第17話 女騎士 ヒルダ・アトキンソン

 アギラの街は、帝国ミクラスの国境の目鼻先にある、マズーダ領主国の最果ての街だ


 「若様、ようやくアゴダのオーザム卿の屋敷に着きますぞ」


 ガタゴト揺れる馬車は、夜市の明かりが灯り始めたメインストリートを抜け、大きな屋敷の前に止まった。警備兵は、馬車に描かれた紋章と、御者が見せた証書を確認すると門を開けた


 そして馬車が止まると、3人はこの屋敷の従者に連れられてこの家の主、オーザム卿マルコ・アトキンソンの待つ応接間に通された


 「お久しぶりです、叔父上。少し到着が遅れてしまいました」


 少し頭頂部が寂しいが、口元や顎に豊かな髭を蓄えた館の主は、にこやかに応じた


 「おお、レオ!いや......今は、アンフィニ卿とお呼びしよう。随分と立派になったなぁ。話は聞いておる。皇帝陛下に拝謁はいえつを命ぜられたそうだな!......おや?そこのお嬢さんは、お前の恋人フィアンセかい?」


 「いえ、彼女はロベール家の令嬢で、名はエルサ。優秀なので、今は秘書官として登用しています」


 エルは軽く会釈をする


 「ほう、あの大商ロベール家の......そうか。お嬢さん、長旅で疲れたろう。ゆっくりするが良い。ところでレオ、いつミクラスに行くのか?」


 「明朝にはここを立つ予定です」


 「ほほ、そうか。なんのお構いもできないが、今夕飯の支度するから、それまでくつろいでいるといい。アーサー!お客様2人を客間に。そこの兵士は、離れの使用人の部屋に......」


 「叔父上、その兵士は私専属の近衛で、幼馴染の友人でもあります。彼は、私の寝室を見張らせておきたいのですが......」


 するとオーザム卿の目つきが変わった


 「ならぬ!護衛兵士が、貴族たる主人と同じ部屋で眠るなど、言語道断!アンフィニ卿。心配であれば、我が屋敷の兵を扉の前と窓の外に配置しよう。それとも、我が屋敷の兵が信頼できぬと言うか?」


 「いえ......叔父上、そう言うわけでは......」


 「うむ、よかろう。ならばこの屋敷で、1番剣の腕の立つものとその護衛兵を決闘させ、勝ったらお前の言う通りにしよう。ヒルダ、ヒルダ!」


 「お呼びでしょうか?お父様。あらレオ。久しぶりね」


 ヒルダと呼ばれた女騎士が、奥から颯爽と現れた。肩につかないほどの長さの銀髪に、切長の目と父親譲りの蒼い瞳。騎士らしいジャケットに、くるぶし丈の白いズボンと編み上げ靴を履いている


 「へぇー、レオの従姉妹ってわけか。すっごい美人......しかも、なかなかのものをお持ちで.....」


 思わずアルの口から、本音が漏れた


 「おい、そこのいやらしい目付きの兵士キサマ!わたしは、帝国騎士ヒルダ・アトキンソン!この父上の屋敷で、護衛長をしている!名をなのれ!勝負しろ!」


 勇ましい口上ののち、格上の騎士から名乗れと言われたので、アルはそれにしたがって返事を返す


 「アルフレッド・エンデ一等兵だ。今はアンフィニ卿レオナルド・ヴァンケルの護衛を勤めている」


 その名を聞いた途端、ヒルダが怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にして、ワナワナと震え出した


 「エンデ.......?ハッ!思い出したぞ!あの時はよくも、よくも私を辱めてッ......ツ!フフフ......ここで会ったが100年目。覚悟しろ!この“変態もっこり男”!」


 それを聞いて、アルも彼女のことを思い出し、あんぐりと口を開けた


 「ゑ!ま、まさか!貴女おまえはあの、騎士科の“剣術狂いのヤバいストーカー女”!レオの従姉妹だったのぉ〜!?」


 両者のやりとりを、他の者はポカンと眺めていた

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