クラスメイトからの襲撃
突然、聞き覚えのあるような声が聞こえた。
俺は声のする方向を振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。
「何だ、天馬じゃん。何でこんなとこにいるんだよ。お前って家こっち側じゃないだろ。」
天馬絵琉(てんまえる)。俺の通っている高校の同級生である。
肩で切り揃えた茶色が混じっているショートヘアの少女が俺とサタンをじっと睨んでいた。まるで親の仇かのように。
コイツに恨まれることなんてほとんどないどころか、学校で会っても軽く話す程度の関係である。
住んでいる家の方向も全く違うのに何でこんなとこにいるんだと、言った感じである。
そもそも、俺だけじゃなくて隣のサタンのことを知っているみたいな口ぶりだ。
「ふむ、剣の知り合いか。そして、どうやらこの女は私達のことを探しているみたいだが?」
やはり聞き間違いではなかったらしい。天馬は明らかに俺達2人に用事があるらしい。
いや、俺からしたらサタンと出会って以降だと家族以外と特に誰とも会っていないんだから、何で俺たち2人が一緒にいることを知っているのか不思議でならない。
俺がそんなことを思っていると、天馬は俺の方に手を挙げるとそのまま振りかぶってきた。
「剣!避けろ!」
サタンはそう言うと俺を横に押し、何やら防護壁のようなモノを出していた。
青白く、そして五角形が大量に敷き詰められたようなモノは創作物でよく見るような防御魔法とか言うモノなのだろうか。
「剣!逃げるぞ!」
サタンはそう言うと俺の手を引っ張って走り出した。恐らく、障壁か何かがあるような場所に逃げ込もうとしているのだろう。
だが、攻撃を仕掛けていた天馬の方はその動きをいち早く察知したのか自身の後ろに魔法陣のようなモノを数個広げると、
「逃がすと思ってる?」
そう言うと、魔法陣から弾丸のようなモノを数発こちらに打ち込んできた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!何だよ、あいつ!急に攻撃してきて!お前実はあいつと知り合いだったりするのか?」
「知り合いなわけがないだろ!むしろ、お前の方が知り合いのはずだろう。と言うか、あの女明らかに魔力の量が人間の持っている量じゃない。」
ぜえぜえと息を切らしてサタンが俺に言い返してきた。サタンが展開した魔法陣で攻撃を防いで何とか建物の裏側に逃げ込むことは成功出来た。
しかし、どういうことだろうか。気づいたら周りが薄暗くなっているのである。
本来ならば、真昼間で今日は太陽も出て明るい時間帯だというのに。
「あの女。ただの魔術師じゃないな。いや、正確に言えば人間ですらないのかもしれないが。昨日倒した下級天使の比じゃないレベルだ。」
苦しそうな表情でサタンがブツブツと呟いている。
どうしてこんな苦しそうな表情をしているのか、と不安げにサタンの体を見ると、
「おい!お前、その腕!」
俺は思わず、サタンの右腕を手で触った。触った手にはべっとりと血が付いており、痛々しそうに右腕からは血が流れていた。
「先程の防御魔法を展開した際に貼り切れなかった場所をかすってだな。大丈夫だ、ただのかすり傷だ。どうってことはない。」
明らかな強がりをサタンは言った。
俺は首を横に振ると、
「かすり傷、なんてレベルの怪我じゃないだろ。どうする?今から頭下げて許してもらおうぜ。一応、俺の知り合いだし。」
俺の提案にサタンは怪我をした右腕を抱えたまま鼻で笑った。
「そもそも奴の狙いはお前だぞ。気づいていないかもしれないが。明らかに初手の攻撃はお前個人を狙っていた。恐らく、昨日の天使と関連がある奴だろうな。普段の状態の私ならお前と逃げながら撤退戦を仕掛けるのも出来たんだがな…。」
サタンはそう言うと俺の方を一瞥して呆れたような笑みを浮かべた。
「どうやら、何かしらの魔術的な妨害を受けているせいか本来の力を発揮できない状態でな。この薄暗い空間と関係がありそうなんだよな。昨日の魔道具の障害もそうだが、明らかに人為的何かを感じざるを得ない。」
サタンは諦めを感じるような口調で俺に説明してきた。
「いやいや、お前最強なんだろ!昨日、俺が襲われてる時にチラッと言ってたけど。あれを何とか出来ないのかよ。」
俺は昨日会ったばかりの少女が初めてする弱々しい言葉に情けない声を上げた。
本当ならここで俺が何とかするとかカッコいいこと言うのが常識なんだろうが、残念ながら自分は正義のヒーローでも何でもない。ただのその辺の一般的な高校生なのだ。
「普段の私ならな。さっきも言ったがどうにもこうにも力を抑えられてる状態なんだ。だがまあ、ボディーガードすると言った手前だ。約束は守ってやる。逃げろ。」
サタンは小声で俺にそう言うと徐々に近づいてきている天馬をチラ見して、俺に反対側の方向を目配せしてきた。
