第023話 いつもより
休日、俺は植物園へ向かっていた。
事前の話し合いで現地集合に決まったのだが、先程春野より
「植物園に着いたよー」
とメッセージが届いた。
「そうか。こっちはまだだ」
「了解。入口近くで待ってるね」
とやり取りを済ませ、植物園の方へひとまず徒歩で移動していた。
今回の目的は春野が少しでも男慣れするためと日高は言っていたが、今回の件が春野にどれだけ効果を発揮するのか俺には疑問だった。
確かに異性に免疫がないよりかはあった方がいいとは思う。世の人間の半分は自分にとって性別の異なる存在なのだから、普通に接することができた方ができないよりもずっと苦労せずに済むのは間違いない。
しかし、そういう目的を考えれば俺以外の男を
俺と春野の付き合いはおよそ一年ほど。
その間の春野の俺に対する態度は女友達である日高・安達・加賀見と大差ないものだった。
つまり俺のことも友人としか見ておらず、男性として意識しているようにはどうにも思えない。
男と接するのに慣れるのであれば荒療治にはなるが例えば春野と仲良くしたい男子に話し掛けられたときに春野だけで対応する、ぐらいの手段を取らなければ本当の意味で効果は出ないように思う。
春野一人に任せるのが不安なのであれば遠くからでも日高がフォローしてやればいい。
今日を迎えるまでにそのような疑問を抱えてはいたが、行くと決めた以上やらなきゃ話が終わらないとも思い、とりあえず植物園への外出をこなすことにした。
日高には悪いが春野の男慣れにさして効果がなかったらまた別の手段でも考えてもらおう。できれば俺が関わらない方向で。
春野絡みのことに思考が寄っていたせいか、不意に先日の誕生日で春野に言われたことを思い出した。
『高校で終わりになんて――』
俺へぶつけるように放った春野の言葉。
しかし肝心の意味は判然としていなかった。
この際春野へ直接尋ねれば意味がわかるのでは、という考えが頭を
でもそこまでして意味をちゃんと知ろう、という気にはならなかった。
あのときの春野は態度を見るに機嫌がいいように見えなかったし、わざわざ蒸し返すのは俺にとっても春野にとってもしんどいことになりそうな気がした。
ちゃんとあの言葉の意味を知ったところで特にメリットがあるとも思えないし、ここは深く掘り下げず記憶の片隅に仕舞っておく。
頭の中の考えが春野のことで占められているうちに植物園の入口が見えてきた。
さあ春野を探すかと少し視界を広げてみたら一々探すまでもなかった。
春野は入口のすぐ近くで目立っていた。
上半身には
下半身には学校の制服のような折り目が付いたグレーのミニスカート。セーターの色合いに不思議とマッチし、植物園を囲う緑の背景においては着ている者の存在を程よくアピールするファッションだった。
そう思ってスマホを取り出して春野に通話して確かめようとしたら、
「あ、黒山くーん」
と例の目立つ系女子が俺に向かって手を振っていた。あ、やっぱ春野か。
春野の所在を確認した俺は彼女の元へすたすた歩いていく。
「ああ悪い、待ったか」
「ううん気にしないで」
「お前がそういう服着てくるの初めて見るな」
「あれ、そう?」
「スカートとかいつもはもうちょっと丈の長いイメージがあるんだが」
春野がスカートを着けるときはいつも
今日の春野は脚を膝より上の方まで惜しげもなく見せており、ソックスも紺の短いものを履いていた。
白馬を彷彿とさせるなびやかな白い脚が
男が少ないこの場所でよかった。多かったら春野にも俺にも嫌な視線が向けられまくっていたかもしれない。
……ここに来るまで意識してなかったが、今の俺達って下手すりゃデートに待ち合わせしているカップルに誤解されかねない状態なのか。
違いますよ周囲の皆さん、俺達友人ですよ。俺にこんな美少女の恋人いませんよ。
そんなことを周囲の人達に念じていると
『それってデートってことでは?』
先日の葵の
それはさておき、俺の感想に春野が反応を示した。
「べ、別にたまにはこういう服を着ようかなって思っただけだよ。ほら、今日って結構気温高いでしょ」
「そうだったか」
寒いとは言わないが取り立てて暑い気温じゃなかったと思うぞ。予報でも今ここにいる実感でも。
「それじゃ、さっそく植物園に入ろっか!」
「ああ」
春野がさっさと植物園の入口へ歩きだす。
「チケットあるから券売機の方には用ないぞ」
「あ、あはは、そうだった」
危うく入場料をドブに捨てるところだった春野へ釘を刺しておく。
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