第11話 魔法少女

 チェルシーの映像は記憶を読み取ったモノである。記憶というのは曖昧で、抜け落ちていたり、勘違いしていたり……。だけど彼のスキルは、それすらも補正して読み取ってしまう。だから記憶に蓋をしている彼女の記憶すらもダウンロードする事が可能だった。


 映像自体は記憶の持ち主の視点ではなく、三人称の視点で映像が映し出された。カメラアングルはチェルシー自身が切り替え可能らしく、主人公の目をカメラにする事も可能らしい。ただし無理なアングルもあるっぽい。

 チェルシーが面白いと思う部分、あるいは必要だと思う部分を切り取って編集して映像で流す。チェルシー監督の作品映像、と言っても過言ではないのかもしれない。



 ミロはエルフの村で、魔物駆除みたいな事をやっていたらしく、エルフの村近辺に来た魔物を退治していた。彼女が出す魔法。初級魔法のファイアが、正義のヒーローの必殺技のような火力と爆発力を持っていた。魔物達はトースターで焼かれたように丸焼けになった。


 魔物駆除をしているのはミロだけではない。他のエルフも同行していた。同じようにファイアを出していたけど、やっぱりファイアは初級魔法で、少し魔物にダメージを与えるだけのモノだった。

 ミロだけが特別だった。


 特別なエルフ。その特別なミロが外部にバレることになる。

 いつものように魔物駆除をしていると冒険者と出会った。5人パーティーの冒険者である。1人は女性で、残り4人が男性のパーティーである。

 ギャルサーの姫みたいに杖を持った女の子が男子に囲まれていた。すでに魔物にやられた1人の男性が地面とキスをしている。

 彼等は中型の魔物に襲われて全滅するところだった。

 冒険者を助けるためではなく、いつものように魔物駆除をするように、工場のライン工が慣れた手さばきで作業するみたいに、ただのファイアでミロは中型の魔物を倒してしまった。

 助けた冒険者に何も言わず、彼女はその場を去った。



 それから数日後に彼女は王都に行く事になっていた。

 それはミロの意志ではなかった。王都から使者が来たのだ。

 使者はねずみ男が綺麗な服を着ているような印象の男だった。ソイツが村長や大人達と交渉したのちに、ミロは王都に行く事になったのだ。


 冒険者達はギルドでミロの事を噂したのだろう。あるいは王都で優秀な魔法使いを探していて、ミロの事を喋ったのかもしれない。彼女は冒険者を助けたせいで村を離れる事になってしまった。


 ミロは母親に抱きついて泣いていた。

 彼女の母親は年齢がわからない美しい女性だった。

 母親はミロの頭を撫でた。


「王都になんて行かなくていい」と母は言った。


「……私、行く」とミロが言う。


「アナタが犠牲にならなくていいんだよ」


「でも、……村に結界をはるためにお金が必要なんでしょ?」


「この村にはアナタがいるじゃない」と母親は言った。


 ミロは首を横に振った。


「もし私が死んだら? もし私がいない時に魔物が襲って来たら? もし私が倒せない魔物がやって来たら? この村は何度も魔物の被害にあっているんだよ?」

 それを見ていた父親が、娘を抱きしめた。


 次の映像ではミロは白い甲冑を装備していた。そしてドラゴンを倒したり、王様の護衛したり……etf。

 彼女が活躍している映像がショート動画のように、いくつも再生された。ミロの聖騎士団としての活躍をダイジェストで編集しているんだろう。



 城下町の居酒屋。

 日本の居酒屋みたいな雰囲気ではなく、木で作られたボロボロの家に薄暗い明かりが灯る異世界の居酒屋である。


「最年少で聖騎士団長になるなんて、さすがミロさんですよ」

 と1人の男性が言った。

 どうやら仲間とお酒を飲みに来ているらしい。

 聖騎士団達は普段着に着替え、小さな樽のようなコップでビールを飲んでいた。


「たまたまだ」

 とミロは言った。

 彼女の言葉は敬語ではなかった。

 少し威圧的で、自分が強いと信じている人間特有の声色だった。


「次の勇者が召喚されたらしいですよ」

 と仲間の1人が言った。

 そして仲間内の1人に視線が向けられた。

 そこにいたのは新妻だった。


「なんだよ?」と新妻が低い声で呟いて笑った。「落ちこぼれを見る目でコッチを見るな」

 

「副団長は落ちこぼれじゃないっすよ」

 と仲間の1人が言った。

 どうやら、この時の新妻勇気は副団長だったらしい。

 この時点でも新妻はオッサンである。


「俺は落ちこぼれだよ。勇者の後に召喚されちまったから魔王を倒す力もねぇ。だから勇者の称号もねぇ。それに3年前に入って来たばかりの新人のお姉ちゃんに騎士団長の座も取られたんだぜ」

 と卑屈に新妻が笑う。


「アナタは落ちこぼれではない。英雄、新妻勇気」とミロは言った。「たまたま私が聖騎士団長になっただけだ。アナタがなっていてもおかしくはなかった。いや、新妻は聖騎士団長に興味がなかっただけなんだろう?」とミロが尋ねた。


「さすが聖騎士団長様」と新妻が言う。「俺は、出世になんて興味がねぇ。ただ子どもが待っている家に帰りたいだけなんだ」


「故郷は日本という異国の場所か?」


「そうだ」と新妻が頷く。

 そして新妻勇気はビールを飲んだ。


「必ず魔王を倒しますよ」と新妻が言った。


「新妻がいれば、次の任務も頼もしいな」とミロが言う。


「次の任務は、長い任務になりますよ」と新妻が言った。 

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