第21話 ヨルムンガンド

「今なら、間に合う。逃げよう」

 とチェルシーが、俺の足を引っ張って叫ぶ。


 俺はチェルシーを引きずって歩く。


「アンタ、酷い男だわ。アタシと子ども達を置いて、どっかに行ってしまうの?」とチェルシーが言い出す。

 何かの真似をしてるんだろうか。

「惚れたアタイが悪いのか、包茎のアンタが悪いのか」

 とチェルシーが言う。


 包茎の誰が悪いって?

 コイツ殺してやろうか?


「絶対に行っちゃダメ。絶対に行ったら後悔する。アンタが行って死んでしまったら、この子達はどうするの?」

 とチェルシーが言う。


「この子って誰だよ? 訳わかんねぇーことを言って引き止めるのはやめろよ。助けを待ってる人がいるんだよ」


「この子達の事も忘れたの?」

 とチェルシーは言って、ボロボロの手拭いを、どこかから出して来た。

「アンタが1週間前に出した子ども達じゃないか」


「馬鹿野郎。そんな布きれとっとと捨てろよ」

 と俺が叫ぶ。


「子ども達って?」

 とミロが反応する。


「反応するな」

 と俺は言って、布きれを奪って、草に捨てた。


「酷い。酷いじゃない」

 とチェルシーが言う。


「勇者様、子ども達ってなんですか?」


「なんでもねぇーよ」と俺が言う。



 声がした方に辿り着くと、そこには……巨大な蛇がいた。大きな鱗は黒々としている。その巨大な体で馬車を拘束していた。


「誰か、助けて」

 と馬車から声が聞こえた。


「無理だ。無理。あれヨルムンガンドじゃねぇー?」とチェルシーが俺の後ろに隠れて言った。


「ファイア」

 とミロが叫んだ。

 杖から炎の塊が発射され、ヨルムンガンドの顔面に当たった。



 ヨルムンガンドがもがく。

 そのおかげで馬車の拘束が解かれた。 

 俺は馬車に向かった。

 馬車を引いていた二頭の馬は地面に横になっている。

 馬車の中には夫婦らしき、男性と女性がいた。

 女性のお腹は風船を膨らましたように大きい。


 俺は馬車の扉を開けた。

「馬車から出ましょう」

 と俺は言って、扉を開けた。


「妻を先に」

 と旦那さんが言う。


 夫婦を馬車から出して避難したすぐに、ヨルムンガンドの尾が馬車に当たり、馬車が粉砕した。

 夫婦はお腹の子を守るように、奥さんの大きなお腹に手を添えていた。


「ファイア、ファイア、ファイア、ファイア」

 ミロのオーバーキル。

 ヨルムンガンドが動かなくなり、炭になっても何度も何度も打ち続けた。


「ミロ」

 と俺が彼女に声をかけるまで、ミロの攻撃は続いた。


「俺が指示した通り、お前ならやってくれると思ったよ」

 とチェルシーが言う。


 俺達はチェルシーをスルーして、夫婦の元へ。


「大丈夫ですか?」

 と俺が声をかける。


 奥さんがしんどそうにお腹をさすっている。


「少し休憩してから、街まで一緒に行きましょう」

 と俺は言った。

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