新たなる大天使…
目が覚めると、真っ青な空が目に飛び込んできた。
どうやら意識はあるようだ。そして、恐らくここは現実の世界なのだろう。
「おっ、起きたか!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声の主は空を見上げていた俺の顔の前にずいっと身を乗り出してきた。
おっと、頭の方に少しばかり柔らかい感触を感じた。俺はサタンの膝の上にいるようだ。
「これはどういう状況?」
俺がサタンに尋ねると、サタンは虚ろな目をしている俺の頬をペチペチと数回叩いた。
「意識はしっかりあるようだし、初めて他人に治癒魔法を使ったが案外上手くいくものだな。流石、私。あっでも、傷の修復までは完全にし切れていないから痛みは多少残っているし、傷跡はご両親達に見られないように気を付けることだな。」
どうやら、サタンが俺の傷を治療してくれたようだ。確かにズキズキとする痛みは残っているが血はすっかりと止まっていた。
俺は斬られた場所を軽くさすると覗き込んでるサタンに礼を言った。
「ありがとう、また助けられた。」
サタンはその言葉を聞くと、満足げにふふんと言いたげな表情をした。
そして、俺がさすっていた傷の場所を軽く見ると、俺に話しかけてきた。
「しかし、お前も無茶をするものだな。能力が覚醒したからまだ首の皮一枚繋がったとはいえ、覚醒しなかったら今頃お陀仏だったぞ。何であんな無茶をしたんだ?」
サタンの言葉に俺は少しばかり考えるために空の上を見上げた。そして、サタンに言った。
「お前よりはよっぽどまともな理由だと思うけどな。お前には昨日、命を救ってもらった借りがあるだろ?それを借りっぱなしのままだと何かモヤモヤする気持ちになったからだよ。お前の言うとこのただのエゴとやらと同じだよ。」
「その理由とやらも大概だろ。私の方がまだ道徳の授業なら点数を貰えるだろ。まあ、人間味ある理由と言えばそれまでの話だが。」
サタンは俺の理由を聞くと呆れた顔をしながら言ってきた。
別に今、この場で道徳の授業なんてしてないし残念ながら高校生の授業に道徳なんてものはないので点数をいくら貰えようが知ったこっちゃない。
「そもそも、借りを返すと言うなら私に1泊させてくれたのでチャラになったかと思っていたぞ?お前のこれまでの言動から見る人間性的に。」
俺はその言葉を聞くとはっとした。
「あっそうじゃん!それならマジで無駄な痛みを伴っただけのただ働きも同然じゃん…。」
俺が絶望した顔をしているとサタンが心底楽しそうに笑ってきた。
何がそんな面白いのかと言いたいところだ。
サタンはひとしきり笑うと、膝にのせていた俺の頭を地面に優しく置いて、そのまま俺の隣にごろんと寝転んだ。
「そうだな、本当にお前だけが重症を負っただけだったな。私は、右腕を軽傷で済んだだけだから結界が解けた後に自分で自己治癒したおかげでほぼ完治した。」
そう言うと、自慢気に俺に向かって完治した傷の跡も特に残ってなさそうな綺麗な腕を見せてきた。
これじゃあ、本当にただの痛み損じゃないかと俺は思った。
そんな俺の顔を見たからか、サタンは止めを刺すようなことを言ってきた。
「そもそも、今回のガブリエルとやらに止めを刺したのはこの私だからな。結局、借りを返したと思ったとこで新しい借りが生まれたわけだ。残念だったな。」
いたずらっぽくニヤニヤとした笑みをサタンは俺に向けてきた。
「何だよその理論。無限ループ始まらないか?それだと。」
俺は無茶苦茶な理論を振りかざすサタンにツッコんだ。
「まあ、なぜお前が世にも珍しい闇属性の能力が発動したかは知らないがこれから先それなりに長い付き合いになるような気がするから、また気が向いた時にその借りとやらを返してくれれば私は一向に構わないぞ。」
サタンは傍若無人とはまさにこう言うのを言うんだろうなと言ったテンプレのようなセリフを俺に言ってきた。
「そう言えば、ガブリエルと言うか天馬の奴はあの後どうなったんだ?」
俺がふと思い出したかのようにサタンに尋ねた。
サタンは苦々しそうな顔をすると、首を軽く横に振った。
「死んだと思った?残念ながら生きてるわよ。」
何度も高校で聞いた馴染みのある声が耳に響いてきた。
俺は寝転んでいた体勢から体を起こすと、そこには元の服に戻っていたガブリエルもとい天馬の姿がそこにはあった。
「いや、あれ食らって生きてるのかよ…。」
俺は思わず、小声で呟いてしまった。
仮にもほぼ不意打ちに近い状態でサタンの一撃を食らったというのに無傷の状態なのである。
これには流石にその一撃を受けさせるために体を張った俺の苦労が台無しと言ってもいい状態だ。
「まあ、全力とは言え魔力妨害を受けた状態の一撃だからね。致命傷にはならなかったし、その後すぐに処置はしたから傷もほぼない状態よ。」
天馬はそう言うと一撃を受けたであろう肩をこれ見よがしにグルグルと回した。
「もう襲わないのか?」
俺はそんなまだまだ余裕たっぷりの状態の天馬に向けて一番重要なことを尋ねた。
天馬は少し考えると、俺の方を向いた。
「まあ、ここでボロボロのあなた達二人に止めを刺すのは一度は考えたんだけどね。」
考えはしたのか、この女。
何というか、昨日襲ってきたのにしても天使ってのはロクでもない奴らだなと思った。
