第13話 へ、ん、た、い

 入り口に滝があるせいで水の音が聞こえた。

 まだまだ眠たいのに、俺は苦しくて目覚めた。

 

 薄く目を開ける。俺の上にミロが乗っていた。彼女は唇を舐めながら俺を見ていた。


 俺は起きている事がバレないように、目を閉じた。昨日のミロの人生のダイジェストを見たせいで、少なからず同情していた。

 奴隷紋もあるから犯されるような事もない。だから少しだけ多めにみてあげよう、と思った。


 彼女は俺の心臓に耳を当てていた。

 そして次は、俺の脇に顔を近づけ、クンクンと臭いを嗅いでいる。

 この子、俺の脇を嗅いでいる。めっちゃ嫌。なにやってんだよ。

 

 ちなみに服は乾いていたので、ちゃんと着ていた。


 次に彼女がやったのは、俺の首筋を嗅ぎ、耳穴を嗅ぐ事だった。


 はぁはぁはぁ、と荒い呼吸が鼓膜を揺らす。

 そして耳の中にナメクジみたいなヌルッとしたモノが入って来た。

 俺の体に鳥肌が立ち、くすぐったくて下唇を噛み締めた。

 彼女の腰がクネクネと蛇のように動き始めた。


 ミロは俺への耳舐めをすぐにやめて、隣に転がった。

 どうやら奴隷紋が発動しているらしく、心臓を抑えている。


 前回、奴隷紋が発動した時は俺を襲おうとした時だった。もしかして俺への耳舐めで興奮して俺を襲おうとしたのか? それとも耳舐め自体がアウトだったのか?


 しばらくすると奴隷紋が収まったらしく、彼女がヌクッと起き上がった。薄目で確認すると俺の下半身をミロが見つめていた。


 ちゃんとズボンは履いている。でも元気な体である。朝立ちというか、アレがバッティングできるぐらいカティンカティンになっている。


 それがズボン越しでもミロにバレているらしい。

 俺の下半身を見つめていたミロが、俺のベルトに手をかけた。


 絶対にソレは奴隷紋が働くぞ、と思っていたのに、なかなか奴隷紋が働かない。

 どうなってるんだ? 

 薄目で確認すると彼女はソッポを向いて、聴き取れるかどうかわからないぐらいに小さい声で鼻歌を歌っている。

 

 意識を逸らしながらベルトを外しているんだと思う。

 犯す事を意識してしまったら奴隷紋が発動するのか?


 南京錠を解除するようにベルトが外された。

 

 そして彼女の手がチャックを摘んだ。

 気を逸らそうとしているのか、鼻歌が大きくなっていく。

 ビリビリチャレンジのようにゆっくりとチャックが下された。

 鼻歌から口笛に切り替わった。

 草原で少女が踊っているような愉快な口笛である。


 チャックが完全に下ろされた。

 ミロは汗を拭い、大きく息を吐いた。

 

 奴隷紋を攻略したのか? と俺は焦る。

 

 彼女の手が、俺の下半身に伸びる。

 そしてイチモツを掴んだ。


「うっ!!!!」

 とミロは声を噛み締めて、胸を押さえた。


 それゃあ奴隷紋が働くよ、と俺は思った。


 しばらく彼女は身動きしなかった。

 俺は目を瞑り、水が滝壺に落ちていく音を聞いていた。


 あれ? 

 なんもして来ないのかな?


 ベチョ、と唇に冷たい水みたいなモノが落ちて来た。

 湿気が多い洞穴である。水が滴ってきたのだろう。


 薄らと目を開けた。


 ミロの顔面が目の前にあって、彼女は俺を見下ろして、口から透明な少し粘着性のある液体を垂らしていた。


 俺は目を見開いた。

「なにしてんだよ!」

 と叫ぶ。


 ベチョ。


 ミロの唾液が、俺の顔面に落ちてきた。


 俺は服の袖で、唾液を拭った。


「ごめんなさい。つい唾液を垂らしちゃいました」

 とミロが謝る。


「つい唾液を垂らす事なんて、あるのかよ」


「私の口内菌を味わってほしくて」

 とミロが言う。


 口内菌って嫌なワードだな。

「味わってほしかったんだったら、確信犯じゃねぇーか」

 と俺が叫ぶ。

 つーか、奴隷紋どうなってんだよ?

 唾液を味わってほしい、っていう善意の行為だから奴隷紋が発動しなかったのか?


「ついつい確信犯で唾液を垂らしちゃいました」

 とミロが言う。

「私に罰をお与えください。肉便器でも、〇〇◯◯◯◯でも、何でもやります」


「それ、ミロにとってはご褒美だろう」


「わかりました。私の〇〇〇をほじって痛めつけて下さい」


「……」

 コイツ、だいぶ呪われてるな、と俺は冷めた目でミロを見る。女性の口から〇〇〇なんて聞いたのは初めてだった。


「わかりました。〇〇〇だけじゃなく、〇〇〇もほじりたいんですね? 勇者様のド変態」


 早く呪いを解いてあげなくちゃ、と俺は思った。


 視線を感じて後ろを振り向く。


 毛玉のように丸まって、眠っていた黒猫が、俺達の話を聞きながら座っていた。


 「へ、ん、た、い」とチェルシーが、ゆっくりと口を開いた。


 言い訳するのもしんどい。

「うるせぇー。棘ティンポコ」

 と俺が言う。


「言っとくけど、それ猫差別だからな。ミスター包茎」


「誰が包茎なんだよ」

 と俺。


「勇者様の余ってる皮を食べてあげましょうか?」とミロが言う。


「それは、どういう種類のエロなんだよ」


「焼いて塩ふって食べたら、脂が乗ってて美味いだろうよ」とチェルシーが言ってケラケラと笑った。


「民度が低すぎる」

 と俺は思わず言ってしまう。


 チェルシーが起き上がる。

「皮の話をしてても仕方がねぇー。早くココから出よう。新妻が追いかけて来るかもしれん」

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