第6・7・8話番外編 僕の恋 【side蓮】

俺は先週の金曜日、クラスの男子3人と話していたら好きな人の話になった。ほかの二人が好きな人を順々に好きな人を言っていって、どんなところが好きかを聞いたりして話は進んで言った。


...

「へーそうなんやー、で、川名は好きな人誰なん?」


俺の番。俺は正直言いたく無い。しかし、期待されているがゆえに言わなければ雰囲気は悪くなる。それが"その場のノリ"というやつ。


「穂高さんかなー」


「穂高さんねー、可愛いくてしっかりしてるけど、高嶺の花って感じするよなあ」


「分かるわ、なんか近づきがたいしそもそも似合わないしな」


可愛いとは学年を超えて噂になっているくらいだが、完璧さが寧ろ近づけないのか。完璧な人も大変そうだ。


「そうそう気になるんやけどさ、戸崎ってさー、穂高さんのこと好きそうじゃね?」


「確かに言われてみればなんかよく穂高さんの方見てるような気がしなくもないなあ」


その刹那、時は止まる。


(蒼も俺も、穂高さんのことが好きなのか。こんなに近くにライバルがいるなんて、どうすればいいんだ)


焦りを少し感じながら時は動き出す。


「まあまあ川名の方が断然イケメンだし、どんな女子でも捕えられるわ」


「それな、蓮、頑張れよ」


「ああ、うん、あり、がとう」


帰り道、俺はずっと俺と彼と、大好きな穂高さんのことについて考えていた。俺は穂高さんを好きでいていいのか、蒼はこれからどうするのか。いや、そもそも蒼が穂高さんのことを好きでない可能性だって十分にある。


あれこれ思案しているうちに、家に着いた。俺はドアを開けると手を洗ってから何よりもすぐうちの飼っているハムスターのトトの元に真っ先に向かう。”トト“という名前は俺が昔見ていたアニメ映画のなかに、「トトド」というキャラクターがいて、それに体型が似ているからだ。ハムスターは夜行性だが、トトは夕方くらいから起きている。

俺はすぐさまトトの元へ行き、ケージから取り出して両の手のひらで抱える。トトは人懐っこいから、すぐ懐いてくれる。特に手のひらが好きなようで、手のひらに乗せてあげるとその上で毛繕いをしたりする。すごくかわいい。気づけば俺は、帰り道の考え事などとっくに忘れていた。


晩御飯を食べ、お風呂を済ませて部屋に行く廊下、学校のことを思い出した。それに付随して蒼が今日学校を休んでいたことも思い出した。蒼が学校を休むことはなかったし、いつも元気だから尚更心配になる。

部屋についてスマホをとり、寝床に寝転がりながらMeTubeミーチューブを見ていたが、ずっと蒼のことが心配で動画に集中することができなかった。そこで俺は蒼と連絡が取れるメッセージアプリを開くが、いざ個人チャットの中を開くともし迷惑だったらということを考えてしまって送信ボタンが押せない。

そのまま寝る時間を迎えてしまい、結局その日はそのまま寝てしまった。



土日もずっと送信内容を確認しては送らないのを繰り返した。



そして月曜日。俺はいつも通り5時半に起きて朝の支度をする。俺は自転車で30分の場所に住んでいるが、朝に学校でヴァイオリンを弾くために6時半には学校につくようにしている。

部屋から出て朝ご飯を食べに向かう。家族は誰も起きていないので、自分でシリアルを取り出し、牛乳と入れる。リビングに目を向けると、テレビと自分の間のカウンターにおいてあるライラックの花が活きている。


着替えなどいろいろな用意を済ませて家を出る。外は雨が降っていて滑りそうだから、ゆっくり自転車を漕がなければならない。




学校に着く頃には、雨は止んでいた。いつもの場所でヴァイオリンを取り出す。今練習しているのは「チャルダッシュ」。難しすぎて3ヶ月くらいは苦戦している。

だめだ、何度弾いてもこの小節の部分でミスを重ねてしまう。ここだけで2週間くらいはつまづいている。


しばらく弾いて休憩していると、下の階でコツコツと音がする。ふと蒼のことが頭によぎった。蒼は朝早めに学校に着いて勉強していると言っていた。どうするべきか、聞くべきなのか、蒼が本当に穂高さんのことが好きなのか。

しばらく悩んでから、俺はヴァイオリンをケースの中にしまった。下の階に移動する。扉を開ける。


そこには蒼がいた。


「蓮、おはよう、こんな早くにどうしたん?いつもの練習は?」


蒼は勉強していた。朝早くから勉強できる人はとても尊敬する。


「あ、おはよう蒼、ちょっとね...」


なぜか俺は言葉につまって言いづらくなっている。すると蒼が声をかけてくれた。


「言いづらいこと?」


そういうわけではない、自分もなぜ口が開かないのか疑問だったが、返答をする。


「いや、そうではないんだけど」


「いいよ、どんなことでも聞くよ」


その時決意を固めた。


「なら」


息を吸って俺は口を開く。


「...蒼が好きな人って穂高さん?」


「ん?それは誰から聞いたん?」


蒼の顔に焦りが見えた時、俺はもう覚悟をした。


「なんかクラスの男子3人くらいが言ってたで」


蒼はまだ落ち着いていないように見えた。


「そうなんや」


二人しかいない教室に緊張が走る。この空気が嫌いな俺は、いやでもふざけるしかなかった。


「んでどうなん〜?好きなん〜?」


申し訳なかったが、こうするしかなかった。


「そうだよ、穂高さんのことが好きだよ」


「そうか...」


分かっていたからか、特に驚かない。俺達の声は途切れる。

自分で聞いときながら、ようやく聞けたという思いと申し訳ない気持ちが混濁している。グラウンドの朝練の声だけが聞こえるのに気づいてから数秒後、気まずい空気の中俺は話す。


「さすがに申し訳ないからさ、対等にいた方がいいと思うんだ」


...


「実は俺も、穂高さんが好きなんだ。けど蒼が好きなら、蒼に譲ろうかな」


俺はできるだけ蓮にいやな思いをしてほしくないからか、意識もしていないように冗談っぽく少し笑いながら言っていた。でも心には大きな傷ができている。発言したことは間もなく後悔に変わっていた。つらい。悲しい。でも、仕方がない。そんなことを思っていると。蓮はそれを否定しにかかってきた。


「だめだよ蓮、友達にそんなことさせるなんて!同じ好き同士、ライバルの友としてやっていこうよ!」


俺は言ってくれてうれしい思いと気を遣ってくれてるのではないかという悲しみの思いでいっぱいでなにも考えることができなかったからか、少し心を落ち着かせた。そうして、


「...蒼ならそういうだろうと思ってたよ」


「え?」


蒼がその反応をするのは当然だった。だから、そこで僕は自分のことをすべて話すことにした。


「俺もそう簡単には折れたくなかったから、少しばかりそう言ってくれないかと期待していたんだ、けどもし関係を断ち切ることになってしまったら嫌だなって思って、蒼に譲ろうとしたんだ」


「そうだったんだ...」


俺は振り切った。蒼と、ただの友達ではなく、ライバルとしての関係も持つ関係に変えて二人で頑張ろう、と。


「だからさ、蒼、これからはただの友達じゃなく、ライバルとしての友達として一緒に行こう!」


「うん!改めてこれからよろしくね!」


僕たちは握手をした。







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僕と彼と、大好きな君と。 つづるん @tsutandayo

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