大天使、ガブリエル
天馬から放たれる無数の魔力を伴った弾丸に対して防御魔術を展開したサタンは先程と同じく、俺と共に壁に身を隠した状態であった。
ただ、サタンの方も防御一辺倒になるのは嫌なのか時節天馬が放っているような魔力の弾丸を相手に放ち応戦をしていた。
違いと言えば、天馬の弾丸は青白い光を放っているのに対し、サタンの方は黄色に近い白色の光を放っていることだろうか。
出来る限り、怪我をした右腕の痛みを我慢することによる消耗を防ぐためなのか、壁を背に座り込んだ状態であった。
痛みによるものなのかサタンの顔からは汗が流れ落ち、苦痛に耐えている表情をしていた。
「何でそこまでして助けるんだよ。相手の狙いは俺だけなんだから、そのまま逃げればよかったのに。」
うずくまって体育座りをしている俺がサタンに言うと、
「言っただろ、ただの私のエゴだ。それに、今回私に出された指令は対象者の保護も含まれている。別にお前に何か言われる必要もない。」
サタンはそう言うと、防御魔術で相手の攻撃を防いだ隙間を縫うようにして攻撃を仕掛けた。
よくもまあ、そんな器用なことが出来るものだなと思わず感心してしまった。
あながち、人類最強とか痛いことを言ってるのは間違いではないのかもしれない。
と、俺は非常事態なのに暢気なことを考えてしまっていた。
「と言うか、お前の同級生なんだろ?あんな物騒な奴が知り合いなのか?」
サタンが俺に尋ねてきた。
「いや、あんな物騒な知り合いは知らない。と言うか、お前の方こそあれ何なのか知らないのかよ。明らかにそういう系の人じゃん!」
「人かすら怪しいがな。こんな高性能な魔力妨害を引き起こせるような結界を貼るようなのは私の知ってる限りでは一人くらいなんだが。と言うより、明らかにあの女も本気を出してないんだよな。」
サタンは忌々しそうな顔をしながら、俺に言ってきた。
そして、再び俺の服の襟首を掴むと、
ドカンッ!!!
大きな音が背後からすると、隠れる為に利用していた石壁が真っ二つにされたていた。
サタンは俺を掴んだまま後ろに下がり、ギリギリの所で難を逃れた。
「で、お前の正体は何だ?さっきも剣に言ったが明らかに人間じゃないだろ?」
背後に下がりつつ、すぐ近くにあった壁を背に再び俺と共に隠れたサタンは白く黄色に輝く弾丸を放ちながら天馬に尋ねた。
天馬の方はその弾丸を鬱陶しそうに右手に持っていた斧で振り払うと、再び魔法陣を展開してサタンに向けて攻撃を仕掛けていた。
そして、ゆっくりと一歩ずつ俺達の隠れている壁の方に近づいてきた。
サタンの言っている通り、明らかに手を抜いている感じだ。余裕そうな表情からもそれは見て取れた。
「まあ、そこまでして抗ってくるってことはそっちも殺される覚悟はあるだろうし。最後に自分を殺す相手の名前くらい知らせておいた方がいいわね。」
天馬はそう言うと、足元に魔法陣を浮かび上がらせた。
そして、神々しい光と共に着ていた私服が別の衣服に変わっていった。
その衣服に俺は見覚えがあった。
何せ、似たような服を昨日見たばかりなのだから。
白い基調のワンピースのような服に背中から巨大な翼を生やした姿をした天馬の姿がそこにはあった。
「私の名前はガブリエル。大天使の一人。こちらにも色々と事情があってね。そこの男の命を取らないといけないのよ。」
普段、学校でよく見ていた天馬と思しき人物はそう自身の名を語った。
大天使?何か似たような単語を昨日も聞いた気がする。
俺は今、目の前で起きてる出来事に脳の処理が追い付いていない状態だった。
しかし、サタンの方はこういう状況にある程度慣れているのか特に驚いた表情すらも見せていなかった。
「まあ、こんな大層な結界を貼っているんだ。そりゃあ、まともな人間ではないと思ってはいたが…。まさか大天使様とはな。昨日倒した下級天使への敵討ちでもしに来たのか?」
サタンの問いかけにガブリエルと名乗るクラスメイトは呆れたような笑みを浮かべた。
「人間じゃあるまいし。私のような大天使にそんな感情あると思うの?ただの仕事よ、仕事。そこの男に宿っているモノが覚醒する前にちゃっちゃと殺さないといけないの。」
そう言うと、ゆっくり歩いていた足を止め、速度を上げて隠れていた壁に向かって急接近をしてきた。
「そりゃあ、また大層なお仕事で。だけど、悪いけどこの男は殺させないよ。」
サタンはそう言うと俺を掴み、再び後ろに飛び下がった。
飛び下がり際に数発、ガブリエルに打ち込むと近場にあった適当な大きさの壁に身を潜めた。
「逃げてばかりね。悪いけど、結界の出口を探してるんでしょうけど。そんな分かりやすいモノを作ってると思ってるの?」
ガブリエルは姿を見失ったのかサタンと俺の姿を探すために周りをキョロキョロとし出した。
「だよなー。そんな分かりやすく出口を作ってるわけないよな。と言うか、下手すると出口すら作ってない完全な空間型の結界の可能性もあるのか。」
サタンはぶつぶつと何かを小声で言っていた。
よく分からないが、おそらくこのまま逃げ続けても脱出できる場所がないということだけは俺でも理解出来た。
「もう、俺引き渡して逃げればいいんじゃないの?さっきも言ったけど、あいつはお前を殺すつもりはないんだし。」
俺はガブリエルに気づかれないように、小声で一緒に隠れているサタンに言った。
サタンはその言葉を聞くと、軽く俺を一瞥するとため息をついた。
