第7話 調教開始

「勇者様の匂いがします」

 とミロは言って、俺があげたローブを羽織ってクンクンと嗅いでいた。


 さすがに麻の服、動けばパンツが見えてしまう葉っぱのスカートだけでは見た目が18禁になってしまうから、俺が使っていた黒のローブを彼女にあげた。


 変な薬でも吸引するように、俺の汗が染み込んだローブを嗅ぎ、ミロは下半身をモゾモゾさせた。

 彼女はエチエチしたい呪いにかかっている。だからモゾモゾしてしまうんだろう。


「変なところを触るな!」

 と俺は注意した。

 彼女の手が下半身の聖なる部分を触り始めたのだ。


「だって……男性の香りって最高なんです」


「イカ臭ぇ」とチェルシーが言う。


「チェルシーもイカ臭ぇ、って言うのは禁止だからな」


「それじゃあ、この匂いをどうやって表現したらいいんだ?」とチェルシー。


「表現しなくていいんだ」と俺は言った。


「これからミロに攻撃魔法を使ってもらう。そこの木に向かって使える攻撃魔法を出してくれ」と俺は言った。


「魔法の使い方、……なにも覚えてません」


「魔法はイメージなんだ」と俺が言う。


「頑張ったら、今晩のおかずはコイツのティンポコだぞ」とチェルシーが言う。


 俺はチェルシーの頭を叩く。


「なんだよ?」


「民度の低い発言はやめようぜ」

 と俺が言う。


「俺から民度の低さをとったら、何が残るんだよ?」


「民度の低さを誇るな」


「頑張ります」

 とミロが言って、両手を木に向けた。


「ほら、やる気になってるじゃねぇーか」

 とチェルシーが言う。


 何かを出そうとミロは顔を真っ赤にさせて、「うーー」とうねった。


「めっちゃキバってるじゃねぇーか。魔法はウンポコと違って、キバっても出るもんじゃねぇーぞ」

 とチェルシーが言う。


「……はい」

 とミロが言う。


「頑張って魔法を出して、ティンポコを喰らう」

 とチェルシーが言う。


「頑張って魔法を出して、ティンポコを喰らう」

 とミロがリピートアフタミー。


「なんか出そうか?」

 とチェルシーが尋ねた。


「なんか出そう」とミロ。


 マジかよ?


「ウンポコが出るんじねぇーの?」

 とチェルシーが言ってケラケラと笑う。


 クスクス、とミロが笑う。

「笑かさないでくださいよ」


「魔法を出そうと思って、ウンポコが出るって、面白すぎる」とチェルシーは言って、ケラケラと笑って、地面を叩く。


 クスクスとミロが笑って、「もう全然、魔法の出し方がわかんないです」と言った。


 なんだコレ? 民度が低すぎて会話が幼稚すぎる。

 俺は苦笑いをした。

 そして辺りを見渡す。

 風が無いのに草が揺れていた。


「笑ってる場合じゃねぇ」

 とケラケラと笑っていたチェルシーが言い出す。

「何かの気配がするぞ」


 俺はただの剣の柄を握りしめた。

 ガサガサと草木が揺れ、緑色の小鬼が飛び出して来た。

 はぐれゴブリン。

 ゴブリンの手には錆びた剣が握られていた。

 俺は鞘から剣を抜き、ゴブリンに攻撃した。

 カン、カン、カン、と剣がぶつかる音が響く。


「はぐれゴブリンだぞ。一撃で仕留めろよ。勇者だろうが」

 と後ろからチェルシーの声が聞こえる。

「村人でも倒せる魔物だそ」


「うるせぇーよ」

 と俺は言いながら、必死にゴブリンの攻撃を剣で受けていた。


 俺がゴブリンの剣を避けた。ゴブリンが握っていた錆びた剣が木に刺さった。


 その隙に俺はゴブリンの喉元を剣で貫いた。


「やった。やったぞ」


「ゴブリンを倒しただけで喜んでるんじゃねぇ」

 とチェルシーが言う。


 でも1度も攻撃を受けずに倒せたのは初めてだった。


 俺は木に突き刺さった錆びた剣を、引っこ抜く。

 剣に回復魔法をかけた。


 回復とは元に戻す、という事である。 

 錆びた剣が、ただの剣に戻っていく。

 物すらも回復できた。

 俺の回復魔法は治癒魔法ではなく、時間を戻す魔法なんだと思う。


 ゴブリンの腰に付いていた鞘を取った。コレが俺の収入源である。

 とりあえずゴブリンがドロップした剣を腰に差した。


 馬の足音が聞こえた。

 木々は揺れ、鳥が飛んでいる。

 魔物1匹の気配ではない。

 何者かに囲まれている。


「クソ」と俺は飛び立った鳥の羽ばたきを聞きながら、呟いた。


「聖騎士団の中に気配を消す魔法使いがいるんだろう」

 とチェルシーが言った。


「逃げれねぇーか?」

 と俺が言う。


「もう無理じゃねぇ」

 とチェルシーは鼻をペロペロと舐めて言った。


「どうしたんですか?」

 とミロが尋ねた。


「俺達は国に追われているんだ。俺達を追う聖騎士団様が、すでに俺達を囲んでるんだよ」

 とチェルシーが言った。


 ミロは木々を見渡す。


 葉っぱの隙間から、馬に乗った新妻勇気にいづまゆうきが現れた。

 新妻勇気は俺より前に召喚された日本人である。しかも異世界に来て若返る事もなく、おじさんの姿のままである。

 それに彼は勇者ですらない。少しだけ強い力を持った日本人。


「久しぶりだな、佐々木武蔵」

 と太い声で新妻勇気は、俺の名前を呼んだ。


 俺達を囲むように、馬に乗った聖騎士団が葉っぱをかき分けて何人も現れた。聖騎士団は頑丈そうな白い甲冑を着て、攻撃力が高そうな剣を装備していた。


「ミロ団長」

 と誰かが呟いた。


「なぜ、そこにミロがいる?」

 と新妻が尋ねた。


「……」

 ミロがココにいる理由を俺は答えるつもりはなかった。

 それより聖騎士団に囲まれて、ココからどうやって逃げる? あれ? 詰んだ?


 子どもの元へ帰りたかっただけなのに……。

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