第13話 山賊

 ガタゴトガタゴトと、馬車は街道を行く


 帝国ミクラスの首都、ヴァルタンまでは丸2日かかる。一行は、途中にあるマズーダ領のピグモ村で、今日は一泊する予定だ


 「レオ、さすが貴族の馬車ね。うちにある荷馬車よりも乗り心地がいいわ。このフカフカの椅子も......ふぁ〜あ......なんだか眠くなっちゃった......」


 身支度で疲れたのか、エルがウトウトしだす


 「ミクラスまでの旅路は長い。エル、ゆっくりくつろいでくれ」


 そのうち、スゥスゥと寝息を立て、エルは眠ってしまった。その綺麗な寝顔に、レオはドキリとしてしまう


 邸宅で再会したときもそう思ったが、やはり似ている。前世、坂口晃さかぐちあきらだった頃、結婚を約束していた彼女、陽菜ひなに瓜二つだ


 「......陽菜」


 窓の外を眺めながら、物思いに耽っていると突然馬車がガタンと止まった


  「ん......何!?どうしたのレオ?」

 

 その衝撃で目が覚めたエルが、レオに尋ねるも、レオも外の状況が把握できていない。咄嗟に下げ込み窓を開けて、外のアルに尋ねる


 「アル!どうしたんだ!」

 

 アルは冷静な口調で、こう答える


 「山賊だ。今御者のじーさんが人質に取られている。レオとエルはそこにいてくれ」



 山賊の数は3人。そのうち無精髭で、お腹がでっぷりと出てるが筋肉質な、頭領おかしらと思われる男が、背中側から、御者の喉元にナイフを突きつけ叫ぶ


 「よう、兵隊さんよ。ここで客人と御者を殺されたくなかったら、俺たちの言う通りにしろ」


 アルは、馬車の中のレオに尋ねる


 「レオ、どうする?」


 「......とりあえず、言う通りにしよう......」


 アルは小さく頷くと、山賊たちに向かって話しかける


 「わかった、言う通りにしよう。俺も命は惜しいもんでね。それで何をすればいい?」


 山賊の男たちはニヤニヤ笑いながら、自分たちの要求が通ったことを喜んだ。頭領の男が口を開く


 「まず、客車から客を降ろせ。それが終わったら、この馬車ごと、ここに置いて立ち去れ。命が惜しけりゃ、決して、変な気は起こすなよ」


 アルは要求を呑み、馬車の扉を開けた。そして2人に降りるように促す


 「ほう、身なりのいいお坊ちゃんと、オンナが出てきた。これで全員か?おいお前たち、馬車の中を調べろ」


 子分たちが馬車の中を物色し始めた。アルは馬車の立ち台から降りて、返事を返す


 「お前たちの言う通りにした。その御者の老人を離してもらおうか」


 山賊の頭領はニヤニヤするだけで、なかなか決断を下さない。すると子分の1人が、残念そうに叫んだ


 「お頭領かしら!こいつらケチだ。水や食料はたんまりだが、金目のものなんてちょっぴりしか持ってねぇ」

 

 「なにぃ!?ふん!お前ら、これだけで命だけは助けて下さいって訳にはいかねぇな.......おい、そこのオンナも置いていけ。よく見りゃ、パイパイもケツもデケェし、なかなかの上玉じゃねえか!それなら命だけは助けてやる。どうだい?兵隊さんよぉ?」


 卑劣な要求に、アルは血が滲むほど拳を握り締め怒りに震えている。要求に従うとは言ったものの、エルを人質として渡せと言われて『はいどうぞ』と言えるわけがない。


 「お待ち下さい!人質なら私がなる!どうか、それでお許し願えないか?」


 そう言って立ち上がったのはレオだった


 

 

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