第25話 杖ジジィ

 杖ジジィはミロとニケを舐めるように見つめていた。その小さな濁った目を見るだけで吐きそうである。


「お前等はワシが飼っていたペットを殺したんだ」

 と杖ジジィが言う。


 殺した? このジジィは何の話をしているのだろうか?


「せっかくワシのペットに、オモチャを持って来てもらおうと思ったのに。旦那の前で妊婦をめちゃくちゃにしてやったら、さぞ楽しかったろうに」

 グヘグヘグヘグヘ、と杖ジジィが笑った。


 あの夫婦にヨルムンガンドを襲わせたのは、この気持ち悪いジジィか。

 めっちゃくちゃ胸糞。


 ミロは震えながら杖ジジィに魔法の棒を向けていた。


「ワシを攻撃するつもりか? グヘグヘ」と老人が笑っている。「ココには誰がいると思っている? 聖騎士団がいるんだぞ。領主のワシを殺せば死刑は免れないぞ」


「殺す」とミロが呟いた。


「ワシを助けろ」

 と杖ジジィが聖騎士団に向かって叫んだ。


 聖騎士団が杖ジジィを守ろうと……しなかった。

 聖騎士団は杖ジジィから離れていく。


「おい、どうしたんだ? ワシを守れ」

 と杖ジジィが叫ぶ。


「アンタを我々は守らない」

 と新妻さんは言った。


「ワシを誰だと思ってる?」

 と杖ジジィが叫んだ。


「だから逃走者に殺させるんだ」

 と新妻さんは言った。


 もしかしたら新妻さんは初めから杖ジジィが市民に危害を加えている事を知っていたのか? ミロを売ったのが新妻さんと俺は予想している。

 色々と老人の事を知っていたのだろう。そして何かで新妻さんのキンセンに触れたのかもしれない。でも老人は権力者だから殺せない。


 杖ジジィが新妻さんを睨む。

「ワシを誰だと思って……」


 老人が言葉を言い終わる前に、ミロが杖ジジィに炎を発射していた。


 ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア。


 彼女の炎は老人を焼いた。

 炎の塊になった老人は、始めはもがいていた。

 焼肉の匂いが辺りに漂う。

 だけど彼女のファイアが繰り返して発射されるたびに、口の中に苦味が広がるようなコゲた匂いが漂い、炎の中でもがいていた老人が炭になった。


 誰もミロを止めなかった。


 俺は新妻さんを見つめ、剣の柄を握った。

 彼は睨むように俺を見つめていた。

「これで勇者一行は立派な犯罪者だな」

 と新妻さんが言う。


「……新妻さん……俺は必ず、家に帰ります」

 と俺は言った。


 新妻さんは無表情のまま、腰に付けていた剣の柄を握った。


 聖騎士団が俺達を取り囲んでいる。


「捕えろ」

 と新妻さんが聖騎士団に命令をくだした。

 

 聖騎士が俺達に迫って来る。

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