第015話 去年の

 業間休みにて誕生日パーティーの内容は大方決まった。

 日時は今度の日曜日の午後。

 場所はファミレスやカラオケボックス等を予約、最寄り駅に現地集合。

 葵はもとより奄美先輩の参加もOK。内容の詳細に関する奄美先輩への連絡は葵が担当。

「葵は今日の放課後空いてる?」

 加賀見、お前もう葵を下の名前で呼んでるのな。

「はい、大丈夫です」

「実は放課後に皆で黒山と凛華のプレゼントを買おうと思っててね」

「そうなんですか」

「こっちも葵ちゃんのことを知りたいし、よかったら一緒にどう?」

「あ……えーと、それって加賀見先輩も一緒なんですよね……?」

「ん、そうだけど」

「あー、まだマユを怖がってるんだね」

「あはは、大丈夫だよ葵ちゃん、マユちゃんは黒山君以外には怖くないから」

「改めて思うが一体何なんだよその特別扱い」

 あまりの特別待遇に転校や不登校を考えたことは一度や二度じゃなかったぞ。

「そ、そうですか……なら、是非御一緒したいです」

 葵がしずしずと安達・加賀見・日高のお誘いを受ける。いつもこんなしおらしい感じだと俺も静かな日々に過ごせるんだけどな。


「胡星先輩は一緒に行かないんですか?」

「俺のプレゼントをお前らが選ぶのに俺がついていってどうするんだ」

「……私のときはついていかされたんだけど」

 加賀見がボソリとつぶやく。あれ、そうだったっけ? ああ、そうだったな。

「お前のときは安達がサプライズで誕生日祝いやる予定だったのをネタばらししちゃったからな」

「それでもうどうせならマユにも徹底的に関わらせようって流れになったんだっけねー」

「マユちゃんが自分の話をされて照れる姿可愛かったなー」

「……あんな誕生日迎えたの初めてだった」

「……先輩方の思い出って他にもいっぱい逸話が出てきそうですね」

 そうか? お前の想像するほど非日常的な日常なんて送ってないぞ? 俺の中では。



 放課後。

 安達・加賀見・日高・葵はプレゼント選び。

 春野・俺の二人は当日のプレゼントを楽しみにしてほしいとのことで、別に帰ることとなった。

「何かこうして二人で帰るのって久しぶりだね」

「え、そんなことあったか」

「あったよ! 覚えてないの?」

「いや、特に。お前についてはいつも日高と安達と加賀見の合わせて四人で下校してる記憶しかない」

「いつもはそうだけど。ほら、去年の球技大会で」

「あー……」

 すっかり忘れてた。

あの日・・・のことってお前はあんま思い出したくないんじゃないか」

 俺にとってもいい思い出ないぞ、あの日のことは。

 ましてや春野は一番の被害者だったじゃねーか。

「……忘れたいことがないって言ったらウソになるけど。でも全部ひっくるめたら私にとってはいい思い出なんだよ」

「ほう、それは意外だったな」

「そう? まあ、それはいいや」

 気が付けば学校と駅の中間ぐらいの所を過ぎていた。


「葵ちゃん、とても楽しそうなコだったね」

「まあな。きちんと先輩相手にもツッコむべきところはツッコむ、将来の楽しみな奴ではあるな」

「そういう芸人的な評価じゃなくて。もっと単純に一緒にいて楽しいってこと」

「そうか」

 俺は奴と会話した後疲労感が絶えず襲ってくるのだが。

 今でも奄美先輩と俺のいる空き教室へ訪ねては「一緒に遊びましょうよー」やら「先輩が私にしたいこともある程度なら受け入れますからー」やらしきりに勧誘してくるのである。

 奄美先輩も俺もそんな葵をあしらうのが定例になりつつある。

 それはそうと、最初は「奄美ちゃん」とか呼んでいた春野がもう葵を下の名前で呼んでるな。

 さっきの加賀見に感化されたのだろうか。皆距離縮めるの早いね。


「まあ気が合うようでよかったよ。これからも仲良くしてやってほしい」

「黒山君は葵ちゃんの父親か何か?」

「そうとも言える」

「どういうこと?」

「実は俺、葵の母親と結婚するんだ」

「え⁉」

「入籍は今度の日曜」

「誕生日パーティー当日じゃん!」

「……ふふ」

「何がおかしいの⁉」

「相変わらず騙されやすいようで何よりだと思ってな」

「え! え、結婚っていうのは冗談ってこと?」

「当然だろ」

 同じ学校の先輩や後輩の保護者と結婚なんて飛躍に飛躍を重ねた人生を歩む気は一切ないぞ、俺。


 このように、春野はとにかくウソや冗談の類に引っかかりやすい。

 普通の人ならすぐにわかるようなレベルのものであっても真に受けてしまう節がある。

 俺も一年のときからそんな春野の性格を面白がり、ついつい色んなジョークを春野に披露したことがあった。俺の覚えている限り百発百中だった。

「もー、黒山君も相変わらず冗談が好きだよね」

 対象はお前だけだがな。

「お前相手への冗談が好きなのなんて、他にも結構いると思うぜ」

「えー、そうかな」

「ひょっとしたら今度やる誕生日パーティーだって実はドッキリで皆来ないってオチかもしれないし」

「そんなことされたらもう皆と仲良く遊べなくなる自信あるな……」

 春野の顔色から生気が失われていく。リアルにそうなったときのことを変に想像しているのかもしれない。おいおい。

「まー、奴らに限ってそんなことないだろ」

「黒山君が言いだしたんでしょ……」

「スルメでも食って落ち着けって」

「黒山君も私もそんなの今持ってないでしょ。持ってても食べる気になんないよ」

 しょうもない雑談を交わしていると、駅に辿り着いた。




――――――

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