第28話 信じろ、信じて

「もういいだろう

そこの2人出てこい」


((喋った!?))


突如発せられた隻眼の言葉に息を呑む


岩陰から身を出し近づく


「...そんな警戒するな

と言っても無理か」


隻眼は盾を拾って自分や一角を回復させる


一角の外傷も癒え、ムク!と立ち上がる


「あぁ、痛ってーな少しは加減しろよな

お?アンタ...まさか」


何かに気付く一角


「気付いたか、此奴がいれば最奥にいる

ヤツに一泡吹かせられる」


(は??何の事だ?ヤツって?)


「....カイさっきと違って殺気も闘気も感じないね」


ミコトが言う通り先程の戦闘が無かったかの様に


2頭のミノタウロスは


カイ達の方にやってくる


そして腰を据えた


「悪かったなぁー、アニキっ」


一角の言葉に隻眼は拳骨を喰らわせる


「痛ってぇぇぇ!!!!何すんだよ!?」


「王の御前だ少しはわきまえろ」


「王!?どういう事?」


頭を抑える一角を無視しながら隻眼は


「そちらの戦斧、我ら一族の宝具でございます

所有者は問答無用で我らの王と言う事になります」


((えぇぇ!!!??))


元の持ち主であるミノタウロスを倒し


手に入れた片手斧だったがソレは


持ち主を見定めるモノらしく


見合わない相手だと消滅し


王の資格がある者の前に現れる


そういう代物なので


カイは斧に認められたという事になる


「そんな事、言われたって...最近手に入れて

使い始めたばっかで、王の資格とか言われても

俺、どうしたら」


「大丈夫です、我ら一族をどうこうでは無く

我々が貴方様を王と崇めたいというものです」


(あんなに強い2頭がまるで

大切な家族を見る様な眼差しをしている)


「よしゃ!それじゃあ王様

この先にいるヤツを倒しに行くか」


「...ヤツって?」


ミコトが先程の会話で聞いたのを


思い出しての発言だった


「あぁ、ヤツってのは嬢ちゃん」


一本角に被せる様に隻眼が続ける


「ヤツはこの奥にいる金狼フェンリルの事だ

我ら一族の玉座に居座る厄介者でな

我ら2人でもヤツのスピードについていけず

防戦一方でなどうにか対策をと思い訓練していた

そんな所に王が現れた」





(.....一本角と隻眼が....防戦一方?)




「...我らではヤツに攻撃が当たらない

我が王はスピードに自信はあるか?」


隻眼が言った事実に呆けてしまったが


「あぁ、スピードが上がるスキルを持ってる

けど、ヤツにダメージが入るかどうか」


不思議そうに一角が


「王様はちゃんと強いだろ?

確かに俺らみたいな怪力ではないだろうけど

その斧があるじゃんか、ん?」


斧を見る一角と隻眼


暫くして一角が笑い出し


隻眼は苦笑を浮かべた


「あははは!

確かにその状態じゃ、心配にもなるわな」


「王よ、その斧使いこなせてないな」


一角と隻眼曰く、斧の機能を


全くと言っていいほど使えてないと言う


「私共が使い方をお教えすると共に

訓練をしましょう、そちらのお嬢さんも」


そうして訓練を始めた


斧の機能


その機能は確かに使えていなかった


まず宝玉が埋め込まれている斧だが


魔力を流す事により形が変わる


斧から刀、盾、槍仕舞いには鎧など


想像できれば何にでもなる


とても便利な物だった


更にモンスターのドロップアイテムを


宝玉に取り込ませるとそのモンスターの


スキルなど使えるらしい


素材が大きければ召喚も可能だと


カイとミコトは1時間ほど2対2


の戦闘訓練を行い、互いの動きを確認し


休憩をとる


「王様はあれだな

連携が苦手だな嬢ちゃんとの間合いとか

意思疎通ができてねぇ

突っ走って行っちまうから

嬢ちゃんが合わせるのが精一杯って感じだ」


「お嬢さんは作戦を立てるのは得意な様だ

だか、咄嗟の対応が雑になっている

もっと臨機応変に処理出来れば

もっと冷戦な判断を出来る様になる」


カイとミコトは個人で戦って来たこともあり


連携をとるというのが難しい


「...もっと臨機応変に」


「突っ走っちゃうのは

どうにかしないとな、もっとミコトと意思疎通を」


更に訓練は続き


3時間ほど経過した


一角は盾を構え突進してきた


即座にミコトがラビットホールで上空に飛ばし


カイが斧を構え飛び上がる


一角がそれを待ってたかの様に盾で吹き飛ばす


飛ばされた先には隻眼が剣を構え


横一閃、カイはそれに斧を合わせるが


斧を持ってる腕が痺れるほどの衝撃


前転の形でどうにか受け流す


ミコトはラビットホールを着地点に発動する


カイを助けるために


しかしカイの反応は違った


「ミコト!違う!

お前の上だ!」

 

困惑するミコト


そんなミコトにカイは一言


「信じろ」


その言葉は安心感であり勇気をくれる


ミコトは直ぐに真上に


ラビットホールを2つ展開


「うぉ!?スキルで見えなくしてたのに

よくわかったな王様、それによく信じたお嬢」


盾で上手いこと受け流し一旦距離をとる


カイ吹き飛ばされた先の壁を足場にして


隻眼、目掛け横一閃!


「なっ!?」


隻眼は驚きそして喜びの表情を浮かべていた


コンマ数秒遅れた隻眼の一閃と


カイの一閃が重なる


キーン!!!


金切音が響く


隻眼も一度距離をとった


「2人とも動きが良くなりました」


「俺らが教えられるのはあと連携技くらいか」


「「いくぞ!」」


一角と隻眼は腰を落とし


次の瞬間地面をえぐる音と共に突っ込んできた


先に反応したのはミコトだった


ラビットホールを展開したが


それを待ってたかの様に


一角と隻眼は軌道を変え


左右に別れカイの目の前まで接近する


「カイ!真下にブレス!」


そう叫んだミコトに驚いたが


ブレスのモーションに入る


カイの真下にラビットホール


更に一角と隻眼を囲む様に


ドーム状のラビットホールを展開し続けた


そこはまるで無重力空間


なんせ地面がないのだから


ただここは重力があり


下に落ち続ける


「最大までタメて!

それまで私が時間を稼ぐから!」


ミコトは鼻血を垂らしながらカイに言う


無理しているのだ


本来の使い方ではないラビットホール


短時間ではあるがここまでの連続使用


倒れないとも限らない



(ミコト...)


カイはミコトの状態を見て


中止を...と思ったが


「信じて」


ミコトはニコッと笑い


そう言う


(....信じてか)


カイは更に息を吸った


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