第10話 唾液

「おティンポコ、おティンポコ」

 と彼女は言って、スーーーと鼻息が聞こえた。

 暗闇だから見えないけど、パンツ越しのティンポコを嗅いでいるんだろう。そして彼女の細い指がパンツの中に入って来ようとした。


「やめてけれ」

 と俺はどこの方言かわからない言葉を出して、彼女の手を止めた。


「でも勇者様も……勇者様も、こんなにカッティンカッティンですよ?」

 とミロの興奮した声が聞こえた。


 そうである。

 永遠に見続けたい絶世の美女が性欲を剥き出しにティンポコをほしがる姿で、俺も戦闘体勢になってしまっていた。

 ティンポコの意思を代弁するなら、やりたくてやりたくて堪らん。発射準備よーし。


 でも俺には……子どもがいて、この世界で誰かを愛する事を拒んでいた。ココで快楽を求めてしまったら、ココで誰かを愛してしまったら、子ども達のところへ帰れないんじゃないか、と思っていた。

 少なくとも異世界から離れたくないと思ってしまうモノがあるのが嫌だった。


 だから目の前で興奮する美女とヤリたいけど、ヤリたくない。


「カッティンカッティンのおティンポコをください」

 鼻息を荒くして、ミロが言う。


 俺が拒絶しているので、無理にパンツの中に手は突っ込んでこない。彼女には奴隷紋がある。俺が拒絶しているのに、しゃぶり付けば奴隷紋の効果が発動すると思っているんだろう。


「口いっぱいに、入れさせてください。はぁ、はぁ。喉の……奥まで、はぁはぁ」

 ミロの声。

 グチョグチョグチョグチョ、と河童が歩いているような、湿った音がした。

「いっぱい……飲ましてください」

 犬が餌を前にヨダレを垂らすように、彼女の口から唾液が漏れているらしく、パンツが湿ってきた。


 俺は彼女とヤレない。

 それとは別に彼女の事を利用する事を考えていた。

 利用、といえば言葉が悪いのかもしれない。だけど彼女の魔法を見て、ミロは戦力として使えると思ったのだ。


「もう、……おティンポコ食べていいですか?」

 と熱い息をパンツの上に出して、ミロが言った。


「待て」

 と俺は犬に躾けるように、言った。


 くぅ〜ん、と彼女は子犬のように鳴き、「意地悪です」と呟いた。



 今の俺には彼女の力が必要だった。

 俺は子ども達の元へ帰らなければいけない。そのために魔王イライアが持つと言われている賢者の石が欲しい。

 賢者の石は願いを叶えてくれる代物らしい。俺はその石で、子ども達の元へ帰るつもりだった。そのためには魔王を倒さないといけない。魔王を倒すためには戦力がいる。



 だから彼女を拒絶して、切り離して見放す事はできない。彼女には強くなってもらわないといけないし、俺の戦力でいてくれるぐらい従順であってもらわないといけない。

 

「そんなにティンポコが食べたい?」

 と俺は尋ねた。


「食べたいです。はぁ、はぁ」

 と彼女が言う。


 暗闇の中で、手なのか口なのかはわからないけど、触れるか触れないかぐはいの距離でサワサワしている。

 それが理性を失ってしまいそうで、俺は下唇を噛んだ。


「まだミロにはティンポコはあげない」

 と俺は言った。

 まだ、と俺は言ったのだ。

 交渉を始めている。


 くぅ〜ん、くぅ〜ん、と子犬のようにミロが鳴く。「それじゃあ、いつ舐め舐めしてもいいんですか?」


「空を飛んでいる時に急に飛べなくなっただろう? ミロはまだ魔法をまともに使いこなしていない。とりあえず魔法を使いこなせるようになったら考える」


「ヤダ、ヤダ」

 と声が聞こえた。


「ダメ」と俺が言う。


「それじゃあ、喉が乾きました」

 と彼女が言う。


 それじゃあ、と彼女は言ったのだ。

 ティンポコの代わりに性の交渉をしているのだろう。


「本当は……勇者様の熱い熱いネバネバを飲むつもりだったんですが……」


 熱いネバネバってなんだよ? アレの事を、コッチの世界では熱いネバネバって表現するのか。


「仕方ないので、……唾液をもらいます」


 ティンポコの代わりの要求が唾液か。

 妥当だろう。妥当なのか?


