最強の魔術師との居候生活
朝、いつも通りの時間より早い時間に目が覚めてしまった。
今日は日曜日である。いつもなら部活の朝練もないから親が起こしに来るまでゆっくり寝ようと考えて、二度寝しようと布団の中に再び潜り込もうとするところであった。
しかし、今日はそんなことを考えるような状態ではなかった。
「やっぱり現実だよな。これ。」
俺はベットの上から即席で床に敷かれた布団で寝ている一人の少女の姿を見ると呟いた。
規則正しく寝息を立てている姿に、何で初めて来た異国の地のそれも見知らない人間の家でこんなに堂々と熟睡出来るのかと思った。
実はこの少女はトンデモない大物なのかもしれないとも考えた。
そう、他でもない昨日助けてくれたサタン・ウィザードと名乗る少女に対してである。
俺が腕を組みながら状況の整理をしようとサタンを眺めていると、サタンの方も眠気が覚めたのか目を開けていた。
「おー、おはよう。随分と早起きだな。」
「いや、もう8時だぞ。平日ならとっくの昔に起きて登校してる時間だし、朝練の時間なら遅刻もいいとこだよ。」
俺がサタンにそう言うと、サタンは机の上で充電していた携帯を取り、時間を確認した。
日本とイギリスだと持っているスマートフォンの種類とかも違うのかなとかどうでもいい事を考えていると、サタンは首を横に数回折り、肩を軽く叩いていた。
「そうか、今日は日曜日だったな。普段ならメイドが起こしに来るからそう言うのをあまり気にしていなかった。」
「メイドが起こしに来るとか、本当に良家のお嬢さんなんだな。」
「昨日からそう言ってるだろ、よいしょっと。」
俺のツッコミにサタンは返すと、軽やかに床に敷いていた布団から飛び上がった。
それと同時にたわわな胸が大きく弾んだ。何と言うか目のやりどころに困るので寝るのなら母親の部屋とか空いている部屋とかで寝ていて欲しい。
「さて、家の方には昨日、連絡は済ませたから数日後にはチャーター機が日本に来る算段にはなっているんだが…。」
サタンはそう言うと俺の方を見てきた。
どうやら、昨日の時点で実家の方には魔道具の不調を連絡していたらしく迎えが直接日本の方に来る算段となっているらしい。
昨日、あの後流石に年頃の娘が金もなしに野宿とか人の心がないのか言い始め、俺の家に押し掛けてきたのである。
母親とすでに帰っていた弟にはお涙頂戴展開を披露し、数日だけ泊まることが許可された。
後で帰ってきた父親の方も母親には頭が上がらないから特に文句もなかったらしい。
いや、知らない少女を家に簡単に泊めるなと言いたいとこだが、流石に命を救われた手前数日くらい恩返しのつもりで俺も了承することにした。
そして、何故か泊まる部屋を一応そこで知り合ったとか適当な理由を親の方に言って俺の部屋に物置にしまっていた布団を持ってきて寝ていたということである。
サタンの考えではもしかしたらまた襲われる可能性もあるから帰るまでの間、ボディーガードをしてやると言っていたが、これ以上面倒ごとに巻き込むのはやめて欲しい。
「で、特に私はやることがない。ということで、剣が行く場所について行ってあげようと思う!」
両手を腰に当てたサタンは自信満々に俺に言ってきた。
正直、俺の今日の予定と言ったら昨日壊れた自転車を近くの自転車屋に持って行って直してもらうことくらいしかないのだが、と思った。
「予定と言っても自転車直しに行くだけだぞ。別に一人で行けるんだが。」
俺がサタンに言うと、サタンは首を横に傾げ、何を言ってるんだといった表情をした。
「貴様のボディーガードを帰るまでの数日間してやるのだぞ。自転車の修理に行く途中で襲われたりすると大変だろ。一緒に行ってやろう。」
「出来たら、そんな面倒なことに巻き込まれたくないんだが。何かお前いることでフラグ建って昨日みたいなことにならないよな?」
俺は自信満々な表情をしているサタンに問いかけた。
「そんな私を疫病神みたいに言うのはやめろ。せっかく、私のような美少女を歩けるんだぞ。もっとそのことを喜ぶと良い。」
天上天下唯我独尊、と言う言葉があるがこういう人間のことを言うのではないのかと思わずにはいられない。
俺はそんなことを思ってサタンの顔を見てると一つの疑問が思い浮かんだ。
「なあ、お前イギリス人なんだよな。何でそんな日本語上手いんだ?」
ちょくちょく、おかしな使い方はあれど喋っている言葉自体はその辺の日本人と大差ないレベルの語学力である。
顔が黒髪であることを除けば典型的な欧米人的な顔立ちであるため、気づくが声だけなら日本人と勘違いしても仕方ないレベルである。
「ウィザード家で幼少期からいくつかの言語は学んでいたからな。母国以外だとイタリア語も喋れるぞ。日本語は単純に日本のアニメとかに興味あって個人的に覚えた。私の妹だと、賢すぎて10ヵ国語くらい話せたりするな。」
そんなトンデモエピソードをサタンが披露してきた。
そう言えば、4人兄妹の3番目とか言ってたな、こいつ。と言うことは一番下に妹がいるのか。
俺がそんなことを思っていると、サタンは棚に綺麗に並べられている漫画やライトノベルに興味を持ち始めたのか眺め始めた。
