第6話 イカ臭せぇ

「あの女はどこ行ったんだ?」

 とチェルシーが尋ねた。

 

 洞穴で目覚めるとミロはいなかった。


「さぁ」と俺は首を傾げる。


「お前、ご主人様なんだろろう? ちゃんと調教しろよな」

 とチェルシーがブツブツと言いながら立ち上がり、洞穴から出て行く。

 

 壁に立てかけていた、ただの剣を腰に差して、俺もチェルシーの後を追うようにして洞穴を出た。


「勇者様」

 と可愛らしい女の子の声が聞こえた。

 どうやら彼女は洞穴の前で朝ごはんを作っているらしい。

 俺達がいつも使っている鍋で、何かを煮込んでいた。


 チェルシーは丸太の上に座っていた。彼が丸太の上に座ると庭に置かれている置物みたいだった。

 俺は猫の隣に座った。


「服、買ってやれよ」

 とチェルシーが言った。


 彼女の服を見る。

 Tシャツサイズの麻の服。それに俺達が目覚めるまでに作ったらしく、大きな葉っぱを何枚も重ねて蔓で繋げただけのスカートを履いている。それに裸足である。これから寒くなっていく。今の彼女の服では耐えられないだろう。


「次にお金ができたら服だな」

 と俺は言った。


「金ねぇーのかよ?」


「彼女を買うために、全財産使った」

 と俺が言う。


「人間様の美醜に俺は興味はねぇーけど、お前も相当な格好をしてるぞ」

 とチェルシーが言った。


 そういえば、もう半年ぐらい服は購入していなかった。

 水辺があれば、そのたびに洗っているので匂いは無いと思うけど、皮の部分は剥げ、布地は敗れている。ローブもボロボロだった。

 

「彼女の服を買った後に、俺の服も買おう」

 と俺は言った。


「勇者様、……できましたよ」

 とミロが言って、スープが入った茶碗を差し出した。普段から使っている木で作られた茶碗である。

 彼女は真っ赤な顔で、熱い視線で俺を見つめた。


「ありがとう」

 と俺が言う。

「まさか、君が朝ごはんを作ってくれるなんて思わなかったよ」


 スープの中にはきのこが沢山入っていた。


 チェルシーもスープが入った茶碗を受け取った。

 クンクン、と犬のように嗅いで、彼は俺を見た。


「なんだよ? 毒キノコでも入ってるのか?」

 と俺は尋ねた。


「毒キノコなんて入ってねぇーよ。お前がこれを食べて、どんなリアクションするのかなって思って見てるんだよ」


「勇者様、スプーンを忘れてました」

 とミロが顔を赤くして、俺に木で作られたスプーンを差し出す。

 なぜか彼女は俺を見つめて、モジモジしていた。


 俺はスプーンでスープをすくった。

 そして口に運んだ。

 独特のきのこの香りが鼻を通り、塩気が口の中に広がった。


「美味しい」

 と俺は言った。


「勇者様が私のスープを美味しいって、言ってくれた」

 とミロが下半身をモジモジしながら言った。


 チェルシーが目を見開いて俺を見ている。

「なんだよ?」

 と俺が尋ねる。


「なんでもねぇ」

 とチェルシーが言った。


「美味しいからチェルシーも食えよ」

 と俺が言う。


「いや、俺、いいわ」

 とチェルシーが言う。


「マジでなんでだよ?」

 と俺はスープを食べながら言った。


「このスープには、ミロのが入ってる。俺、鼻がいいからさ、匂いでわかっちまうんだ」


「愛情って匂いがするのか?」


「イカ臭せぇ」

 とチェルシーが言った。


 俺はスープを吹き出した。

「なに入れてんだよ?」


「愛情」

 とミロが顔を真っ赤にして言った。


「明日からは武蔵がご飯を作ってくれよな?」

 とチェルシーが言った。


「お前、わかってんだったら始めから言えよ」


「だって、お前、これ美味いって言って食べてたんだぜ」

 とチェルシーは言って、ケラケラと笑った。


 この猫わかっていて言わなかったのだ。

 腹たつ。


「いいかミロ」と俺が言う。「食べ物に愛情は入れたらいけません」


「……でも」とミロが言う。「勇者様、美味しいって言ってくれましたよね?」


「絶対に愛情は入れたらダメ」

 と俺が言う。


「ごはんは俺が作るから」

 と俺は言った。


 スープは捨てた。

 ミロは凹んでいたけど、イカ臭い愛情が入った料理は食べれません。

 それから俺が残っていた卵とお肉を焼いて、昨日買って来た調味料をふりかけて2人に差し出す。


「やっぱり、愛情抜きの料理はうめぇ」

 とチェルシーが言いながら、肉を頬張る。


 ミロはふて腐れながら、木で作られたフォークで卵を突いていた。


 俺も肉を頬張った。

 この世界の調味料も、普通に美味しい。塩は塩だし、胡椒は胡椒の味がする。


「ご飯を食べ終わったら、攻撃魔法の練習をしよう」

 と俺が言った。


「ちゃんと調教したら、この雌は使えるからな」

 とチェルシーが言った。


「嫌です」

 とミロがふて腐れながら言う。

 まだ愛情入りのスープを捨てたことを怒っているのだ。


「上手く攻撃魔法が使えたら、コイツのティンポコを食わしてやるから」

 とチェルシーが言った。


 俺は食べていた肉を吹き出した。

「何を食べさせるって?」


「がんばります」

 とミロが言った。


 俺は猫の頭を叩いた。

 民度が低すぎて、俺は頭を抱えた。













(作者からのお願い)

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関連作品は『性奴隷を飼ったのに』です。もしよかったら読んでください。

https://kakuyomu.jp/works/16817139558183718127

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