「ほんの一瞬だけ、あの女の意識をこちらに向ける。その間に死ぬ気で走れ。後ろなんて振り向くな。なあに、どうせ昨日会ったばかりの人間同士なんだ。そいつがどうなろうが知ったこっちゃないんだし、私は私の満足がいったらそのままとんずらするだけだ。」
サタンはそう言うとニヤリと笑ってきた。
とんずらする気なんて一切ないくせに。俺はサタンの言葉からそう感じた。
「馬鹿だろ、お前。昨日、今日会ったばかりの人間を命かけて守るとか正気かよ。」
俺は思わず、サタンに本音を言ってしまった。
サタンは薄い笑みを浮かべたままの状態で天馬が近づいてくるギリギリの状態を見極めながら、俺の言葉に返答してきた。
「昨日、今日会ったばかりだからだろ。よく知らない何の力もない人間見捨てて、自分だけ逃げるほど人でなしではないのでね。私は。」
そう言うと、サタンは怪我をしていない左腕を白く光らせると腕から白い剣のようなモノを作り出し、天馬へ襲い掛かった。
「逃げろ!隙は一瞬だけ作ってやる!」
サタンはそう言うと、襲い掛かった天馬の目を潰そうとしたのか靴で地面をけり上げて砂ぼこりをあげた。
「じゃあな!またどこかで会う時があれば会おう!」
サタンはそう言うと天馬にタックルを仕掛けた。
俺はその姿を一切見ないで声だけが耳の中に残りながら後ろに向かって全力で走り出した。
「力をほとんど抑制している状態でいくらあなたが人類最強と名高いサタン・ウィザードだとして私に勝てると?」
天馬の声が聞こえてきた。そして、凄まじい光が背後から上がったのを感じた。
恐らく、ここで引き戻って天馬の前に立てばあの少女は生き延びる時間が少しだけ増えるだろう。
ただ、それを自分がすることに意味があるのか?
昨日会ったばかりで名前くらいしかまともに知らないような少女の為にそこまでする義理が自分にあるのか?
俺は自分の心に問いかけた。
する必要なんてないはずなんだ。面倒ごとに巻き込まれるだけ、あの少女が犠牲になってくれれば自分はもしかしたら生き残れるかもしれないのだ。
これまで通りでいいだろう。面倒なことから出来る限り逃げて楽に生きて行けばいい。
そんな自問自答をし続けながら走っていると、自分の肩を一筋の光が突き刺してきた。
その瞬間、余りにもの痛さから足がよろめき地面に転がって、うずくまってしまった。
「随分と手間取らせてくれたわね。まあ、おかげさまで部下一人減らされるとか言う事態にまでなったんだし。」
目の前には天馬が立っていた。
俺は後ろを振り返った。そこには血を流していたサタンが倒れていた。
「大丈夫よ、あの女は命に別状のある状態じゃない。ちょっと、軽い気絶状態にしてあるだけ。別にあの女まで殺す必要はないしね。私、意味のない殺しは嫌いなの。」
天馬はそう言うと、右手を天にかざした。すると、右手には大きな斧が現れた。
「すぐに楽にしてあげるわ。一応、クラスメイトで普通に話してるような同級生を手にかけるのは心に来るけど、しょうがないのよね。あなたに宿っているモノが顕現される前に仕留めて置かなきゃいけないの。」
天馬は何やら意味の分からないことを言うと、斧を頭上に振りかぶった。
「意味わかんねえよ。宿っているモノ?なにそれ?俺が何かしたのかよ!そもそもお前は誰なんだよ!」
俺は恐怖のあまり、普段なら出さないような声で叫んだ。天馬はそんな俺の声を聞くと憐れむかのようにため息を一つこぼした。
「そうね、理由も聞かずに殺されるのはあなたにとっても最悪だろうし一応教えておいてあげるわ。」
天馬はそう言うと振りかぶっていた斧を地面に一度置いた。
「あんたに宿ってるモノ、それはね…。」
天馬が言葉を発しようとした瞬間だった。突如、背後からレーザーのようなものが飛んできたと思うと、俺の顔をかすめ、天馬へと向かって行った。
天馬はそれを自身の斧で鬱陶しそうに振り払うと、
「呆れた。まだ意識あるなんて。別にそこで寝ていてくれれば命まで取らないんだからいいでしょ。そもそも私の結界で能力をほぼほぼ抑え込まれてる状態なんだし、勝てる見込みなんてないわよ。」
呆れた口調で天馬が言った先には不敵な笑みを浮かべたサタンが立っていた。
正確には立つのもやっとの状態ではあったが、使い物にならない右腕をだらんと伸ばした状態でフラフラしながら天馬を睨みつけていた。
「諦めの悪さも人類最強なんでね。言ったでしょ、目覚めが悪くなるの。」
サタンの声が後ろから響くと、その瞬間サタンが俺の後ろに立っていた。
「逃げるぞ。だいぶ、この結界の魔力妨害にも慣れてきた。」
そう言うと俺の服の襟を掴んで天馬から放たれた弾丸のようなモノを華麗に避けながら空へと飛んだ。
逃走劇第2弾の始まりである。
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