第19話 決着

 「お父様、お待ちください!この者との勝負は、まだ決しておりませぬ!」


 父であるオーザム卿、マルコ・アトキンソンの言葉を遮ったのは、娘で、この屋敷の護衛長。帝国騎士ヒルダ・アトキンソンだった

 

 「おい、アルフレッド・エンデ!こんな馬鹿げた決着でなく、剣で決着ケリをつけよう!さっさと剣を抜け」


 さっき切り分けた“ウサちゃんリンゴ”を能天気に食べながら、アルは素っ気ない返事を返す


 「やめときなよ。年頃の娘が、万が一顔にでも傷でも負ったら大変だぜ?ケガしないうちに、お父様言うことを聞いたらどうなの?あ、これ食べる?」


 「いらん!それに、女の幸せなど......とうに捨てた!覚悟!」


 そういうと無防備なアルに、ヒルダは抜剣し、縦方向に切り掛かった。だが、あと一歩届かない距離で、ひらりと躱された。ヒルダは体勢を整えると、右足を前にして半身になり、細剣レイピアを構える。そして剣先をゆっくり右に小さく回し、アルの周りを左回りに歩きながら様子を伺う


 細剣は中距離からの刺突に特化した剣だ。その細長い刀身には、刃がついているので斬撃は可能だが、耐久性に欠ける。アルの腰に下げてるような、長剣ロングソードとまともに打ちあおうものなら、受けた刀身ごとその身体も、真っ二つになってしまうだろう


 2分ほど経っても、アルはまだ剣を抜かない。ヒルダもまだ様子を伺っている。そのもどかしさに、次第に周りがはやしたてる


 「ヒルダ、何をしておるのだ!早く突きにいけ!」


 「アル、お願い!剣を抜いて!このままじゃ殺されてしまうわ!」


 周りの雰囲気に当てられ、先に動いたのはヒルダだった。目にも止まらぬ速さで、突きや斬撃を繰り出す


 「よっ、ほっ!あらァ、うわぁ!うへ〜、おっとっと」


 剣を抜くことなく、間抜けな声をあげながらひらり、ひらりと躱していく


 「ちょこまかと小癪こしゃくな!ハァ......ハァ......何故だ!何故当たらん!」

 

 次第に心が折れそうになるヒルダだったが、攻撃の手を緩めて少し距離を取って上がった息を整える。そして、剣を構えたままピタリと止まる。アルは警戒し、右手のひら前に、左手は腰に添えるようにして腰を落として半身に構える


 先に動いたのは、またしてもヒルダだった


 「もらったぁ!......へ?......ぐはッ!」


 ヒルダは一瞬にして間合いを詰め、アルの喉元に剣を突きつけた。その筈だった。だが今、息ができないほどの激しい衝撃を背中に受け、少しぼんやりした視界に映るのは、応接間の天井と、さっきまで右手に持っていた愛刀が自身の喉元に突きつけられている光景だった


 一瞬でついた決着に、目をひん剥いたまま固まってしまっているオーザム卿は、ハッと我にかえり、勝者の宣言をする


 「しょ、勝負あり!勝者アルフレッド・エンデ!う、うむ、見事であった。アーサー、この者はアンフィニ卿のご友人である。丁重にもてなすように!」


 その言葉を聞いて、アルはヒルダの喉元から剣先を外し、彼女の鎖骨から少し下の辺りに置いた膝をどかして立ち上がり、手を差し伸べる


 「大丈夫か?」


 「げほ、ゴホ!......あ、ああなんとか」


 アルの手を取り、身体を起こすヒルダ。軽い脳震盪を起こしているのか、まだ視点が定まっていない様子だ。しばらくしてから、ゆっくりと立ちあがろうとして、よろけてしまう


 「おっと、無理するなよ」

 

 ヒルダの身体を支え、肩を貸すアル。すると慣れていないのか、ヒルダは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。アルは近くにいた護衛兵たちに、ヒルダを引き渡した


 「では、お客人よ、夕飯の支度ができるまでくつろいでいるが良い」


 3人は、そう言われてそれぞれの客間に案内された

 


 

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幼馴染のもっこり兵士は世界を救うのか!?〜転生者と女商人を添えて〜 稲田亀吉 @Turtle_Inada

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