「分かってないな、お前は。言っただろ、これは私のエゴだ。別にお前に言われなくても助ける気無くなったらお前を見捨ててサッサと逃げるつもりだ。」
嘘だろう、と俺はすぐに理解出来た。
明らかな強がりで言った言葉に俺は何も出来ないでいる自分の姿に情けなさすら感じた。
「まあ、だいぶ結界の障害は中和出来てはいるからイチかバチかで正面から堂々と戦うのもアリだな。問題は武器を出せないことだが。」
サタンはそう言うと左手を地面にかざすような動作を繰り返していた。
恐らく、昨日天使を倒した際に持っていた大剣を出そうとしているのだろうが魔力妨害とやらのせいで出せない状況なのだろう。
「なあ、サタン。俺が相手の気を惹くうちに後ろからバッサリ斬るとかは出来ないのか?」
俺は何も出来ない情けなさからサタンに提案をしてみた。
サタンはその言葉を鼻で笑うと、
「何も能力すらないお前が前に出て何が出来るんだ?まあ、精々ここで見ておけ。仮にも人類最強と言われている私だぞ。策の一つもないと思っているのか?」
少なくともその最強の姿を今日は一度も見ていないんだから、何を信頼したらいいんだとツッコミたいところだがグッと堪えることにした。
「そんな顔をするな。そこで隠れて待っていなよ。すぐに終わらせてくる。」
サタンはそう言うと立ち上がると、怪我をして流血している右腕を軽く振るような動作をした。
「最低限は動かせるな。全力が出せるならそもそも、自己治癒した上で戦えるからこんな状況にまずならないんだけどな。」
サタンは右手をグーパーグーパーしながら少しばかり悔しそうな独り言を呟いていた。
俺はそんな姿を見ながら何も出来ずにいる自分に改めて情けなさを感じていた。
サタンはそんな俺の表情を察したのか、俺の頭にポンと左手で軽く叩いてきた。
「だから、そんな顔をするなと言っているだろ。私は最強なんだ。最低限の能力が使える状況ならば時間稼ぎは出来る。その間に隙を見てこの結界の穴を突く。それでチェックメイトだ。」
サタンは俺を安心させるようにニヤリと笑った。
「俺、お前と同い年のはずなんだけど…。」
まるで年上なのかのように振舞わっているサタンにぼやいた。
サタンはその言葉を鼻で笑うと、俺達の姿を立ち止まって探しているガブリエルの前に立っていた。
昨日から思っていたが、瞬間移動でも使っているかのような素早さである。
俺は壁に身を隠しながら対峙している二人の様子を見ているだけしか出来なかった。
「あら?逃げることは諦めたの?」
勝ち誇った顔でガブリエルがサタンに言った。
サタンの方はと言えば、痛みからか脂汗を浮かべながらも表情を悟られないように余裕そうな顔を保とうとしていた。
「逃げる?勝つ算段があるからこうやって堂々とお前の前に来てやったんだぞ。」
相も変わらない強気な発言でサタンはガブリエルを挑発した。
ガブリエルの方はと言えば、この挑発が効いたのか額に少しばかり青筋が浮かび上がっていた。
「ホント、可愛げのない女ね。もう少し、可愛げがあれば命だけは助けてあげようと思ったのに。」
そう言い放つと、ガブリエルはサタンの目の前に突如現れると右手に持っていた斧を思いっきりサタンの胴体を真っ二つにしようと横に大きく振った。
しかし、サタンはその状況に一切微動だにしないで攻撃そのものを受け入れるような体制をしていた。
「私がどんな能力かも理解しないで突っ込むとか流石大天使様だな。舐め腐ってるな。」
サタンは不敵な笑みを浮かべると体に食い込み始めた斧が空を切るような音がなった。
その直後にサタンはガブリエルの背後を取ると、思いっきりサタンの胴体に向けて回し蹴りを仕掛けた。
ドンっ!!!
凄まじい音が鳴り響くと、ガブリエルは数m先の建物にめり込むような形で倒れていた。
しかし、すぐさま立ち上がると服についていた土ぼこりを振り落とすような動作をしていた。
「流石に今の状態で全力に近い蹴りだったんだがな。あまりダメージがないのを見るとへこむな。」
サタンは少しばかり残念そうに言った。
ガブリエルの方も何かを納得したのか、余裕そうな笑みを浮かべていた。
「魔力妨害をしておいて正解だったわ。なるほど、これが噂の光属性の能力ってやつね。天界でも文献にちょろっと残ってる程度だから初見だと対応しきれなかったわ。でも…。」
ガブリエルはそう言うと不敵な笑みを崩さずに斧をサタンの方に向けると、勝ち誇ったように言い放った。
「今のでほぼほぼ魔力は使い果たしたみたいね。恐らく、光属性の魔術を体全体に纏わせてるからこその無敵状態なんでしょうけどそんなことを常時してればいつかは魔力切れになる。それが普段起きないのは大天使レベルの魔力量を誇ってるからなんでしょうね。まあ、それもこちらの妨害で使えないみたいだから、完全に積みね。あなたの方が。」
サタンはお見通しと言った表情をしていた。
しかし、最後のあがきとばかりに俺の目でも分かるくらいの魔力と呼ばれるもののオーラを纏い始めた。
「さようなら、人類最強さん。相手が悪かったわね。」
ガブリエルがそう言うと、サタンに対して一気に距離を詰めた。
その瞬間、俺の足は迷わずサタンの目の前に向かっていた。
「…馬鹿ッ!!!」
サタンの叫び声が耳に響いた。
人生で二度目の死の危機を感じたその時だった、俺の体に禍々しいオーラを纏っているのを感じた。
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