第18話 パフォーマンス
気まずい再会の空気を打ち破るように、この館の主、オーザム卿が口を開く
「ヒルダ、知り合いかね?」
「はい。お父様。この者は兵学校時代、私が唯一剣で、敵わなかった相手でございます」
「なんと!我が家の剣術指南、剣聖ダイムラーのお墨付きだったお前が!......だが、それは過去の話であろう?今のお前の、帝国騎士たる実力を、見せてみよ!」
そういうとオーザム卿はヒルダに向かって、テーブルの上の、皿と
「貴様など、こうだ!」
そして突き刺した果実を抜いて、ポーンと真上に放り投げた
「はあっ!」
果実は目に見えない速度で切り刻まれ、細切れになって、彼女の持つ皿の上に落ちてきた。その剣さばきに思わず拍手をしてしまう、エルとレオ
「ふっ、お前もこの果実の様に細切れになるがいい」
どうだと言わんばかりの顔をして、アルを挑発するが、アルは特段驚いた様子もない
「へぇ〜、やるもんだね。でも、そんな“大道芸”なら、俺の方がもっとすごいのできちゃうもんね。ちょっと、細剣貸して?」
無防備な様子で、まるで玩具でも借りる子どもの様な感じで、ヒルダに近づく
「はい......って、誰が貸すものか!馬鹿者!」
呆気に取られて、接近を許してしまったヒルダは、剣を横に薙ぐがひらりと躱される
「私は、お前を殺そうとしているのだぞ!」
「ええ〜俺を“殺す”つもりなのォ〜ッ!美人がそんな凄んじゃあ、ダメだって。可愛らしいお顔が台無しだぜ」
「なっ......かっ、可愛いだと!?この私が......!?むぅ、仕方ない。使うがいい。ただ、その剣が私の元に帰ってきた時、お前の命はない」
そう言ってヒルダは愛刀を鞘にしまって渡す
「ありがとう、ちゃんと返すから♡」
アルは受けとると、ヒルダから少し離れた場所で、細剣を抜き、感覚を掴むように振り回す
「軽い......なるほど、こんな感じなのね。おーいレオ......じゃなかった、ご主人様。先ほどのオーザム卿のように、皿と果実をこちらへ投げていただきたい」
「よしわかった。アル、じゃあ行くぞ、それ!」
レオが皿と果実を投げると、同じように皿を片手でキャッチし、果実を串刺にした
「さあ、お立ち合い!ここからが見どころだよ〜」
大見得を張って、そこにいる全ての視線を惹きつけると、剣から抜いた果実を、真上に放り投げる。ブンブンと剣を振り回すが、果実は切れることなく、皿の上に落ちてきた
「ハハハ!なんだ、ただのハッタリじゃないか!」
ヒルダがそう笑った瞬間、皿の上の果実は、芯を残して綺麗に8つに割れ、ウサギに見立てた形で美味しそうに剥かれていた
「ほら、ウサちゃんリンゴだ!お嬢さん、お一ついかが?」
ヒルダ含め周りの人間は、何が起こったのかわからず、ただ呆然と、皿の上の“ウサちゃんリンゴ”を凝視している
「......ってあれ?思ったより皆の反応が薄い.......おかしいなぁ、兵舎でやったら、バカ受けだった“鉄板ネタ”だったのになぁ」
皆が呆気に取られている中、アルは細剣の果汁を振り払い、鞘に納めると、皿と細剣を持ってヒルダの元へ、ノコノコ戻ってきて愛刀を素直に返した。とりあえず受け取ったものの、“心ここにあらず”の状態のヒルダ
「オ、オホン......アンフィニ卿。お前の兵士はどうやら剣が達者なようだ。この勝負、アルフ......」
オーザム卿の言葉を遮るように、女騎士が吼えた
「納得行くかぁあああ!」
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