サタンの妹
大天使との死闘を繰り広げた2日後、俺はいつも通り自転車を漕ぎながら学校の帰り道を走っていた。
結局、あの後佐藤からのサタンは乗るとも乗らないとも言わず家の意向次第とだけ言い捨てて2人とは別れた。
その後、昨日は普通に学校では2人とは会ったが特に話すこともなく何事もなく2日間が過ぎようとしていた。
「出来ることならもう厄介事には巻き込まれたくないんだけどな。」
部活の練習が終わりすっかり暗くなった夜空を見上げて、俺は自宅に着くと乗っていた自転車を車庫に片づけた。
そして、家の鍵を開けてもらうために玄関のインターフォンを鳴らしたが、数秒経っても誰も出てこない。
自分が帰ってきたことを知らせるために軽くドアノブを引っ張ると鍵をかけ忘れていたのか、玄関のドアが開いた。
「開いてるなら開いてると教えてくれてもいいのに。」
俺はそうぼやくと明かりがついているリビングに向かった。
そこからは楽しそうに笑う母親やサタンの声が聞こえてきていた。そして、聞き慣れない女性の声が1つ。
「誰か来客でも来てるの?」
俺はリビングの扉を開けるとテーブルを囲んで笑い合っている母親とサタンと見知らぬ少女の3人に向かって言った。
「おー剣か。遅い帰りだな。」
「部活の練習があるんだ、当たり前だろ。」
俺はサタンに言い返すと、見知らぬ少女を見た。
銀色の肩にかかるかかからないかくらいのサラサラした艶のある髪は顔の造形を含めてまるで西洋人形を思い浮かべるような容姿だった。
サタンもかなりの美少女だが、こちらの少女もこれはまた別次元で美少女と呼ぶのにふさわしい風貌をしていた。
少女は座っていた椅子から立ち上がると俺の方へと近づいてきた。
どことなく品を感じる所作には小柄な背丈も相まって本当に人形のような姿だった。
「初めまして、私の名前はルル・ウィザード。サタン・ウィザードの妹です。剣さんですよね?お初にお目にかかります。姉から色々と話は聞いております。」
ひらひらとした白を基調としたワンピースを着たサタンの妹を名乗る少女はワンピースのスカート部分を軽く持ち上げると俺の目の前でニッコリと笑うと軽い会釈をした。
そう言えば、4人兄妹で1番上に兄が2番目に姉がそして一番下に女の子がいるとはサタンから聞いていたが、恐らくこの少女がその妹なのだろう。
俺は自分より15センチほど小さいその少女を見下ろすとなるべく笑顔を作るようにして挨拶をした。
「初めまして、お姉さんには色々と助けてもらった神野剣と言います。」
正直、顔が可愛すぎてサタンと初めて会った時もそうだが非モテの自分には中々刺激が強すぎる。
どうしても声が上ずってしまっているような感じがしてしまう。
「サタンちゃんもそうだけどルルちゃんもいい子ね。サタンちゃんを迎えに来たんだって。ただ、まだ一緒に来るはずだった人?が来れないみたいで3から4日ほどこちらに滞在するみたいだからサタンちゃんと空いてる部屋で泊まってもらうことにしたわ。」
この数日ですっかりサタンと仲良くなっている母親はそう言うと立ち上がってキッチンの方に向かった。
初めて来た人をこうも簡単にお泊りさせるのはどうなんだと言いたいが、無駄なのでやめることにした。
そう言えば、サタンから天馬の起こした魔力障害のせいで日本の方に直接移動魔法を使えないせいで急いで1人だけ航空会社の飛行機で日本に向かい、後続でサタンの実家が所持している飛行機で向かうとは聞いていたが、いくらなんでもぐだぐだすぎるだろとツッコミたい気持ちだった。
「4日間ほどですがよろしくお願いしますね。」
先程から笑みを絶やさないルルがそう言うと、俺の手を握り握手をしてきた。
何と言うか、天使のような子だなと思った。
同じ姉妹なのに一方は傍若無人っぷりが中々なじゃじゃ馬お嬢様なのにと思い、俺はサタンの方をチラッと見た。
サタンはその視線に気づくと、
「何だ文句があるなら何か聞いてもいいんだぞ?」
「いいや、姉妹と言っても性格まで全部同じじゃないんだなって思っただけだよ。」
「ほうほう、それは宣戦布告と受け取っていいんだな。いいだろ、受けてたってやろう。」
「やめろ!お前、女のくせに無駄にパワーあるから割と疲れるんだよ。」
俺は掴みかかろうとして来るサタンを振り払おうとした。
すると、そんな俺達を見ながらルルはクスクスと笑い始めた。
「珍しいですね、あのお姉さまがこんなに楽しそうにしてるなんて。昔のお姉さまを見ているみたいです。本当にメールに書かれているような方なんですね。」
ルルに言われたサタンは何かバツの悪そうな顔をした。
俺に関するメールを送っていたようだがどんな内容なのか地味に気になる。
まあ、それはどこかでルルから直接聞くとしよう。それよりも俺はサタンの方を見ると、
「何、お前?実はあまりあっちでは人付き合いよくないキャラだったりするの?」
俺の純粋な疑問にサタンはムッとすると、
「お前が失礼なことを言うからだ。私はちゃんと良家のお嬢様なのだ。普段は威厳というモノが大事なんだよ。」
「少なくともお前と会ったこの数日でその威厳とやらを感じたことは一度もないんだが。」
俺が小声でボソッと言うと聞こえたのか再びサタンが襲い掛かろうとしてきた。
俺は制服を着替えようと思い、2階の自室に上がるためにドアの前で待ち構えるサタンを鬱陶しそうに手でシッシッと追い払おうとした。
「そう言えば、夕ご飯をご馳走してくれるそうなのですがその前に少しばかりお姉さまを混ぜて剣さんとお話してもよろしいですか?」
先程までニコニコしていたルルが真面目な顔になると、俺に言ってきた。
制服から夕ご飯を食べシャワーを浴びるまでの間の軽い服装に着替えると、俺とサタンはルルと共に家の外に出た。
どうやら、俺の家族にはあまり聞かれたくない話のようだ。
家から少し離れた場所まで向うために3人で歩いていると、俺は先程から気になっていることを尋ねた。
「2人って姉妹なんだよな。その割には顔とかあまり似てないよな。背丈もだいぶ違いあるし。後、呼び方はどんな呼び方で呼べばよかったりする?」
俺はルルに尋ねると、先頭を歩いていたルルは一度立ち止まり俺の方を向いてきた。
「結構鋭いとこに目が行くんですね。私とお姉さまの関係についてはまたどこかでお話してあげますよ。呼び方は剣さんの好きなように呼んで頂ければ、と。」
「じゃあ、年下みたいだしルルちゃんでもいい?」
「年下と言っても私の1個下だから私と同い年のお前とそこまで年の差なくないか?」
俺の提案に対してすぐさまサタンからツッコミが飛んできた。
「別にいいだろ、年下だし。何と言うか背も小さいから、この呼び方でいいかなって思ったんだよ。」
俺がそう返すと、再び歩き始めたルルはフフッと笑い、立ち止まった。
「私は別に構いませんよ。でしたら、私は剣さん呼びでさせて頂きますね。」
そう言うと、どうやら着いたのか家から少しばかり離れた場所に俺達3人は立っていた。
家の周り自体、そこまで駅からかなり離れた場所であるためあまり建築物も少ないのだが、ここまで来ると街灯があまりないことに加えて時間も夕方を越えたのもあって本当に真っ暗である。
「さて、本題に入りましょうか。」
ルルはそう言うと、ポケットからタブレットを取り出した。そして、軽く何かを確認すると再びポケットの中にしまった。
「簡単に言いますと、剣さん。あなたにはお姉さまと私が本国に帰る際に一緒に来て欲しいのです。」
申し訳なさそうにルルが言ってきた。
本国と言うと、イギリスだろうか。今日は火曜日だから一応、一緒に行くとしたら日曜日。
いや、帰る日とか考えたら絶対に学校を休まないといけないじゃないか。
「あの、俺にも学校とかあるんですけど?」
俺は無茶な提案をしてきたルルに言った。すると、ルルはポケットから小型の六角形の形をした綺麗な石のようなモノを出してきた。
また、何かしらの魔道具だろうか。形的には転移魔術でサタンが不調で使えなくて嘆いていた際に持っていたモノと似ていた。
「これに自身の魔力を流し込むことで、魔力のある体とそうじゃない体に分かれることが出来ます。これを使ってもらえば、学校の方も休まなくて済みますし、基本はあなた自身の普段の日常に合わせた動きをするので特にご学友の方々にも不審に思われることもありませんよ。」
また随分と便利な道具だなと思った。まあ、そんな便利な道具があるなら大丈夫かと思ったが、俺の中には1つ思っていることがあった。
そんな考えてることを察したのか、サタンが割り込んできた。
「お前の考えてることなんて大体分かるぞ。面倒ごとに巻き込まれたくないから断ろうかなとか考えてるんだろ。」
どうだと言わんばかりに、サタンが無駄にデカい胸を張りながら言った。
いや、実際面倒だから断りたいなと思っているのだがこうも的確に言われるのはそれはそれで腹が立つものである。
「すみません、でもこれはもうウィザード家の方で決まったことなんですよ。別に、あちらでモルモットのような実験台にするわけでもないですし、とりあえずこちらでお姉さま達と一緒に行動を共にするための挨拶的な感じと考えてもらってください。」
ルルが申し訳ないと言わんばかりの勢いで俺に言ってきた。
この低姿勢、本当に同じ姉妹かと思う。逆に言えば姉がこういうタイプだから妹の方は大人しい子に育ったのだろうか。
そんなことを考えながら先程のルルの言葉を反芻してると気になることが1つあった。
「ん?お前、このまま日本に居続けるのか!?」
「そうだぞ。ただの一般人の高校生が急に魔力を体に纏って、よりもよって魔術書でもほとんど書かれてない闇属性の能力とか異変も甚だしいからな。4日間とルルは言っていたが恐らく、ルルとあと私の昔から付き従っている数名と共に日本でお前と行動を共にすることになった。」
突然、何も知らされていない情報を教えられて困惑してしまった。
「もうすでに嫌な予感しかしないのだが。」
俺はこれから起こるであろう面倒ごとを想像したら頭が痛くなってきた。
ここ数日、これまでの人生で味わったことのないような痛みを味わってきたのである。
このサタン・ウィザードとか名乗る女と一緒にいたら命がいくつあっても足りない気がする。
「今すぐお前を本国とやらに送り返して金輪際会いたくないんだが。」
「残念ながらこれは決定事項だ。それもイギリス政府からのな。お前に拒否権はない。それに…」
サタンはそう言うと、隣に立っていたルルの肩を掴むと、
「私達美人姉妹と一緒にいられるんだぞ。多少の面倒ごとくらい目を瞑れるだろ。」
サタンは自信満々に俺に言い放った。
俺はその言葉を聞くと、そういう所だぞとツッコミたい気持ちだった。
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