第15話 ドワーフの戦士・バラン
バランとの出会いは、俺が異世界に来てから半年ぐらい経った時だった。
当時の俺は王様の命令で、魔王を倒す冒険に向かっていた。仲間はチェルシー、それに新妻さん、その他聖騎士3名、の汗臭い6人の男だらけのパーティだった。
まだまだ異世界のこともわからない。なんだったら、なんで俺がこんな目に合うんだよ。魔王なんて倒したくねぇーよ、普通に家に帰してくれよ、と思っていた。
そんな時に魔物に襲われているドワーフの村に辿り着いたのだ。
チンパンジーを巨大にしたような魔物に村は襲われていた。しかも魔物の群れである。
レンガで作られた家は破壊され、ヒゲモジャの男達が必死に魔物と戦っていた。
俺達は、その戦いに参戦したのだ。
その時にバランと出会った。
彼はドワーフの戦士だった。誰よりも強かった。だけど魔物の量は多く、強い戦士が1人いるだけで、村は守れなかった。
俺は戦闘力が無いので、怪我人の元へ行き、怪我を回復させた。死にかけていた人も助けたし、子どもも助けたし、女性も助けた。ちなみにドワーフの女性はヒゲが生えていた。
だけど助けられなかった人もいる。
治すっていうのは、怪我を治した本人だけではなく、その家族すらも救う行為である事を、俺はこの時に初めて知った。治した人の家族は喜び、助けられなかった人の家族は泣いていた。
俺がいたから助かった子どもがいた。それがバランの息子だった。
魔物との戦いが一段落した時、ドワーフの戦士は泣きながら子どもを抱きしめていた。俺のスキルで息子が治った事を知ると戦闘力も何も無い俺に、何度も何度も「ありがとう」と泣きながら言っていた。
「どうしてバランがココにいるんだ?」
と俺は尋ねた。
「この街は俺達の村から、そう離れていないんだ。だから俺達が作った武器をココで売っている。誰も店に立ちたがらねぇー。だから交代制で回してるんだ。今日、俺がいるのはたまたまだ」
とバランが蓄えたヒゲを触りながら言う。
「武器の買取りはしているのか?」
と俺は尋ねた。
「すまねぇーが、やってねぇーんだ。この店はドワーフが作ったモノしか売らないんだ」
とバランが言った。
それは仕方がない。職人肌のドワーフが、誰が作ったかわからん物を買い取って商売するとは思えない。
「そうか」と俺が言う。
「魔法の杖は買えねぇーな」とチェルシーが言った。
「魔法の杖?」とバランが尋ねた。
「この子が魔法を使うのに、杖がほしかったんだ。だけど俺達の手持ちのお金が無いから、武器を売って買おうと思ってたんだ」と俺が言う。
「それなら、ちょっと待ってくれ」
とバランは言って、慌てた様子で店の奥に入って行く。
そしてバランが店の奥から戻って来た。
「コレ、売り物にならなかった杖なんだけど、貰ってくれねぇーか?」
とバランが差し出したのは、極太の杖だった。
菜箸サイズのスタイリッシュなタイプなのに、鉄パイプぐらいの太さはある。このタイプの杖で、こんなに太いのは初めて見た。
「大人のおもちゃ」
とチェルシーが言う。
俺は猫の頭を叩く。
「……太い、はぁ、太いです」
とミロが杖を手に取った。
「いいのか?」
と俺は尋ねた。
「太すぎて売れやしないんだ」
とバランが言う。
「ありがとう」
と俺は頭を下げた。
「礼なんてやめてくれ。俺はアンタに恩があるんだ」
とバランが言う。
「杖も手に入れたし、次はミロを飼っていた極悪貴族のところに行くのか?」
とチェルシーが尋ねた。
俺達には戦闘力が無い。
貴族の館には護衛がいるだろう。
貴族のところに行く前に、杖も手に入れたのだから魔法を使えるように調教したい。
「まず、どこかで訓練をしたい。杖が手に入ったからって、そう簡単に魔法が使える訳ではないだろうから」
と俺が言う。
「それなら」とバランが言った。
「この街の近くにダンジョンがある。そこに行けばいい」
ダンジョン?
俺も異世界に来て、まだダンジョンに入った事がなかった。
「それにダンジョンの奥には選ばれた者が引き抜く事ができる剣があるらしい」
とバランが言う。
「選ばれた者って勇者のことじゃねぇ?」とチェルシー。
たしかに選ばれた者って勇者だと思う。
俺も戦闘力を上げたかった。
「そこに行ってみよう」と俺が言う。
「でも気をつけてくれよ。最近、この辺にヨルムンガンドっていう巨大な蛇の魔物が出るんだ」
とバランが言う。
「色々と教えてくれてありがとう」と俺は言った。
そして俺達は武器屋を出た。
街から出る途中に、別の武器屋があったので、そこに入って武器を売り、多少のお金を手に入れた。もう少し貯めてミロの服を買ってあげよう。
そして街を出て、バランに教えて貰ったダンジョンを目指した。
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