「魔法を使いこなせるように、頑張ってくれるか?」と俺は尋ねた。


「がんばりゅ」と彼女が言った。


「それじゃあ唾液なら」

 と俺が言う。


「はぁ、はぁ」と興奮しながら這い上がって来た。


 彼女の甘い呼吸が、俺の口の中に入って来る。


「キスはダメ」と俺はガードが固いエチエチな店の女の子みたいな事を言う。


「どうしてぇ、ですか?」

 と悲しんでいるような、甘えているような声をミロが出す。


「キスは、まだダメ」

 と俺が言う。

 オッサンが、なに身持ちの固い女子みたいな事を言ってんだよ、と思って暗闇の中で苦笑いした。


「魔法、いっぱい使えるようになったら、キスしてくれますか?」


 考える、と言いかけて言葉を飲み込んだ。やる気になるような答えが必要なんだろう。

「うん」と俺は頷いた。


「絶対ですよ」

 と彼女が言って、俺の横に寝転んだ。

「勇者様、乗って来てください。上から唾液を落としてください」


 なんだ、そのパワーワード。

 独身だったら、まず間違いなく、ヤッている。


 俺は彼女に体重をかけないように、乗った。


「あーん」

 と声が聞こえた。

 暗闇の中で、彼女が俺の唾液を飲むために大きく口を開けているのを想像した。


 俺は口の中に唾液を溜めた。


 そして彼女の甘い呼吸に近づいて行く。

 彼女の頬を両手で挟む。

 指で口の場所を確認した。

 想像した通りに、彼女は大きく口を開けていた。指で彼女の口の場所を確認するとナメクジのような舌が這い出てきて、指を舐められた。


 俺は口の中で溜めていた唾液を暗闇の中に垂らした。


『ゴクン』

 と暗闇の中から、喉の音がした。


「おいちぃ」

 とミロが言った。


「もっと」

 と彼女が言う。

「まだまだ喉が渇いてます」


 俺は口の中に唾液を溜めた。


「あーん」

 と彼女が声を出す。


 暗闇の中で俺は唾液を垂らした。


『ゴクン』


「はぁ、はぁ、おいちすぎます」

 と彼女が言った。

 

 ミロの腰が波のように、クネクネと動いている。


「私のこと、舐めてくれますか?」


「耳ならいいよ」


「もっと下がいいです」


「これから頑張ったらね」

 と俺が言う。


「今日、私頑張りましたよ?」


 俺は彼女の耳に近づく。

 耳の縁を舐める。


 俺が舐めやすいように、ミロが横に向いた。


 小さな穴に舌を入れる。

 

 彼女の股が、俺の太ももを挟んだ。そして擦りつけるように波打った。

 

 耳をしばらく舐めた後に、俺は耳から口を離した。


「少しは頑張ったから首まで舐めてあげる」

 もっと頑張ってくれよ、という言葉を隠して、俺は彼女の細い首筋を舐めた。絹のように滑らかな肌。しょっぱい汗の味。

 彼女は俺の手を握り、俺の太ももに擦りつけるように腰を振った。


 首、右耳、左耳をいっぱい舐めてあげた。最後は強く抱きしめられて彼女は果てた。


 彼女が果てた後に、俺は彼女の上から退いて横になった。


「勇者様はズルいです」


「……」


「勇者様はズルいです」


「……」


「勇者様はズルいです」

 と彼女が言った声は震えていたので、ごめんと言いそうになって言葉を飲み込んだ。


 しばらくするとスースー、と寝息が聞こえた。

 俺は眠る事ができず、暗闇の中で目を開けていた。


 小さな足音が聞こえた。


「チェルシーか?」

 と俺は暗闇に尋ねた。


「ヤッたのか?」

 と猫の声が聞こえた。


「ヤッてねぇ」

 と俺が言う。


「お前はインポか!」

 とチェルシー。


「ミロの過去が見たい」


「なんで?」


「彼女の過去に呪いを解く鍵があるんだろう」

 と俺は言った。


 俺は彼女を利用しようとしている。

 俺はズルい。

 彼女のエチエチの呪いすらも、調教するための道具にしようとしている。

 だから、せめて俺が日本に帰る頃には、彼女をまともな人間にしてあげたい。

 勇者様はズルいです。

 エチエチな呪いが解けたら、それはそれでいいのだ。


「ミロは眠ったのか?」


「あぁ」

 と俺は頷く。


「仕方がねぇーな」

 とチェルシーが呟く。

「劇場内での映画の撮影、録音は犯罪だからな。不正な行為をみかけたら俺が鋭い爪で顔面をひっかけるぞ。NO MORE 映画泥棒」

 と猫が言う。


 そして猫の目が光り、プロジェクトマッピングのように壁に映像が映し出された。














(作者からのお願い)

 面白かったら作品フォロー、作者フォロー、☆☆☆での評価よろしくお願いします。


関連作品は『性奴隷を飼ったのに』です。もしよかったら読んでください。

https://kakuyomu.jp/works/16817139558183718127

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