第7話


「は~い、おまたせ」

「……遅い!」

「っ、ごめんなさい!」



 紅緒は後ろに隠れる雪を引っ張りながらも、待ち構えている者たちへと手を振る。


 待っている三人のうち、真ん中にいる女性は淡い紫色の髪は膝丈まであり、サイドの髪を巻き込むようにハーフアップに結い上げている。

 肩を大胆に露出しているが、恥じらいはない。


 淡い青紫色と藤の花のような明るい青紫、白色の着物を重ね着しているのは彼女にとって普通なのかもしれない。

 その姿はまるで、花魁のように妖艶だ。


 彼女は一歩、前に出ると冷ややかな顔をして、ただ一言を放つ。

 それは威厳のある凛とした声だからこそ、無意識に肩がビクッと跳ねる。

 雪は慌ててガバッと腰から曲げるように頭を下げた。



「ふふ、紺くんと喧嘩でもしたのかしら?」



 腰まである白緑びゃくろくの髪をゆるく三つ編みにして、胸の前にたらしている女性は口元に手を添え、ふわりと微笑む。

 まるで御伽話に出てくる姫のようだ。この女性もまた緑と白を基調しているように感じられる。



「雪センパイも相変わらずッスね~」



 黒髪を団子のように結い上げ、タンポポのような明るい黄色の半そでのクロップドパーカーと黒の短パンに身を包む少女はケラケラと笑った。



「だって……だって、紺が! 美味しいの喰べさせてくれないんだもん~~」

若葉わかばサンの言った通りッスね」

「ふふっ、当たっちゃった」



 三者三様の反応にほっとしたのか、ウルっと瞳を揺らすと雪はガクッと膝を曲げ、地面に倒れこむと大きな声で叫んだ。

 周りにどう見られてもいいのか、いや、人間には彼女たちの姿は見えない。

 この姿が見えるものがいるとしたら、同類だけ。

 だからこそ、気が抜けているのかもしれない。


 遅れてきた理由が緑の女性……若葉の言う通りだったことに黄色の少女は半目にすると眉根を下げた。

 若葉は呑気にニコニコしている。



「まっことくだらん」

「くだらなくない!」

「まあまあ、二人とも落ち着きなさいって」



 遅れてきた理由が他愛もないことだったからか、菫はわざとらしく息を吐き出す。

 その言葉は受け入れ難いらしい。雪はガバッと顔を上げて反論した。


 紫と水色の瞳が交差するが、どこか温度差があるように見える。

 仕方なしとばかりに、紅緒は間に入ると雪を立たせた。



「せっかく集まったんだから、早くお茶会しましょう?」

「そーッスよ! 珍しく人間のお菓子が手に入ったんスから!」

菜名ななちゃんは本当に人間の食べ物が好きね~」

「喰いすぎだ」

「美味しいスもん! それと菫サンは喰わなすぎッス!」



 変わらず、微笑み続ける若葉が提案するとその波に乗るように、黄色の少女はビニール袋いっぱいに詰め込まれたお菓子を見せるように手を上げる。

 食べる気満々の彼女に若葉はまた楽し気に笑った。


 二人の柔らかい空気に負けたのか、肩の力が抜けたのか。

 それは分からないが、菫の瞳に穏やかさが戻る。

 呆れたように笑う彼女に黄色の少女、菜名は羞恥を覚えたかのように頬を紅潮させた。


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