第14話 一瞬の出来事

 山賊たちの無茶苦茶な要求に、ただ拳を握りしめるアルだったが、突然レオが人質になると言い出した。だがその勇気は、火に油を注いでしまった


 「あん?貧乏貴族のにいちゃんよ。オンナの前でカッコつけやがって......黙ってろ!さもなくばジジイが死ぬぞ!」


 強い語気に少し震えるレオだったが、一度呼吸を整え、勇気を振り絞ってさらに続ける

 

 「わ、我はアンフィニ卿レオナルド・ヴァンケル。今し方、ミクラスの皇帝陛下に拝謁はいえつする途中であったが故、金銭は多く持ち合わせてはいない。このは、道中相乗りした商家の娘だ。なんの関係もない!私の身柄と引き換えに、どうか見逃してやってほしい!」


 山賊たちは、一瞬キョトンとしたが、すぐにそれは下卑た笑いに変わった


 「ぎゃはははははは!お前ら、聞いたかよ?オイ!何を言い出すのかと思いきや、そんな大ウソを!にいちゃんよ、どうせならもうちょっとマシな嘘をつくんだったな!あーあ、お前のせいで取引はだ」


 すると頭領は手に持ったナイフで、御者の胸部を突き刺した。血反吐を吐いて御者が地面に倒れる


 「お前ら!話し合いはお終いだ!野郎どもは皆殺しに!オンナはひん剥いて、たっぷり犯してからころs......あびゃぁ!」


 言葉を言い終わらないうちに、突如、頭領の身体は、後ろに吹き飛ばされ、木に激突した。さっきまで汚言を吐いていた口はあんぐりと空き、アルが持っていたはずの槍が、そこから生えていた


 「お、おかしら!!よくも.......って、あれ?オレいつのまにか空を飛んで......あれは、オレのかr......」


 宙を舞った子分の首が、地面に転がった。唖然とする生き残りの子分は、その場にへたり込み、後退りする。血濡れの剣を携えた兵士アルフレッドが、こっちに向かって歩いてくる


 「ひっ!ひいいいい、た...たしけて!たしけt......」


 願いが届くことなく、子分は脳天から真っ二つにされた。アルは何度か剣を振って血糊を落とすと、鞘に納めた


 「よっ、と♪」


 アルは木に引っかかったままの、山賊の頭領だった遺体から槍を引き抜くと、剣と同じように穂先についた血糊を払った。そして何事もなかったかのようにレオとエルのところに駆け寄る


 「2人とも無事か?どこか怪我してない?」


 にっと笑ったアルの服は、べっとりとついた返り血で真っ赤に染まっている


 「......アル、お前、よくそんな平気な顔ができるな......」


 わなわなと震えるレオは、アルの胸ぐらを掴む


 「お前は!ひ、人を殺したんだぞ!虫でも潰すように!なぜそんなに笑ってられる!」


 幼馴染アルが、いとも簡単に山賊たちを切り殺していく様を見て、レオは戸惑いを隠しきれず、アルに食ってかかる。だがアルは、動じることなくレオの目を真っ直ぐに見て、静かに言った


 「やらなければ、俺たちが死体になってた。俺は近衛として、仕事をした。主人に降りかかった火の粉を、払ったまでだ」


 「でも......!彼らも人間だった!愛する家族がいたかもしれないし、それに話し合えば、もっと分かり合えたかも知れなかったじゃないか!」


 「ご主人様。無礼をお許しください」


 そう言うと、アルの拳が、レオの頰を目掛けて飛んできた。その衝撃でレオが地面に転がる


 「これは友人として言わせて貰う!黙れ!綺麗事を言うな!」


 痛みに頬を抑えながら、レオはアルを睨みつけた


 「いってぇな、この野郎!何をするんだ!」

 

 アルはレオを見下ろしたまま、続ける


 「考えてみろ!俺たちに縁もない奴らが、金品欲しさに、命まで取ろうとしてるんだぞ。その時点で話が通じる相手じゃない。獣と同じだ!現に、何の罪もない御者のじいさんは殺された!」


 「で、でも、何も殺すことはなかったんじゃないか!」


 アルはレオの身体を起こすと、もう一発殴りつけた。もう一度地面に転がるレオ

 

 「わからないか!お前の言う通り、殺さず痛めつけて、逃したとしよう。ああいう連中は、次はもっと人数を集めて、俺たちを襲ってくる。そうなれば俺たちはあっという間に殺されてしまうだろう。だからここで、“根本”を断ち切らねばならなかったんだよ」


 「......」


 「レオ、お前は優しくて情に厚いやつだということを、俺は知っている。だが、この先、その行き過ぎた“甘ちゃん”な考え方が、俺だけじゃなく、エルも危険に晒すことになるんだぞ」


 二人の間に気まずい沈黙が流れる。すると、遠くからエルが息を切らしながら走ってきた


 「ハァ......ハァ......ちょっと2人とも!やめなさい!今言い争ってる場合じゃないでしょ!そんなことより急いで!御者のおじいさん、まだ息があるみたい!」


 アルはレオの手を取り、体を起こしてやると、相槌をうって、共に御者が横たわってる場所まで向かった

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