第7話 好きな人

袋を開け、僕らはアイスを頬張る。


「ありがとうね、アイス奢ってもらって」


「全然大丈夫、僕がこのペナルティかけたんだから」



アイスを食べ進める。僕がアイスを半分くらい食べた頃に再び友達の口が開いた。



「そういえば知ってる?川名くんの好きな人」


「え?なにそれ?」


「なんか噂になってるらしいよ、多分よくうるさくしてるあの人たちに聞かれて正直に答えたんだろうね。」


「そうなんだ」



僕は好きな人が誰かとても気になり今にも口に出そうな気持ちを戻した。聞かれたことに正直に答えただけなのに、広められているのは可哀想で、僕だけでも聞かないようにした方がいいと思ったからだ。



「蒼、お前知りたそうな顔してるな?いいよ、教えよう。」


「いいよいいよそんなん」


「そんな遠慮すんなってー」


「いやほんと―――」


「穂高さんらしいよ。もし付き合ったらお似合いだよなー美男美女でどっちも頭良くて」


「え?」



さすがに驚いた。それと同時に、自分が情けなくなった。

そのあとしばらく話している時も言い表せないほどの悲しみが僕を襲う。涙が零れそうだ。とりあえずここを離れよう、話している時はずっとその一心だった。



「ちょっとごめん、僕今日塾なの忘れてたから帰るね」


「そっかあ、今日はアイスありがとな。じゃ、また月曜日」




その後の帰り道はあまり記憶が無い。覚えているのは、ぼーっとし過ぎていて前から来ていた自転車に気づかなくて、危うくぶつかりそうになった事だ。


「こら!危ないだろ!」


「すいません」


まわりに気を配る余裕なんてなかった。



僕は家に帰って手を洗わず直ぐに自分の部屋に入り、ベッドに入って泣いた。なんで泣いているのか、僕にはよく分からなかった。一回だけ話したことあったけどあの人はとても優しくていい人だ。なのに、悔しい。さらにそう思う自分が情けなくて、目から滴る水が増える。僕はこの先どうすればいいんだろう、僕は一頻り泣いた。そのあと親が帰ってきたので泣くのをやめた、というか泣けなくなった。


晩御飯を食べる手が進まない。口も、お腹も、食物を入れることを拒否している。なかなか晩御飯が減らないものだからか、お母さんが、



「どうしたの蒼」


と聞いてきた。僕はすぐに理由を作るために


「ごめんお母さんちょっと今日気分悪いからもうお風呂入って寝るよ」


と言った。



そして支度を済ませてから、布団に入ったが、思うように寝れなかった。




僕の今までの人生で1番辛かった出来事だ。

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