顔で返す。お互い顔立ちの良いためこういったやり取りをしていると変な噂がたってしまうほどだ。


アンバーは気にしていないが、アキュートはあまり好きではない。そういったことから肩を動かし乗っかっていた手を振りほどく。


「そろそろ来る頃だ」

「おっ!」


アキュートは時間を読み姿勢を正した、アンバーも遅れて同様に正す・・・とすぐあとにレユが現れた。


「今日もよろしくお願いします」

「皇子・・・我々はあなたの下につく者です。もう少し威厳のある言葉遣いでよろしいかと思いますよ」

「いいじゃないかアキュート!俺は好きですよ」


そんな二人の対照的な反応にレユは「善処するよ」と軽く返した。


鍛錬場の端にいくつも立てかけられた木製の武器。そのなかで剣を一振り選ぶ。


「ところで二人は昨晩は騒動について詳しく知っているかな」

「騒動?」

「そんなことありましたかね?」


メイド同様の反応。”騎士”の称号を持つ二人も知らない。昨晩対応していた女性も”騎士”を名乗っていたが同輩というわけではないのだろうか。


「いや、いい・・・わからないなら忘れてほしい。申し訳ない・・・変なことを言ってしまったです」


今だ言葉の使い方は慣れない。子供なのだから年上ということになるはずだが身分はこちらが上・・・だが礼儀を欠かないようにしたいという具合に言葉が右往左往してしまう。


「?・・・皇子が言うのでしたら忘れましょう。特にお前だアンバー・・・お前は口が軽いところがあるからな」

「分かってるさ・・・気を付ける。まぁ・・・何かあっても俺たち”騎士”団が守って見せますよ。幸いここ100年くらいはこの国は平和そのもの・・・そんな心配もないですがね!」


レユはそのアンバーの発言が気に食わなかった。


(この騒動を同じ”騎士”たちが共有していない。この国は平和だというが昨日の今日だ・・・そんなもの信用できない。その上真実を知る自分は5歳とあまりに若くどうにも動くことができないというのに・・・騎士が・・・この国を守る盾がこの様か)


転生しなんとなく生きてきたこの5年。目標もなくどうしたものかと思っていたが・・・これはやるべきことが見つかったかもしれない。


「アキュート卿、アンバー卿・・・今日の稽古どうか本気の手合わせを願いたい」

「ん?皇子・・・どうしたんです?」

「・・・よいか?」


困惑するアンバーに対してアキュートはあの日の事を思い出していた。


(最初の日・・・皇子の手合わせの最中と雰囲気と言動が同じだ。あの日以来鳴りを潜めていたと思っていたがよもや現れた!)


アキュートの心は高揚とした。


「ええいいでしょうとも!アンバーお前も剣を取れ!」

「えっ!いやお前今日は手を出すなって・・・」

「皇子からの願いだ、今回は例外だ」

「って言っても相手は子供だぞ!本気って・・・っと失礼、皇子!その他意はないのです」

「構わない。アンバー卿・・・頼む」

「って頭を上げてくださいよ!そこまで言うなら・・・わかりました」


アンバーは明らかに気が進まない様子で木剣を取った。


(今回は前回のように手加減はしない。今この体で出来る限界をどうか確かめたいところ・・・周りがあてにならないなら自分ですべてどうにかするしかあるまいさ)


距離を空けて二人に視線を向ける。


斬らねばならぬ・・・斬らねばならぬ・・・我が力を制限せしモノを斬らねばならぬ!


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アンバーはどうしようかと思案していた。


(さて・・・どうしたもんかなぁ・・・本気って言ってもな)


アンバーは正直にいえばアキュートが言っていたことは話半分で聞いていた。


実際会った時感じも特別何かを感じることはなかった。


(まぁ・・・皇子ということを差し引いてもあの年齢で礼儀よい。が剣の才能は騎士団が抱えている予備生にもこれくらいの奴はいる。アキュートがなにをそんなには買っているのかわからない。という感想を抱く程度だった。


がそのとき突然眼前にいる小さな子供から発せられたとびきりの圧力。アンバーはそれに剣を構えずにはいられなかった。


(おいおいおいおい!まさかのまさかかよ!まったく!)


アンバーは直前まで抱いていた感想をすべて捨てた。


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読んでいただきありがとうございます。


誤字脱字があるとおもいます。


お手すきの際に良ければ報告いただければと存じます。


また、応援♡または星★を頂ければ励みになります!


併せて、より良い作品を作っていきたいと思っております。


良ければ、『読んでいてこういう展開を期待していた』や、

面白いと思っていただいている点、

『こうなれば面白くなるかも』という点のコメントなどいただけましたら幸いでございます!


どうかよろしくお願いいたします!

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