第21話 宴の始まり

 食堂ダイニングルームに着くと、ドレスアップした2人の美女が、既に待っていた。1人は長い黒髪を編み込んで後ろでまとめ、白いブラウスにコルセット、そして丈の長い赤のプリーツスカートの装いのエルサ


 「へぇ、こういうとき用の服も用意してるのは、さすが商人の娘って訳だ。綺麗だなエル」


 「ありがとうレオ。“淑女レディの嗜み”ってやつよ。どう?髪もここの髪結師がやってくれたのよ」


 そしてもう1人は、顔を真っ赤にして下を向いてモジモジしている銀髪の美女。髪に花をあしらった金細工の髪飾りを差し、胸元を強調した青いドレスに、フリルのついた長手袋の装いの“貴婦人”ヒルダだ


 「......可憐だ」


 「......う、うるさい!ジロジロ見るな!このもっこり男!......斯様かような装いは、そ、その慣れておらぬのだ......」


 「おお、皆準備ができておるようだな。ヒルダ、似合っておるぞ」


 目尻と頬を緩ませた顔で食堂に現れたのは、この館の主。オーザム卿マルコ・アトキンソンだ。彼の合図で、召使いたちが、前菜アペタイザと乾杯のための葡萄酒ワインを用意し始める


 「旦那様、どうぞこちらへ」


 執事のアーサーは、なぜかレオではなく、アルを上座に座るように促した


 「もし、お間違いでは?私は近衛です。主人を差し置いて、上座に座る訳にはいきません」


 「いえ、これで良いのです。ささ、アルフレッド様どうぞこちらに」


 案内されたのは、上座の左側の席。隣にはヒルダが座った。しかし、ヒルダの様子が変だ。頬を赤く染めて、アルをチラチラと見てくる。『さっき投げたとき、打ちどころでも悪かったのだろうか?』と、アルが思っているうちに全員が席に座り、オーザム卿が口を開いた


 「さあ、皆揃ったかな?それではこれより、我が娘、ヒルダ・アトキンソンの婚約の宴を始める」


 横に座っているヒルダを揶揄うように、アルが話しかける


 「へぇ〜、お前婚約するのか!おめでとう。で相手は?まだ来てないようだが......」


 「.......ばか!私の婚約相手はお前だ!アルフレッド・エンデ!」


 「へぇ〜俺......って俺!?俺、お前と婚約しちゃうのぉ!?」


 レオとエルも、やはり聞いてなかったので一様に驚いた。オーザム卿はニコリと笑って、話を続けた

 

 「このアトキンソン家の先祖は、今から300年前、帝国ミクラスの建国者、皇帝ダン一世の騎士として主人を支えた由緒ある家。『強き血を絶やすな』と言われたご先祖の言葉を守り、今日こんにちまで続いてきた。だが私の子はヒルダだけ。だから後継に婿を取らねばならなんだが、娘には剣の才能があった。何度も“剣の名家”とお見合いをしたが、ことごとくを打ち負かしては破談し続けたのだ」


 「で、現れたのがコイツだったって訳ですね、叔父上」


 「ああ。一度話には“斯様な者がいる”と聞いていたのだが......レオ、お前の優秀なしもべ、いや幼馴染だったとはなぁ......おい、お前はどこの家のものだ?どこで剣を?」


 アルはオーザム卿の目をまっすぐに見て、はっきりと答えた


 「私は、ミアータの漁師アルベルト・エンデの次男です。剣は独学。強いて言えば我が主人、友であるレオナルド・ヴァンケル、そして兵学校の教官殿に教わりました」


 「ほう?“平民の子”という訳だな?」


 「仰る通りです。ですから家柄的にもお嬢さんとは不釣り合いかと......」


 するとオーザム卿はパッと明るい表情になり、アルの言葉を遮った


 「何を心配しておる。其方は平民の出であろうとも、剣の腕は確かな、強き良き男ではないか。ヒルダをめとれば、其方は儂の息子だ。そのうちオーザム卿の名もくれてやるわい!」


 ちらりとヒルダの方をみると、目があった。ヒルダは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いてしまった


 「......どうやら、これは本気マジの様だぜ」


 アルはぼそりと、呟いた

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