第15話 『転生者』の“チカラ”と“知恵”
3人が駆けつけた時、御者は既に虫の息だった
「ハァ......ハァ......わ......わかさ......ま。ハァ......ご、ご無事で......なにより」
「おい!......しっかりしろ!おい!今、治してやるから待ってろ!」
レオが手をかざした瞬間に、御者の胸の傷が完全に塞がり、突き刺さったナイフが抜けた。だが、
「なぜだ!俺の付与能力で治ったはずだろ!なんで!どうして!おい!しっかりしろ!」
レオはすっかり混乱している
「レオ!......その様子じゃ、御者の爺さんはもう助からない......辛いかもしれないけど......受け入れるしか......」
これまで『人の死に方の見本市』のような戦場で、仲間や敵の死を見送ってきたアルは、御者の死を悟っていた。そしてその通り、ため息のような深い一息ののち、御者は息を引き取った
「......おい、嘘だろ......!俺のせいで、俺のせいで人が!あああッ......!クソ!クソ!」
レオは、泣き崩れたかとおもうと、御者の胸の辺りに両手を重ねて置き、一定のリズムで強く圧迫しはじめた。その信じ難い行動に、エルは絶句し、アルは怒鳴りつけた
「レオ!何をしている!止めろ!己の不甲斐なさを言い訳に、遺体を辱めるなんて......!お前がそんなやつだったなんて!見損なったぞ!」
だがレオも引き下がらず、涙で顔をぐちゃぐちゃにして御者の胸部を一定のリズムで圧迫しながら、強く言い返す
「アル!違うんだ!爺さんを助けるんだよぉ!まだ助かるかもしれないんだよ!俺の!サカグチの記憶がそう言っているんだ!頼む!俺を......信じてくれ!」
「......わかった。何か俺にできることはあるか?」
だがレオは、必死になって聞こえてない様子だった。アルはとりあえず親友のことを信じて、見守ることにした
「頼む、戻ってきてくれ!クソッ!もっと強烈なショックが与えられれば!AEDなんてものがこの世界にあるわけないし......ん?電気ショック......!そうだアレだ!できるかもしれない!ちょっとエル!御者のシャツを脱がして、心臓を挟むように左胸元と右脇腹に手を置いて、さっきアルにかけた護身魔法をほんの一瞬だけ、かけてくれ!」
「え!今アレを!?え......えぇ、わかったわ!こ、こうかしら?」
エルはレオの言う通りにして、力を込める。髪が横にふわりと広がり、エルの身体が青白く光って一気に
「ぷはぁっ......!げほ、ごほ!ごほ!ハァ......ハァ......フゥ......フゥ......フゥ」
救護の甲斐あって、御者が奇跡的に息を吹き返した。3人は抱き合って喜ぶ
「レオ!すごいじゃない!本当に
「レオ......」
「アル、エル。俺を信じてくれて、ありがとう......!そうだアル。あともう一つ頼みたいことがあるんだ。」
そういうと、レオは山賊たちの遺体の方を見た。かつて人間であったその身体には、既に虫が集り始めている
「山賊たちを、せめて最後は人間らしく弔ってやりたい。手を貸してくれるか?」
「お安いご用さ!」
アルは間髪入れずにそう言うと、にっこり笑った
アルとレオは、ひとまず御者を、馬車に乗せると、馬車の後ろに積んであった脱出用のスコップを取り出して、近くに穴を掘り、山賊たちの遺体と手持品を中に投げ込んで、埋め戻した
「死者の魂よ、どうか安らかに......」
「ぐううう〜」
静かな祈りに水を指すような、大きな腹の音にアルは思わず吹き出しそうになるが、グッと堪えてレオの方をみると、なんだかやつれたような表情で、身体を横にフラフラさせたかと思うと、手と足を大きく広げて後ろにひっくり返った
「レオ!どうした!」
「は......腹が......減ってうごけない......し、死にそう......」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます