第16話 バイブ

 子どもが助かって泣いているドワーフの戦士の事を思い出してしまったせいで、……自分の子どもに会いたくなった。


 小学1年生になったばかりのミナミは、いつもニコニコしていて、小学生の先生からも鬼も引くぐらいのコミニケーション能力で友達を作っている、と言われていた。友達のお母さんお父さんからは『ナンパ師』と呼ばれている。


 俺がそんな陽気なタイプじゃなかったから、「嫌いな人とは遊ばなくていいんだよ」と言うと、「嫌いな子はいないよ。普通な子はいる」と彼女は言う。


 そういえばヨチヨチ歩きの時から「あそぼ、あそぼ」って色んな子に絡んでいたっけ?

 

 兄弟で遊んでいる子に絡んで、無視されて、なんか凄く寂しそうだった事を思い出す。その時に彼女に兄弟を作ってあげなくちゃ、って思ったのだ。


 家に帰ると「パパ」と飛びついて来るミナミ。君が日本で泣いていないかパパは心配だった。パパがいない事で陽気な君に影を作ってしまわないか心配だった。いや、君なら辛い事も乗り越えれるか。愛している。


 咲太郎。まだ2歳で可愛い可愛い男の子。その可愛いさで、親孝行をしてくれている。「コレはなぁに?」と君は聞く。ゴミで一生懸命遊ぶ。モッコリしたオムツを履いて走り回る。パパが仕事に行っている時、「パパに会いたい」と君は言ってくれているらしい。

 パパが帰って来たら、パパの後ろをアヒルの雛のようにくっ付いて来る。愛してる。


 子どもを抱きしめたかった。

 2度と手放さないように泣いて抱きしめたかった。


 あの時に泣きながら子どもを抱きしめていたバランも同じなのだ。子どもが魔物に襲われて、もう2度と生きた我が子に会えないって思って、さまよう刃のように村を襲って来た魔物を殺していた。


 そして死んだと思っていた子どもに会えて、……泣いたのだ。

 子どもを抱きしめる事ができて、溢れる涙を止める事ができずに泣いて、バランは俺に何度も何度も礼を言ったのだ。


 子どもは自分の命より、100億倍、大切な宝物である。



 魔王を倒す、という目標を達成しなければ、俺は子ども達の元へ帰れない。

 杖は手に入れた。

 ミロが魔法を使えるように、訓練しないといけない。


 調教、と奴隷商人のお婆さんは言った。

 調教、とチェルシーは言った。

 ミロを訓練する時、彼等は調教と言葉を使ったのだ。


 調教とは、猛獣を訓練すること。


 ミロの過去の映像で見た時、猛獣だと思った。それほど彼女は強かったのだ。


 彼女の成長には、俺の成長が必須である事を俺は知っていた。


 俺は30代のサラリーマンである。二児の父親である。

 人に学びを与える事……人に仕事をさせる事……その難しさを俺は知っていた。


 俺は戦闘力の無い勇者である。

 だから誰かの力を借りて戦わないといけなかった。



 街を出て、ダンジョンに向かう道中。

 舗装もされていない道を俺達が歩いていると木々の隙間から、一本の角を生やした狼が現れた。名前はわからん。弱いタイプの魔物である。

 コチラに敵対心剥き出しに、歯を見せていた。


「ミロ、魔法で攻撃できるか?」

 と俺は尋ねた。


 彼女は太い杖を握りしめて、ブルブルと震えていた。

「無理です」

 と泣きそうに彼女が言った。


「絶対にミロならできる」

 と俺は言った。


「無理なモノは無理です」

 とミロが言う。


「後ろに俺が付いている」

 と俺は言って、一歩下がった。

 そして、剣の柄を握った。

 本当にヤバい状態になれば、俺が出て行く。

 それまで彼女に任せる。

 

「勇者様、無理です」

 とミロが言う。


「ミロなら必ず出来る」

 と俺が言う。


「臭そうな息で犬が迫って来てるぞ」

 俺の後ろに隠れているチェルシーが叫ぶ。


 角を生やした狼が、ヨダレを垂らしてコチラに走って来ていた。


 ミロは震えながら、杖を狼に向けた。

 太い杖を彼女が振った。

 魔法攻撃は、何も出ない。


 まだ手を出すな、と俺は剣の柄を握り締めて思った。

 彼女は何度も何度も必死に杖を振った。

 だけど杖を振るだけで何も出なかった。


 狼が彼女を噛みつこうとした時、俺は鞘から剣を引き抜き、狼を斬った。


 剥き出しの歯が彼女を噛むところだった。

 斬った狼の頭が、ポロンと地面に落ちて、水道の蛇口を捻ったように血が溢れ出した。


「勇者様」

 と彼女が呟いた。


「また次、頑張ろう」

 と俺が言う。


「勇者様……私、魔法が使えてます」

 と彼女が言った。


「えっ?」

 俺は彼女を見た。


 彼女の持っている杖が、小刻みに振動していた。

 大人のオモチャじゃん、そんな魔法が使えてどうするんだよ、とツッコミたくなった。


 だけど訓練する側の俺が成長しないといけないのだ。

 たしかに彼女は魔法が使えている。

 これは魔法が使えるための大きな一歩なのだ。


「すごいじゃないか。魔法使えてるじゃないか」

 と俺は喜んだ。


「私、魔法が使えてます」

 とミロが言う。

 杖のバイブレーションが早くなる。


 ジー、ジー、ジー、とバイブの音が響く。


「これで魔王も倒せるな」とチェルシーが言った。


「倒せるか!」

 さすがに俺は叫んだ。


「コレでダンジョンも楽しみになりました」

 とミロは言って、ヨダレをジュルっと吸った。














(作者からのお願い)

 面白かったら作品フォロー、作者フォロー、☆☆☆での評価よろしくお願いします。


関連作品は『性奴隷を飼ったのに』です。もしよかったら読んでください。

https://kakuyomu.jp/works/16817139558183718127

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