俺がそんなことを心の中で思っていると、
「まあ、これ以上戦い続けるのも疲れたし正直能力が発動しちゃった時点で私の想定していた最悪のシナリオはすでに始まってるのよね。」
うんざりとした顔で天馬が言葉を続けてきた。
「それに一応、同級生の誼ってやつ?多少は私にも情ってのがあるからね。だから、この人の案を採用することにした。」
そう言うと天馬は自身の後ろを指さした。
すると、その後ろからこれまた見覚えのある顔が出てきた。
「よう、神野。まさか、能力が発動しちゃうとはな。いやー、愉快愉快。」
少しばかり癖毛で髪の毛が跳ねている黒髪の整った顔立ちの少年がそこには立っていた。
同じ高校で部活も一緒の同級生の佐藤凛(さとうりん)。
何でこんな奴がこんな場所に来ているのか不思議でしょうがなかった。
いや、天馬との会話的に明らかにこの事情を知っている側の人間なのだろう。
「そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするなよ。しかし、予想外だったな。あんな土壇場で能力発動なんてどんだけでたらめな運をしてるんだよ。」
よく高校で見せている人懐っこい笑みを浮かべながら座り込んでいる俺の顔を覗き込んできた。
すると、サタンが手を出させないとばかりにずいっと目の前に現れた。
「剣の知り合いのようだが、この女と繋がっている時点で天使側の人間なんだろう?」
警戒心たっぷりと言った声音で佐藤に言い放った。
佐藤はニヤリと意地悪気に笑うと、
「ふーん、こいつがサタン・ウィザードか。なるほどね。光魔法の後継者。闇能力の話にしても、いよいよ例の話に似てきたな。」
意味ありげでそして何のこっちゃか分からないことを佐藤は言ってきた。
「どうせこの状況も全部ある程度見通せてたんでしょ。お得意の見通す力とやらで。」
嫌味たっぷりに天馬が後ろから佐藤に言った。
佐藤はニマニマと笑いながら顎を手でさすった。
「まあ、ある程度はな。」
見通す力?本当に何の話をしているのか全く理解が出来ない。
「天使ってのはそれぞれ固有の能力があるのよ。凛君のは対象の人物の近い未来を見通すことが出来る能力なの。あー、ちなみに彼の正体はサリエル。私と同じ7人の大天使の内の1人よ。」
「へ―それはまた便利な能力だな。って、今何て言った!?」
えっ、こいつも大天使の1人なの。と言うか、大天使ってのはこの2人を含めて7人もいるのかよ。
「そういう貴様はどんな能力があるんだ?明らかに奥の手で隠して舐めプしてたように感じたが?」
天馬に対してサタンが辛辣な口調で尋ねた。
どうやら、よっぽど手を抜かれていたのが腹が立っているらしい。
コイツ、実はかなりのバーサーカー気質なんじゃないだろうか。
「言う訳ないじゃん。凛君のはそもそも攻撃的な能力じゃないからね。別に本人自身がバラされたところでってスタンスだから教えただけ。悪いけど、自分の手の内を自ら教えてあげるほど馬鹿じゃないのよ。」
天馬がサタンに言い返した。
何だかこの2人は気が合わなさそうだなと感じた。
「まあ、と言う訳でこれから何かと俺達の手伝いをして貰うことになるからよろしく。神野。」
「俺達じゃなくて、‘‘あなたの’‘でしょ。私まで同類と見られるからやめてよね。」
佐藤の言葉に天馬がすぐさま反論した。
俺はそんなことよりも聞きたいことがあった。
「いや、大天使とか言ってるけど何でじゃあお前ら2人は普通に今まで高校生してたんだよ?」
「そんなのこの地域に闇能力を持った子供が生まれたって情報があったからな。適当な魔力耐性ありそうな人間に受肉してこの年になるまで人間として普通に生きてきただけだぞ。」
佐藤は俺の最大の疑問をさも当然かのように返してきた。
いや、受肉って。本当に漫画の世界みたいな話だと思った。
「どうせ近いうちに色々分かるさ。別に焦って今ここで全部話す必要もないだろ?と言うか、一度に話したら数日で済むような話じゃない。そうだな、簡単に要点だけかいつまんで教えると。」
そう言うと、佐藤は俺の目の前に人差し指を突き刺してきた。
「お前の体に闇能力を宿らせた犯人様が世界を滅ぼしかねないようなトンデモないことを起こそうとしてる。だから、発動する前に仕留めちゃおうってそこの喧嘩っ早い女が言い出したんだよ。ただ、如何せん俺達以外の大天使共はすでに犯人様の息がかかっていてな。で、見通す力で未来を見たところお前の能力が発動する未来はどうあっても止められない。能力が発動した時点で犯人様の作戦は成功してるんだから、どうせなら生かして協力させて、まとめて滅ぼしちゃおうぜってことにしたのさ。」
俺はあまりに非現実的な話にポカンとした顔をしていた。
天馬はその顔を見ると呆れたように佐藤に言った。
「ほら、一度に全部大事なことだけ言ったから脳の処理が追い付いてないわよ。」
「構わんさ、なあサタン・ウィザードさん。どうせ、ウィザード家でコイツをどうするかの話はすでに始まってているんだろ?なら、俺達と1つ協力しないか?」
そう言うと、佐藤は何か良からぬことを企んでそうな顔でサタンに近づいた。
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