「おっ、これとか最近アニメでやってたやつだな。あっ、これは以前見たことある作品だ!」
サタンは棚に並べられている数冊を手に取りパラパラとめくり始めた。
アニメ好きとは言っていたが、そこから日本語学ぼうとは中々に凄いなと思った。
自分も海外サッカーとかメジャーリーグとか好きだが、だからと言って外国語を本気で勉強しようと思わない。あくまで、学校で勉強する程度だよなと興味津々に漫画をめくるサタンを眺めていた。
「漫画を眺めるのもいいが、そろそろ朝ごはんとか用意される時間だろうから着替えないか?そして、着替えたいから出来たら母親の部屋に行って欲しいんだが。」
俺がそう言うと、サタンはニヤニヤと笑ってきた。
「そうか、そうだよな。剣も年頃の男子だったな。私のような美女がいたら大変なことになっちゃうもんな。しょうがないな。」
事あるごとに自身の容姿を自慢してくる尊大な少女に対して俺は何か言い返してやろうと思ったが、それよりも一つ気になったことがあった。
「そう言えば、お前って今何歳なんだ?ちなみに俺は16歳。」
俺がそう言うと、ドアノブに手を掛け、部屋から出ようとしたサタンは首を傾げ頬に指を当てた。
「私は16歳だが。ちなみに高校1年生だな。」
「同級生じゃねえか!なんで年上みたいな雰囲気出してるんだよ!ふざけんな!」
俺は思わずサタンにツッコんだ。
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前輪が完全にパンクしてペコペコと悲しげの音を出している自転車を引きずりながら、俺とサタンは近所の自転車屋へと歩いていた。
「何と言うか、高層ビルとかそう言うのとか全然ないんだな。私が想定していた日本と言うのはもっと、高いビルがたくさんあって辺り一面にアニメのキャラの看板とか電化製品の放送が聞こえるのを想像していたのだがな。」
サタンが物珍しそうに周りの風景を忙しそうに眺めていた。
「どんな想像をしているのか知らないけど、そんな場所は東京とかの大都会とかにしかないぞ。言っちゃ悪いが、ここは地方の都市だからそんな賑やかな場所はそうそうないよ。」
俺は、異国の地からはるばるやってきた欧米人に対して夢を打ち砕くことを言った。
その言葉に軽い絶望をしたのか、サタンは少しながらガックリと言った表情を見せていた。
「何てことだ。今回の調査終わったら一緒に来る予定だった奴と一緒にアニメのグッズとか買ってそれを妹の土産にしようと思っていたのに…。何でもっと都会に住んでいないのだ!今からでも遅くないから両親に頼んで引っ越してもらえ!」
サタンはそんな無茶苦茶なことを言い出した。
「何でだよ!どうせ、あと数日で国に帰るんだろ。だったら、その帰る前に来てくれる家の人間と一緒に秋葉原にでも寄って土産でも何でも買いにけばいい話だろ。」
俺は無理難題を言い始めた傲慢女に反論した。
すると、サタンはぶぅっと言った感じに頬を丸くして不機嫌そうにプイっと横を向いた。
俺はそんな傲慢女を無視して、目的地の自転車屋の前まで来た。
「さてと、あとはこの自転車を渡して1時間くらいで直してもらって終わりだな。一度家まで帰るの面倒だし、中で待っているか。」
俺はサタンにそう言うと、サタンは俺の着ていた服の袖をクイクイと引っ張ってきた。
そして俺がサタンの方を振り返ると、サタンは通ってきた道の途中にあった本屋を指さしてきた。
「1時間近く時間があるのならあそこの本屋に寄ろう。漫画とか少し見てみたい。金がないから買えないが。」
「金なら自転車の修理代金しかないから俺も買うことは出来ないぞ。眺めるだけでいいってなら一緒に本屋までついて行ってあげるけど。」
俺がそう言うと、サタンは嬉しそうに顔を上下に振って、喜びの表情を浮かべていた。
こういうところは本当に年頃の少女みたいで可愛らしいところがあるな、と思った。
「じゃあ、それで時間潰しするか。ちょっと待ってろ、今修理してもらえるように店員さんに話してくるから。」
俺はそう言うと、自転車の中に入ってすぐ近くにいた店員に自転車の方を見てもらえるように呼び止めた。
店員に自転車を渡し、軽い説明を受けた俺は外に待っていたサタンに近づいた。
本当に日本の街並みが新鮮なのだろうか、歩いている途中からずっと辺り一面をグルグルと眺めるをやめていない。
「そんな物珍しいか?どこにでもあるような日本の街並みだぞ。写真とかでも見たことあるだろ。別に古風な伝統的な街並みでもないんだし、ここなんて。」
俺は若干呆れ気味に近くの本屋に向かいながら歩いているサタンに言った。
サタンはその言葉を聞くと、胸に手を当てふふんと言った感じで、
「先ほども言っただろう。日本自体に行ってみたかったのでな。まあ、確かにこれと言ってめぼしい何かがある所じゃないが、異国の地と言うだけで物珍しさがあるのだよ。」
そんなものかな、と俺が思っていると目的の本屋の前までついた。
そして、自動ドアの前に二人で立って一緒に入ろうとしたその時だった。
「はぁ、探したわ。2人でお散歩なんて随分と暢気なものね。」
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