第8話 彼の恋
「ちょっとね...」
なぜか蓮は言葉につまって言いづらそうにしている。
「言いづらいこと?」
「いや、そうではないんだけど」
「いいよ、どんなことでも聞くよ」
「なら」
少し息を吸って、蓮は口を開く。
「...蒼が好きな人って穂高さん?」
その刹那、時が止まったように感じた。そのすぐ後、時が動き出すと同時に僕の脳は2つのことで頭がいっぱいになり、オーバーヒートを起こした。
なぜ、なぜだれにもいっていないのにバレている?なぜ?なんで?
ぼくのへんとうしだいでは蓮とのかかわりをたちかねないことになるし、どうへんとうすればいいんだ
「ん?それは誰から聞いたん?」
とりあえずあたまをすこしでもおちつかせるためにあいまいな返答をした。
「なんかクラスの男子3人くらいが言ってたで」
誰なんだと思うよゆうはなかった。
まだ落ち着かない頭ながらに返答だけする。
「そうなんや」
「んでどうなん〜?好きなん〜?」
ふざけ混じりに聞いてくる。初めてできた友達の立場で申し訳ないが、正直しつこいなと思ってしまった。
どうすればいいんだ、どう答えればいいのだ。
...僕は...!
「そうだよ、穂高さんのことが好きだよ」
言ってしまった。焦りのせいもあったが、友達に嘘はつけない、ついてはいけないという自分の美徳が先にでてきた。
「そうか...」
僕は蓮の顔を見れずずっと下を向いていた。僕達の声は途切れる。
グラウンドの朝練の声だけが聞こえるのに気づいてから数秒後、蓮の口は動いた。
「さすがに申し訳ないからさ、対等にいた方がいいと思うんだ」
「実は俺も、穂高さんが好きなんだ。けど蒼が好きなら、蒼に譲ろうかな」
冗談っぽく少し笑いながら言っている。でもその発言の内心には笑顔なんて一つもなかったのは自明だ。
それを否定するために僕は蓮の目をしっかり見て言う。
「だめだよ蓮、友達にそんなことさせるなんて!同じ好き同士、ライバルの友としてやっていこうよ!」
少し間が空いた。そして蓮が、
「...蒼ならそういうだろうと思ってたよ」
「え?」
「俺もそう簡単には折れたくなかったから、少しばかりそう言ってくれないかと期待していたんだ、けどもし関係を断ち切ることになってしまったら嫌だなって思って、蒼に譲ろうとしたんだ」
「そうだったんだ...」
僕は蓮の抱えていた葛藤に気づかず過ごしていたことを一瞬で振り返った。
「だからさ、蒼、これからはただの友達じゃなく、ライバルとしての友達として一緒に行こう!」
「うん!改めてこれからよろしくね!」
僕たちは握手をした。
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