第11話 墓参り

 2日目の朝。アルは日がのぼると同時に起き出して、いつものように朝の鍛錬を済ませると、井戸を借りて水浴びをする


 「これはこれは、アルフレッド坊や......いや、アルフレッド様とお呼びしましょう。おはようございます。朝から精がでますな」


 今日もしっかり執事服バトラードレスに身を包んだポールがそこに立っていた


 「ポール、おはよう。少し井戸を借りてるよ」


 「構いませんよ......それにしてもアルフレッド様。逞しくなられましたな。しかし、お身体が凄い傷だらけで......」


 背中だけでも無数にある傷跡は、アルが兵士として幾多の戦場を潜り抜けてきた、何よりの証拠だ


 「まあ、いろんな戦いの刀傷やら、銃創やらだよ。どれがどれだか覚えてないが、こうして生きてるから全て勲章だ。ちなみにこの膝のキズは、昨日擦りむいた跡!なんちゃって!」


 ポールは思わずずっこけそうになるも、冷静を装って咳払いをした。そして、朝食の準備ができているから食堂に来るようにと言うと、ねぼすけ主君レオナルドを起こしに行ってしまった


 「......ふぅ、今日は久しぶりに、親父と兄貴に会いに行くか」


 身体をふき終わり、桶に汲んだ水を庭に水をまいたアルは、大きくつぶやいた



 「じゃあ、俺はちょっと出かけてくるよ」


 サッと朝食を済ませたアルは、まだパンを貪っているレオにそう告げると、アンフィニ卿の邸宅を後にした。街の花屋で、適当に見繕ってもらい、小高い丘の上にある共同墓地へ足を運んだ。その丘の中腹に二つの墓石が並ぶ


 「よお、親父、それに兄貴。久しぶりだな」


 アルフレッドの父、アルベルト・エンデ、そして兄のヨゼフ・エンデ。2人の名前がそれぞれ刻まれた墓石に語りかけ、花を手向ける。2人は3年前、漁の途中、大嵐に飲み込まれ、そのまま帰って来なかった


 一通り、墓石に世間話を聞かせ終わったアルは、墓地を後にして、しばらくぶりに実家に寄ってみることにした


 「ただいまー。お袋、いるかい?」


 だが、声が聞こえない。恐らくどこか出かけているのだろう。そう思ったアルは、ポケットから手帳を取り出して、そのうちの一枚を破って置き手紙を書いた


 『ただいま、俺は元気だよ。じゃあまた、生きて帰ってくるから。身体に気をつけて アルフレッド』

 

 そして軍服から小さな勲章を一つ取り外すと、置き手紙と共に机に置いた


 



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