第011話 参加希望
「ねー胡星先輩、今度の休みに遊びに行きたいんですけど」
「そうか、お友達と楽しんできな」
「えー先輩、もう約束忘れたんですかー」
「全く身に覚えがないが何の約束だ」
「男避けに遊びに時々付き合ってくれるって言ってたじゃないですかー」
「しつこい男に絡まれたとき限定だって何度言わせる気だ」
「んーと、胡星先輩が折れるまで?」
「堂々と答えんな」
「……ねえいくつか質問があるんだけど」
「はい」
「どしたのお姉ちゃん」
「何でアンタいるの?」
「え、お邪魔でしたか。それは気付かず失礼しました。では自分はこれで」
「黒山君のことじゃないわよ。葵の方を向いて話したでしょ」
ここは空き教室。
放課後になるとここに集まるのが定例となっている奄美先輩と俺だが、先日と同じくまた葵がここにお邪魔していた。
「また何か用事持ち込んできたの?」
「えー、用事なきゃここに来ちゃいけないの?」
「今からここで黒山君と私で打合せがあるんだけど」
「私も混ぜてー」
「雑談とかじゃないの、知ってるでしょ?」
「うん、榊先輩とお姉ちゃんがどうしたら結ばれるかって作戦会議でしょ」
「わかってるのにアンタも参加するの?」
「うん。面白そーだし」
奄美姉妹の話し合いが平行線を
「……もーいーけど、話の邪魔だけはしないでね」
お、奄美先輩が折れた。やっと話が進むのか。
「はーい」
「それともう一つ、二人に聞きたいんだけど」
「はい」
「何?」
「アンタ何で黒山君のこと下の名前で呼んでんの」
え、そこ気になるんですか。
王子(奄美先輩の思い人である榊のあだ名。利用者は俺オンリー)のことを下の名前で呼んでるんなら引っ掛かるのは理解できるんですが、葵と俺の間の呼称って特に奄美先輩が関係ない事柄と思うのですが。
「あー、先日互いに下の名前で呼びあうことにしたんだよ」
「え」
奄美先輩が俺の方を向いた。何でしょう、その「どういうこと?」と言いたくて仕方がなさそうな目つきは。
「葵のことを奄美妹と呼んでいたら御本人がお気に召さなかったらしくて。自分のことを下の名前で呼んでくれって頼んできたんですよ」
「なるほど。黒山君が葵って呼ぶのは理解したけど、葵の方からは何で? それは黒山君からの要望?」
「いや、それも私から。だって胡星先輩が私のことを名前呼びなのに私は先輩を
「という理屈を先日言われ『まあ好きにしろよ』と了承したわけです」
呼び名なんて悪口じゃなければ別に何でもいい。
「そ、そう」
奄美先輩は少し頭を下げてそれきり黙ってしまった。
腕を組んでどうも渋い表情をしており、難しいことを考えているように見えた。今日の作戦の案を
「ところで先輩、遊ぶ先の希望ってあります?」
「俺は一緒に行くと言ってないぞ」
「公園とかお金の掛からない場所でも構いませんよ」
「お前は誰と会話してるんだ」
奄美先輩が黙っている隙に葵はどんどん俺(か葵にしか見えない何か)に話し掛けてくるのだった。
「そもそも今度の休みは先約あるからムリだ」
俺にとっては不本意だがな。
「え、法事でもあるんですか」
「そんな
「じゃあ他の誰かと遊びに行くんですか……ひょっとして例の先輩方?」
「お察しの通りだ」
葵は奄美先輩から概要だけでも聞かされているからとっくに御存知だろう。
「いつも休みのときは先輩方と遊びに行くんですか」
「そうでもない。アイツらだけで遊ぶことも結構あるみたいだしな」
アイツらからの伝聞なので断定はしないが、実際そうなんだろう。
「ちなみに遊びの予定ってどんな感じですか」
「そんなこと聞いてどうする」
「よかったら御一緒させていただこうかと」
「どこまで付いてくる気だお前」
「面白そうなことならどこまでも」
心なしか目をキラキラさせる葵。享楽主義にも程があるだろ。
「誕生日パーティーをやるんだよ」
「先輩方の誰かがお誕生日なんですか?」
「正確にはその先輩方のうちの一人と、俺のな」
「へ?」
「え?」
葵だけでなくさっきまで物思いに沈んでいた奄美先輩まで疑問符を付ける。
「え? え? 先輩もその日はお誕生日なんですか?」
「ああ、日曜はな。で、もう一人がその翌日で平日になるからまとめて日曜にやろうって話になったんだ。ちなみに土曜はパーティーに備えて本気で休みたいから付き合わんぞ」
葵が先に言ってきそうなことを前もって制しておく。
「……私も参加したいです」
「何?」
「胡星先輩の誕生日パーティー、私も参加させてください。この前のお礼も兼ねて誕生日プレゼントをお送りしようと思います」
「いや、そこまでしなくても」
「私も参加させてもらえないかしら」
「奄美先輩?」
「普段からお世話になってることだし、その日ぐらいは
どうしよう、姉妹
ここできっぱり断るにも納得させられる名分がないとこの後の二人の対処が面倒になりそうだな。
「……奴らがダメって言ったら諦めてもらうってことで」
ひとまずはこんな感じでお茶を濁したが、言った後でアイツらならこの姉妹を歓迎しそうだなと後悔した。
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