第2章 彼との邂逅
第2章 第1話 憂鬱の月曜日
目覚ましが鳴っている。ずっと鳴っている。
手を伸ばす気力がない。
仕方なく、僕は目覚まし時計に手を乗せた。こんなに体が重い日は久しぶりだ。熱でも出てるのかな。
引き出しから体温計を取って自分の脇に当てる。体温計が鳴り、画面を見ると36.6℃。いつも通りの平熱だ。僕は部屋を出て階段を降りる。出ていくお母さんに小さい声で行ってらっしゃいと言い、無言で下を向きながらご飯を手に取り口に入れる。
動作一つ一つが重い、が流石に新しい学年になってすぐなんだ、学校を休むわけにはいかない。遅刻や欠席したら変に目立って心配されてしまう。
重い体を動かしながら、朝の支度をする。その間は何も考えなかった、というよりも何も考えられなかった。学校に行っている間もだ。
学校に着いたのは遅刻に片足を突っ込みそうな時間だ。さすがに学校と思い、重い顔と口角を上げた。
授業を受け、4時間目が終わった時、友達が来た。
「どうしたん蒼?今日全然話してなくない?もしかして俺の事嫌いになった?」
「いやいや、そんなことないよそんな話してなかった?」
「うん、だってもう4時間目が終わったんだよ」
いつの間に4時間目が終わっていたんだ。授業の記憶はあるけど、そんなに時間が経った気がしない。
「ほんとに?なんか今日時間早くない?」
「何言ってんの今日は月曜日だよ?めっちゃ遅いよー」
「そっか」
...
「やっぱりお前元気ないな、今日部活ある?なかったら放課後コンビニでも行こうぜ」
「え?空いてるけどいいよそんなこと」
「いいから!」
僕は半ば強制的に約束させられた。
そして午後の授業が終わり、僕たちはコンビニへと向かった。
「蒼、やっぱりそこのバッセン行かね?」
「ん?なんで?」
「あーほら、なんか気分というかさ」
なにか急に考えたような感じだな。変だ。とりあえず合わせておくか。
「まあ、そういうなら行こっか」
「よっしゃ、なら方向はこっちだな」
バッティングセンターに着いた。初めてだ。こんな感じなのか。
「蒼はここ来たことある?」
「いや、全くない」
「じゃあ、説明するね。ここのバッセンはまず券売機でボールを投げてくれるように券を買うんだ。一回15球で、そこのカード入れるとこ見える?あそこに買った券を入れたら始まるぞ」
「へー、もしかして結構来てる?」
「まあな、週1くらいかな、部活ない日の放課後に」
「すごいペースだな...」
彼はソフトテニス部だ。うちの高校のソフトテニスはまあまあ強い。故に練習が厳しいはずなのに、貴重なオフでも運動するってすごいなと感心する。
券を買い、友達に先にやってもらうことにした。
見た感じ、たまの速さも調節出来るみたいだ。3つのボタンがある、「低速」「中速」「高速」だ。あの人は中速のボタンを押していた。
バットを構える。立ち方が既に綺麗だ。野球をやっているのではないかと思えるくらいそれっぽい。
球が飛んできた。バットを振る。振ったバットはボールの下の方を直撃し、カキーンというとても綺麗な音を鳴らして遠くへ飛んだ。すごい、流石だ。その後もあれ程までではなくても、必ずバットに当たっていた。
「ふういいねー今日は調子がいい、じゃあ次は蒼やってみようー」
あんなもの見せられると思っていなかった。今になってとても緊張してきた。ここに居るのは僕と彼だけなのに。
僕は足を子鹿のように震わせながら中に入り、券を入れて低速のボタンを押し、バットを持つ。バッターボックスに立ち、バットを構える。
球が打ち出された。バットを振る。記念すべき一球目はボールがバットの上を通過していった。
(これ、思ったよりも難しい)
2球目が飛んできた。今度は少しバットを下に下げてみる。慎重にバットを振る。
キーン
当たった...!ボールは斜め下に行ってしまったけど、当たっただけでも嬉しい。これまで授業でやって来たけど一回も当たったことがなかったからだ。
その後の球は目立ったものが無かったが、バットに5回くらいボールが当たった。
「蒼すごいやん!もしかして野球やってた?」
「授業以外じゃやったことないよ、授業も小5とかだし」
「じゃあセンスあるやん〜」
僕は正直嬉しかった。上手くて努力を重ねた人にセンスがあると言われると嬉しい。
その後も2回くらいやってから帰った。僕はその間、昨日のことなんかすっかり忘れていた。
家に帰ってきて、ベッドを見ると昨日のことをを思い出した。でも、そんなに辛くも悲しくもない。今日遊びに行ったからかな。
ご飯を食べる口も昨日よりも開く。気持ちも重くない。お風呂も済ませて僕は明日の用意をして布団に入る。
(今日はありがとう、おかげさまで悩みが晴れたよ。明日からも頑張るね)
心の中で友達に感謝を伝え、目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます