第017話 オシャレ
日曜日になった。
普段の俺であれば学校生活での疲れを癒すべく惰眠を貪ったりマンガやラノベを読んだりしているのだが、今日はそういうわけにもいかなかった。
身支度を整え家の外に出る。暖かいどころかやや暑いぐらいの道には草や花の色彩が豊かに表れていた。
目的の駅に到着して特定の場所に向かうと、既に五人の女子が待っていた。
「胡星せんぱーい!」
真っ先に俺を見つけたと
「おいあんま大きい声出すな、周りの奴にバレるだろ」
「バレるって何ですか。先輩有名人なんですか」
「相変わらず目立つの好きじゃないんだねー」
「まあな。必要もないのに目立ったところでいいことなんて何一つない」
「挨拶ぐらい別にいいでしょ」
「お前そんなに挨拶しない方だろ」
「まーまー、今日は黒山君のお祝いだし、楽しくいこう」
「俺は一人の時間が一番楽しいぞ」
「知ってる」
春野・日高・加賀見・安達・葵の五人も今日は私服姿だ。
春野・日高・加賀見・安達の私服は何度か見たことあるが、葵は初めてとなる。
葵が先輩に当たる女子四人に違和感なく溶け込んでいるのが印象的だった。本人が先日言った通り、本当に彼女達と仲を深めたのかもしれない。加賀見のことあんなにも怖がってたくせに。
「それじゃ、まずは近くのカラオケボックスにでも寄っていきますか」
「うん」
面子が全員揃い、まずは最初の目的地へ向けて歩きだした。
ちなみに奄美先輩はバイトのため、後から合流するとのこと。
六人で横一列になって歩くわけにもいかないのでおのずと二列となっていった。
先頭は日高と春野。
中央は安達と加賀見。
そして後尾は葵と俺だ。
いつもであれば俺は後尾の列を一人だけでのんびり歩いているのだが、今日は葵が俺の隣に付いている。
新鮮と言えば新鮮だが、俺にとってはいつもよりやや窮屈な移動となった。
少しして、葵がすぐ横にいる俺へ話を始めた。
「胡星先輩、あんまオシャレとか気にしないスタイルなんですね」
「気にする必要もないからな」
どうやら俺の出で立ちがお気に召さないらしい。
着やすいTシャツに履きやすい長ズボンだけで済ませたコーデは非常に楽であり、俺のお気に入りである。オシャレ? そんなのは異性にモテたい奴らが勝手にやってればいいのさ。
「これでも
「え」
「ああ、あったなそんなことも」
女子四人に男が俺一人なんていう男女比おかしいグループで正体バレないようにするための手段に使ったっけな。
特に春野という校内屈指の美少女と行動を共にしているところなんて同じ学校の生徒に見られたらキツいと考え、とにかく俺だとバレないようにしたかったのだ。
サングラスとかで顔を隠しつつ奇抜な格好にすれば、女子四人以外のクラスメイトみたく俺を見たことはあってもさしたる交流のない奴らは正体を俺だと気付かないとか当時そう考えてた気もする。
今にして思えばそんな奇抜な格好の奴と平然と遊んでいた女子四人もおかしいよな。
「先輩のファッションセンスはよくわかんないですが、私と一緒に遊びに行く際はやめてくださいね」
「ってことはその格好で来たらお前は回れ右して帰ってくれるわけだな」
「格好によっては通報しますよ?」
うわぁ、このコ
あとそんなにツレの服装が気になるなら俺なんて誘わずもっとオシャレに命を賭けてそうなカッコいい男でも引っ掛けなさいよ。王子とか。あ、アイツを誘うと
「……葵、なかなかアグレッシブ」
「いや、マユちゃんも大概だよ」
加賀見が葵を評価するのを安達がツッコむ。
「え、そうですかね」
「ん。将来がとても楽しみ」
「あはは、とりあえず変なナンパとか蹴っ飛ばしそーだよね」
「ナンパなんて法律で禁止にしてほしいです。道歩く度にそこらの男に声を掛けられるのが全くうっとうしいったら」
「あー、やっぱ苦労したことあるんだ?」
「先輩達もですか」
「私というよりは凛華だけどね」
「あー……」
女子達の視線が春野に向く。
春野の噂を聞き、実際に春野の姿を目の当たりにした葵にとっては春野のモテっぷりは充分想像が付くであろう。
春野と散々付き合いのある日高・安達・加賀見なんて噂どころか
「あ、あはは、それよりほら、信号赤だから止まろっか」
「うん見えてるから大丈夫」
春野が無味乾燥な笑いをして話を逸らすのを加賀見がツッコんだ。うん、信号へ話を切り替えるのは苦しいと思うぞ。
とはいえこの場にいる奴らもあまり春野の前で男に言い寄られる話を続けるのはよろしくないと察したのだろう。
ましてや今日は春野の誕生日なのだ。主役のテンションが下がっては始まらない。
以降俺達はそういう話を出さず、記憶に残らないぐらい無難な話題でとりとめのない雑談を目的地に着くまで交わした。
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